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昨今の品質不祥事問題を読み解く 第20回 品質不祥事はなぜ起きるのか?(3)  (2018-10-1)

2018.10.01

 

前々回からお伝えしてきております、「品質不祥事はなぜ起きるのか?」、今回はその3回目です。

 

1回目では「品質不祥事の背景-グローバル経営の罠」を、2回目では「罠に嵌まる経営者」を話しました。3回目では「経営の本質と品質管理」について話したいと思います。

 

 

 

≪経営の本質と品質管理≫

 

2002年に起きたある企業のデータ改ざん不祥事に関しての社長会見の要旨が手元にありましたので、紹介します。

 

「今回の問題は、事故やうっかりミスによるものではなく、「データの書き換え」という安全性を云々する以前の「モラルや倫理面の問題」によって生じたということを何よりも重く受け止め、部門ごとに検討委員会やワーキングを作り、職員の倫理観やモラル、トラブル情報の流れや取り扱い、社内あるいは協力企業やメーカーとの間の業務慣行や人間関係など、企業体質や風土にまで踏み込んだ検討を行ってきた。

 

○ 今回の調査で痛感したことは、改善すべき体質や風土の問題の多くが、決して対象部門固有のものではなく、当社あるいは当社グループ全体に共通するものだということである。

○ 検討の結果、具体的には、次の方向で今後の風土改革を進めようと考えている。

 

 

1.社内の情報の流れを円滑にし、風通しを良くするということ。

 

「部下は上司の背中を見て動く」わけであるから、経営トップをはじめ幹部・管理職などリーダーが率先して社内の風通しを良くするよう努力することが大切である。

同時に個々人の考えや意見を尊重してその良さを引き出すよう努め、また徹底したディスカッションを通じて意識の共有ができる職場の雰囲気づくりを進めながら、経営の意志をわかりやすく社内へ伝えていくということが欠かせない。

例えば、社長や所長が直接語りかけるイントラネットホームページを設けることや、社内・グループ内から定期的に意見募集することを考えている。

 

 

2.社会との関わりを意識した業務運営・人材育成を進め、「開かれた企業」つくりをめざすということ。

 

これについては、積極的に地域活動へ参加することや、情報公開のあり方などについて社外からご意見を伺うモニター制度の拡充などを考えている。

 

 

3.モラルの徹底をはかり、協力企業等とのパートナーシップを醸成すること。

 

例えば、協力企業等に応対する際の私どもの行動規範を作成し徹底することにしたほか、協力企業との契約書の内容を総点検し、不明確条項の改善を進めている。」

 

 

 

ところが、この企業では3年後に同様な事例が発生し、社長の決意はもろくも崩れ去ってしまいました。

 

その時(3年後)の後継社長の記者会見の要旨です。

 

「検査結果や修理記録などで事実の隠蔽や虚偽の報告が行われた件について、本当に申し訳なく心からお詫び申しあげる。

結果は安全であっても、事実を偽った、虚偽があったという、例え手続きであれ仕事のやりかたの問題、情報の問題、これについては逃れようもない、ということでこの事実を厳粛に受け止めて私自ら責任を取ることにする。

今後、早急に全体の事実を解明して原因を追求するとともに、関係者のどこがどう悪かったのかを明確にして、責任追及と同時に今後の再発防止、信頼確保に立ち上がる策を講じていきたい。」

 

この例が示すように、企業風土の改善は生半可なことではできません。

特に大企業になると例えトップが言明しても、その下で実務を執り仕切る管理職が具体的に手段を決め、全従業員を対象に1つずつ活動を進めていかなければその実現は不可能です。

この企業は、不祥事を起こしたことに関しての世間への言い訳に企業風土改善を持ち出しただけで、本気になって企業風土改善をしようとはしなかったと思います。

経営は本来、スローガンを掲げて皆を鼓舞するような活動ではなく、科学的な活動の集合です。

品質管理も体系的で、経験的に実証可能な知識の集合ですので、経営と品質管理は親和性のある組み合わせであり、品質経営という言葉もあります。

 

 

本気になって企業風土改善をしようと思ったら、品質管理の手法の一つである方針管理を導入することが良いと思います。

企業風土改善は既存のプロセスの中でやろうとしても難しく、新たな考え方、方法の導入、部門間の連携強化などの改善、革新に取り組む必要があります。

 

方針管理は、「展開」、「集約」及び「環境変化への対応」の3つの流れから構成されます。

展開は、組織の階層に沿って、企業風土改善という組織の最上位の目的を、「目的 一 手段」のつながりをもとに、より具体的な実行すべきことに展開します。

基本的には、組織の階層の上位から下位に向かって展開されますが、上下左右の密接なすり合わせも必要となります。

集約は、各部門における目標の達成状況や方策の実施状況を確認、評価し、「目的 一 手段」のつながりをもとに下位の課題、問題を上位の課題、問題へと集約します。

上位から下位に向かって展開されたものは、下位から上位に集約されたものと整合しているか確認、評価します。

基本的には、組織の階層の下位から上位に向かって集約されますが、課題、問題に関する上下左右の密接な議論と共有が必要になります。

環境変化への対応については、組織の各階層において、方針に関係する外部及び内部の環境条件を定常的に監視し、企業風土改善の達成、実施に影響を与えるような変化があるか確認します。

変化が確認された場合は、上位及び下位の方針との整合性を保ちながら、臨機応変に方針を変更します。

このような基本構造は、目的達成のために考えられていますので、組織の状況に応じて柔軟に適応させることがよいと思います。

たとえば、ある階層から次の階層に機械的に展開せずに、直接、数階層下位の階層に展開することが良い場合は、既存組織ではないプロジェクトチームを展開してもよいと思います。

 

この実施のやり方はバランススコアカード(BSC)と同じです。

バランススコアカードの場合、上位から下位に向かっての展開と、下位から上位に集約されていく確認、評価を次のようなキーワードでチェックします。

上位から下位に向かっての展開に対しては “How to do” がキーワードです。

下位から上位に向かって集約されていくものに対してのキーワードは “Why – Because” です。

例えば、最上位を「企業風土改善」として、その改善をどのように行うのかを、How to doと聞き、手段へ導こうとします。

BSCではその手段を原則4つ上げるとしています。

財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、人材と変革の視点の4視点から考えた手段を上げます。

この論理展開を4階層くらい行うと企業の実務階層に行きつきます。

今度は、下位から上位に向かって“Why”と聞き、“Because”と答えられれば、矛盾なく論理構成されていることが確認できます。

品質管理には、方針管理以外多くのツールがあります。

戦後の日本の製造業を支えた各種手法、ツールを活用している企業は沢山ありますが、いつの間にかその活用のレベルが低下してきているのではないかと懸念します。

 

さて、話を企業風土に戻します。

風土あるいは文化は掴みどころがなく、あなたの会社の風土はどうですか、と聞かれても答えることが難しいものです。

企業には、それぞれに個性があり、特徴があり、時々あなたの組織を動物に例えるとどんな動物ですか、あるいは、あなたの組織を色で表現すると何色ですか、というような質問が投げかけられて、はじめて風土のイメージが湧いてきます。

 

IAEA(International Atomic Energy Agency:国際原子力機関)では文化に関して次のような説明をしています。

・文化は次の3要素から構成される。

 

-人為的なもので見えるもの

具体的には、人々の振舞い、挨拶、礼儀、服装、話し方などである。

 

-信奉しているもの

組織の行動原理、信条、価値観、戦略などで顕在化が可能なものである。

 

-人々の内面的な思い

組織にいる人々の本性、尊重基盤であり、 無意識的で通常は明示されないものである。

 

組織の文化/風土のレベルについてはいろいろ議論がありますが、時に応じて人々の意識調査を行うことがよいと思います。

特にコンプライアンスの徹底に関しては、定期的な意識調査が有効であると思います。

ある大企業は、外部調査員がランダムにインタビューを繰り返し、13要素視点から企業風土維持状態を評価しています。

他の企業では、組織全体を階層別メッシュで覆い、あらかじめ決められた細かさでサンプリングを行い、多くのアンケートデータを統計的手法で数値処理(重回帰分析、有意差検定等)し、企業風土維持状態を定量評価する方法を試していますが、成果を上げたという声は聞こえてきません。

結局は、企業自身が文化/風土の測定基準を考え、よい文化/風土とは何か、わるい文化/風土とは何かについて、組織をあげて徹底的に議論することが何より重要だと思います。

 

次回に続けます。

 

(平林 良人)

 

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