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昨今の品質不祥事問題を読み解く 第13回 産業界から不祥事を考える-建設業で今起きていること(2)  (2018-8-6)

2018.08.06

 

 

前回のメルマガでは,リニア談合疑惑の不祥事などを例にとり,建設業で今起きていることを読み解きました.

 

そして,TQM(総合的品質管理)の視点から広義の品質を捉えて,ISO 9001を良い意味で誤解して拡大解釈した品質マネジメントシステムを構築することが,企業の持続可能な発展に貢献することへの展望を述べました.

 

今回のメルマガでは,TQMの視点からISO 9001を事業活動にどのように統合していくかを,私の会社の経験から学んだことを通して読み解こうと思います.

 

 

 

 

■経営のツール:TQM

 

TQMの視点は,製造業だけでなく建設業にも勿論活かすことができます.

私が勤める建設会社は,大手ゼネコンに次ぐ準大手・中堅ゼネコンの位置にあり,1980年代にTQC(現TQM)を導入しました.

 

バブル期に不動産など本業以外の事業領域に慣れぬ手を染めた準大手・中堅ゼネコンの多くは,バブル崩壊,リーマンショックなどの経営環境の変化に適合できず経営不振に陥り,吸収・合併などによって淘汰されていきました.

 

私の会社が,もし経営のツールとしてTQMを継続していなかったならば,電話帳から名前が消えていたかもしれないという感慨を抱いています.

 

 

 

 

■TQMの視点とは?

 

TQMは何を目指しているのでしょうか.

 

日本品質管理学会の「品質管理用語」ではTQMを「品質/質を中核に,顧客及び社会のニーズを満たす製品・サービスの提供と,働く人々の満足を通した組織の長期的な成功を目的とし,プロセス及びシステムの維持向上,改善及び革新を全部門・全階層の参加を得て様々な手法を駆使して行うことで,経営環境の変化に適した効果的かつ効率的な組織運営を実現する活動.」(JSQC-Std 00-001:2018)と定義しています.

 

この定義は少し長文で難解ですね.

 

TQMの視点は,第一義に,顧客価値を提供する製品・サービスの品質・質を中核に置いています .

 

そのもとで,顧客・社会・働く人々の満足を満たすために,プロセス・システムの維持向上・改善・革新,全部門・全階層の参加,様々な手法の駆使を実践します.

このことによって,経営環境の変化に適した効果的・効率的な組織運営を実現し,その結果として長期的に成功するという思想が骨子になっています.

 

TQMの主要な活動には,基礎となる品質管理教育,日常管理と方針管理に関する維持・改善,維持・改善のための小集団改善活動,そして,これらに支えられた品質保証(特に顧客価値創造)を全員参加で実施することなどが挙げられます .

 

 

 

 

■TQMの視点でのISO 9001への取組み

 

TQMを実施することによって日本的な意味における品質保証の仕組み―例えば,品質保証体系図など―を確立できます.

これをISO 9001が定義する品質保証という切り口から品質マネジメントシステムとして明示することで要求事項への適合を概ね実証することが可能です.

これは一つの考え方です.

 

しかし,これだけでは企業経営の全容を捉えているとは言えません.

企業が持続可能な発展をしていくには,日常管理,方針管理,新製品開発,原価管理,受注管理,安全管理,人材育成などのプロセス・仕組みも必要になり,TQM実施によって体系的なプロセス・仕組みの確立が望めます.

これらの実態あるプロセス・仕組みを,良い意味で誤解して拡大解釈したISO 9001の品質マネジメントシステムに実装することはそれほど難しくなく,企業経営と自然体で一体化した品質マネジメントシステムの構築が促されます.

 

 

 

■不祥事を防ぐ企業文化の醸成

 

不祥事にかかわる業務の問題点が顕在化するまで長期間にわたり企業内で引き継がれることで,第一線職場の従業員から経営トップに至るまでが受容する悪い企業文化が醸成されてしまう様相が,昨今の不祥事から伺えます.

企業文化は長年にわたり培われますから,この変革は容易ではありません.

その結果,経営トップの刑事責任追及や,過去想像し得なかった大手企業の経営破綻・統合などを余儀なくされています.

起業精神を継承する正しい企業文化を維持することの大切さが浮かび上がります.

 

TQM導入以前,私が勤める建設会社も品質問題や安全にかかわる大事故などの不祥事を起こし,経営危機に直面しました.

この危機を乗り越えた根幹を見据えると,

第一に,起業の起点となった本業の組織能力を創業理念「良い仕事をして顧客の信頼を得る」を踏み外さず高めていく経営トップの強固なポリシーが揺るがず ,協力企業を含む第一線職場にまで経営トップ自らがこのポリシーを訴求して浸透していたこと .

第二に,経営トップのポリシーを実現するための経営管理手法を活用したこと.

 

経営を健全化するツールとしてTQMが大きな役割を果たしました.

 

品質保証を中核に広義の品質を捉えたTQMを企業文化にすることで,堅実な企業経営が促されたと言えます.

このことは,ISO 9001の0.2「品質マネジメントの原則」と5「リーダーシップ」の実効性に大きく貢献します.

 

 

 

 

■内外コミュニケーション

 

建設業に限らず素材メーカーや自動車会社で不祥事が発生しています.

このときに,経営トップ自身が現場の実情をよく認識していなかったり,また利害関係者に対して適切な説明責任を経営トップが果たせなかったりしたことなどから,経営責任が問われています.

内外コミュニケーションの稚拙さが露見したと言わざるを得ません.

 

TQMの一環としてコミュニケーションを良くする様々な工夫が行われています.

例えば,経営トップ自身による三現主義での現場診断の実施,「後工程はお客様」の考え方に立った品質保証体系図のもとで協力企業と役職員との緊密な意思疎通,悪いニュースの迅速なボトムアップ,万が一何らかの不祥事発生時に利害関係者ヘ真摯で丁寧な説明など.

ISO 9001の7.4「コミュニケーション」にTQMで培った工夫を取り込むことで,不祥事の芽を摘むことや不測事態が発生したときの誤らない対処を賢察できそうです.

 

 

 

 

■事業リスク評価と企業統治体制

 

建設業では,品質データ捏造や独禁法抵触などが今なお絶えません.

 

品質不祥事や法令違反は,発注者による入札指名停止などの受注機会を失うことや,何よりも発注者(その先にいる使用者・利用者)との信頼関係を失うという深い痛手を負います.

信頼関係の構築は長い年月が必要ですが,不祥事で一夜にして信頼関係を失墜します.

 

したがって,良き企業市民であれかしとの経営思想を持った企業では,事業リスクを利害関係者の視座から評価し,企業統治を行っていく態勢づくりが進められています .

ISO 9001の6.1「リスク及び機会への取組み」を事業活動の全領域を対象にしたリスク評価とその管理に内包することは企業にとってより実質的と言えます.

また,9.2「内部監査」を企業統治の一環として適正な業務運営体制を確保するための総合的な内部監査と一体化することもできるでしょう.

 

これらのことによって,ISO 9001が標榜する「組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする」ことの実効性が高まると思われます.

 

 

今回のメルマガは,TQMの視点からISO 9001を事業活動に統合していく考え方の一端として,TQMの視点を加味したISO 9001への取組み,良い企業文化の醸成,内外コミュニケーションの仕組みの確立,事業リスク評価と企業統治体制を取り上げました.

 

ISO 9001を良い意味で拡大解釈できる余地はまだたくさんあると思います.

企業の健全で持続可能な発展のためにISO 9001をより有効に活用するヒントにメルマガが活きれば幸いです.

 

(村川 賢司)

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