昨今の品質不祥事問題を読み解く 第10回 品質不祥事問題と中小企業(2) (2018-7-17)
2018.07.17
前回は、大手企業の相次ぐ品質不祥事に端を発して、中小企業でも「うちは大丈夫かな?」と調査した結果、虚偽報告をしていた例を2つ挙げてみました。
今回は、この2つの事例を、ISO9001QMSの視点から紐解いていきましょう。
3. A社とB社の事例から考える(1)
A社の例は、材料の変更が当該製品のある特性に影響を及ぼしてしまい、規格値に入らなくなってしまったことに端を発した事例でした。
ISO9001の「8.5.6変更管理」の問題です。
ただし、製造段階で発生した変更ではあるものの、実際には製品の設計変更であり、「8.3.6設計の変更」を適用して、必要なレビュー、検証、妥当性確認を実施して、変更が許可されていかなければならないのですが、これが十分に行われなかったのです。
顧客から要望された変更であったこともあり、その甘さもあったようです。
それでも最初は、毎回「特別採用」の手続きに沿って、顧客の承認も得て納入していたものが、その手続きの面倒くささから、ある時に虚偽のデータを報告し、いつのまにかそれが当たり前になって行ってしまったのです。
さて、この事例から垣間見えてくる本質的なものは、“従業員の品質に対する認識の甘さ”であり、“顧客と話し合いの不徹底ぶり”です。
ここではまずは、後者について掘り下げます。
材料変更により、製品の関連する特性値のバラツキが大きくなってしまったのか、平均値がずれてしまったのかなどの結果をデータで明らかにして、それが顧客の製品に対してどう影響するのかしないのか、ということを徹底的に顧客と話しあって、例えば、規格値の見直しなどをしなければならなかったのに、それを怠ってしまったのです。
そんな同じ視点で、B社の例も見てみると、これは現場での虚偽データの記録でした。
不思議なのは、このことを当事者以外の人がなぜ発見できなかったのでしょうか?
品質管理の勉強を始めるとまず習うことがバラツキの話です。
そしてそのバラツキは一般的には「正規分布」をしていて、それを棒グラフ(ヒストグラム)にすると“釣り鐘”状の形をするのです。
このことからいろいろな工程の情報が得られるということ、例えば、測定者が意図的に測定値を無理やり規格に入れるような正しくない記録をすれば、その形は「絶壁型」になる、と学びます。
人が嘘をついてもデータは嘘をつかないということは、QCの基本中の基本です。
正しいQC手法を学び、それを活用することが重要なのです。
これは、ISO9001の「7.2力量」の問題に関連します。あなたの会社は、この力量の不足、あるいは低下がないでしょうか。
4. A社とB社の事例から考える(2)
ISOのシステムでは不適合が発生すると、これの修正処置と是正処置を実施し、その記録を保持することが要求となっています。
B社の例では、この手続きが大変なので、少しくらいの逸脱であれば入ったことにしよう、とつい考えてしまったと言っていました。
よく考えるとこれは言い訳であって、本音は、作業者達にとってはその後に来る修正や是正の処置そのものが大変なのです。
でもこの”大変なこと”、すなわち、「改善」が出来るか出来ないかが、会社の将来にわたる競争力につながると言うことを教え込まなければいけないのです。
一方、A社の例では、決められた正しい作業・業務を行うこと、そして改善することの重要さに対する「認識」があまりにも低い、ということが読者の方はすぐにお気づきなったはずです。
これらの「認識」の重要さから、新しい規格では「7.3認識」を抜き出して強調されましたが、このことに気づいて意識して対応している組織は、残念ながら少ないようです。
QMSで決めた基準を守ることの重要さ、これを逸脱したときの与える影響、そして改善することの重要さなどについて、従業員全員に対してしっかりと認識させるために、あなたの会社では、どんなことを、どのように実施しているでしょうか。
特に、新人の教育時には作業手順書を元にして、品質に対する考え方も含めてみっちりと訓練することが大事です。
そのためには、教育に使用できる手順書の整備や、なぜその手順や基準が大事なのか、過去に起きた失敗など、先輩の生きた経験を現場で伝承する環境作りが大事です。
先輩も、教えることで、自らの”認識”教育にもなるのです。
また、「改善」は押しつけられたものではなく、現場の人たちの自主的な意識の元で実行されることで効果が発揮できます。
このような企業風土となるために、組織の中に改善が推進される「場・機会・仕掛け」を導入することは、経営者の重要な役割でもあります。
5. なぜ社内で問題を早くに発見できないのか
品質管理では、原因は発生原因と流出原因を追求することが基本となっています。
そのような、品質記録の改ざんが、なぜ早い内に発見できなかったのでしょうか、そんな流出原因を探ると最初に突き当たるのが、内部監査です。
内部監査でなぜ発見できなかったのでしょう?
特に中小企業においては、内部監査がうまく機能しないで形骸化している例は結構あります。
その代表的なパターンに2つあります。ひとつは、規格の裏返しのチェックリストを何年も金科玉条のごとく使っている例がひとつです。
もうひとつは、この逆で、監査対象部門又はプロセスの重要な点を2つか3つ挙げて、この確認で終わらせてしまうタイプです。
いずれもこればかりでは効果的な方法とは思えません。
最近ある審査員が、ある中小の組織に審査に行った時の話です。
従業員100名程度のこの会社(製造業)の社長は
「うちの会社は大丈夫と思うのですが、念のために調査を指示しました。今日の審査でもよく見てください」
ということでした。
審査員はさっそく(言われなくとも)いつものように、現場に行って、現場の人たちが工程内で決められた特性値をチェックして記録している様子を観察し、その結果を記録したものをみせてもらいました。
記録は、いったん現場内にある帳面に手書きで残され、それを夕方にまとめてコンピュータに入力しているとのことなので、今週の分の帳面の記録とコンピュータに入力されているデータが一致していることを確認しました。
ついでに、これらのデータに偏りがないかどうか(例えば、異常に規格値の限界に近いデータが多くないかどうか)も確認しました。
さてこのPCに入力されたデータは、今度は、品質保証部の担当者が、これを利用して顧客に提供する「試験成績表」を作成していますので、この成績表を出してもらい、これが一致していることを確認しました。
審査員は、これらのことを一連の監査の流れの一部として意識してやりましたが、これは特に高度な監査テクニックでも無く、内部監査でも出来る、監査の基本的な方法です。果たして内部監査ではこのような現場・現物の調査をやっているでしょうか?
監査はサンプリングですから、見つからないこともあるでしょうが、やらなければ見つかるはずはありません。
今回のメルマガは、こんな問題提起をして、次回も続けて監査の話を続けましょう。
(丸山 昇)