会長インタビュー
かつては「品質立国」と呼ばれ、工業分野を中心に高品質な製品を輸出することで発展してきた日本。1990年代からは品質管理の国際規格であるISO9001が国内にも浸透し、数多くの企業がこの規格に基づく認証を取得することで、一定レベルの品質保証が広まりました。 しかし、ISO9001の取得自体が目的化してしまうことについては懸念の声も挙げられています。品質経営のあるべき姿とはどのようなものなのか、超ISO企業研究会会長である飯塚悦功東京大学名誉教授にインタビューしました。
―― 品質経営のあるべき姿を目指して「ISO」から脱却し「超ISO」に取り組むとは、具体的にどのようなことを意味しているのでしょうか?
品質管理は本来、人に言われて取り組むようなものではありませんでした。質の良い製品・サービスを提供することは企業の使命であるし、それが継続的に企業を成長させるための一番の手段だからです。
国際規格であるISO9001が普及したことによって多くの企業が安定した品質を維持できる組織基盤を構築できましたが、一方で「ISO9001を取得することが品質管理の目的」との誤った認識をする企業も増えているように感じます。
こうした現状から脱却して、顧客のニーズに応える製品・サービスを提供することこそが企業の目的であり、優れた品質マネジメントシステムの構築がそのための有力な手段であることを理解し、改めて真の品質中心経営を極めようとすることが「超ISO」の本意です。
―― 具体的に「超ISO」に取り組み、成功した企業はあるのでしょうか?
これまで約20社にコンサルティングを行ってきましたが、難しい課題も多く、私たちが想定している理想の「超ISO」を実現できている企業は多くはありません。しかし、継続して取り組んだ結果、成果をあげた企業もあります。
たとえば、ノイズ・サージフィルター(家電製品などにとりつけノイズ吸収、落雷対策ができる部品)を作っている企業の事例をご紹介しましょう。この企業は毎年利益率が10%を超えていましたが、どういった工夫でそこまで継続して成長できたのかコンサルティングをしてみたところ、3つの強みがあることがわかりました。
1.絶対に火を吹かない製品の信頼性
2.顧客への技術支援無料コンサルティング
3.顧客に呼ばれたらすぐに駆けつけ対応する営業スタイル
上記の強みによって、顧客は競合ではなくこの会社の製品を選んでいました。このことを継続的に確実にするためには、この強みを品質マネジメントシステムに埋め込み、日常的にその実力を発揮できるようにしなければなりません。
これは、ISO 9001への適合という受け身ではなく、自律的に品質マネジメントシステムを構築し、運用するという「超ISO」の考え方につながります。
同社の1番の課題は「絶対に火を吹かない」という高信頼性をいかに維持するかでした。それを達成するためには、資材調達部門の管理、設備管理、製造工程の変動にも対応できる監督者の育成、海外の工場の管理が必要なことがわかりました。
このように自社の強みを知り、目標を達成するために何が必要かを考え、そこを補い管理することが「超ISO」に求められる能力なのです。
―― 品質経営を進めるにあたり、企業が重要視すべきポイントは何ですか?
先ほども挙げたとおり自社の強みを知ることがとても大切ですが、一方で、時代の変化に適応してその強みを変化させる勇気を持つことも大切だと思っています。市場は3~5年という早いスピードで変化しており、その変化によって市場のルールも変わることがあります。そのときに自社の強みが弱みとなってしまう可能性もありますし、逆に弱みが強みに変わる場合もあるので、その変化を見逃さず、場合によっては自社の強みを時代に合わせてシフトさせる勇気を持つことが必要だと思います。
また、経営者のなかには短期的な利益にとらわれすぎている方が多いと思います。経営の本来の目的は会社を持続的に発展させることです。そのためには製品・サービスを通して提供する価値を顧客に評価し購入してもらうしかありません。リストラや事業の売却などで目先の利益を得ることよりも、品質向上に努めて利益を上げ、その利益を原資として更なる価値を提供することの方が企業は永続的に成長できると思います。つまり、品質中心経営が、経営における本質だということです。
―― リソースが少ない中小企業には、品質経営は難しいのではないでしょうか?
確かに中小企業は人員も資産も大企業のものと比べると少ないですし、技術力の幅も狭いと思います。しかし、大企業は複数の事業を行っているからこそ大企業とされる場合がほとんどであり、単一の事業ドメインを見てみると中小企業と規模が変わらないことがよくあります。そのなかで中小企業は事業規模に影響されない分野のドメインを見つけて自社の強みを活かすことができれば、大企業に負けない企業経営を行うことが可能だと思っています。
―― 最後に、品質経営に取り組む経営者の方々にメッセージをお願いします
自社の事業ドメインに注目したときに、競争に不利と思えた分野が果たして本当に不利なのか改めて考えてみてほしいと思います。例えば、人数が少ないことを不利だと感じている場合、人数が少ないからこそ素早く動ける、意思疎通が図りやすいなどと捉えると、有利な点に変わるはずです。
このように、「強み」や「弱み」はルールや基準が変わることで変化し、時に大きな味方になります。一見不利だと思えるような事業内容でも、戦う場所を変えることで大きなチャンスを得られる可能性があるということを忘れないでほしいと思います。そのために、変化する事業環境において、顧客にどのような価値を提供すればよいか、どのような能力を持つべきかを明確にしつつ、自らの強みを活かした顧客に認められる価値を提供し、持続的に成長できる企業を目指してほしいと思います。