QMSの大誤解はここから始まる 第28回 ISO 9001認証を受けた会社は市場クレームを起こさないんですよね。(7) (2018-4-23)
2018.04.23
「認証審査」について
前回からの続きを早速始めたいと思います。
■適合=非「不適合」なのか
認証の信頼性を考えるにあたり、その基礎となる「適合」についての考察から始めたいと思います。
適合性評価における「適合」とは何でしょうか。
字義通りとするなら「(適合)基準を満たしていること」となるのでしょう。
でも、いまきちんと考えたいのは「基準を満たしている」ということの意味です。
私はJABのMS認定委員長を10年以上務めましたが、その初期に「不適合」を証明できなければ「適合」なのかとの疑問を持ちました。
審査における検出力不足による不適合の見逃しと「適合」をどう峻別すればよいのか、と首をひねりました。
認証基準のなかには「~を確実にするため」「~のために必要な」「~のための適切な」「~のため~をせよ」というような目的を示す要求事項もありますが、こうした要求への適合の判断を信じてよいのだろうかと悩みました。
MS認定審査では、MS認証機関が有すべきこうした適合性判断能力を確認するわけですが、その確認能力を信じてよいのだろうか、と懸念を持ったこともあります。
同様に、「認証」とは何でしょうか。
MS認証の場合、基準に適合するMS(マネジメントシステム)を設計・構築・運営・改善する能力を保有していることの証明であると言ってよいでしょう。
そうであるなら、認証審査で検出できた不適合の是正だけで認証してよいのでしょうか。
検出力不足によって不適合の指摘がないとき、認証してよいのでしょうか。
「マイナスが検出できないか、検出したとしても是正できればよい」という考え方で、本当に「能力証明」と言えるのだろうか、という疑問です。
■灰色は黒と見なすべきではないのか
JIS Q 17021-1:2015(ISO/IEC 17021-1:2015)の<4.4 責任>の一項として、「4.4.2 認証機関は、認証の決定の根拠となる、十分な客観的証拠を評価する責任を持つ。
認証機関は、審査の結果に基づいて、適合の十分な証拠がある場合には認証の授与を決定し、又は、十分な適合の証拠がない場合には認証を授与しない決定をする。」という規定があります。
この規定文中のうち、「適合の十分な証拠がある」とは、「不適合が検出されないか、検出された不適合が是正されている」ということでよいのでしょうか。
私には、にわかには、そうは読めません。
もちろん、適合性判断能力に優れた審査員が優れた審査方法で審査して、ということなら受け容れます。
不適合がなければ適合という判断をするのであれば、少なくとも審査方法については相当に検討してみる必要があると考えます。
不適合がなければ適合、しかも不適合を証明できなければ適合、という考え方は、刑事訴訟における「疑わしきは罰せず」という原則と同じと理解されているようです。
しかし、これは大きな誤りではないでしょうか。
刑事訴訟の直接的なねらいは「有罪を的確に罰する」ことにあります。
刑事訴訟法の何たるかを論ずるには、その目的とも言える「教育」(社会学習、抑止)と「懲らしめ」などに言及すべきですが、ここでは論点が異なりますのでこれ以上は触れません。
刑事訴訟における基本原則は、最初に設定する(帰無)仮説は「無罪」であって、(有罪の)証拠があれば「有罪」、不十分なら「無罪」、もちろん無罪の証拠、例えばアリバイがあれば「無罪」というものです。
一方で、認証は、能力の実証により授与されるもので、その本質は「有能を認知する制度」というところにあります。
その基本原則は、(帰無)仮説は「白紙」(能力の有無は不明、仮に「無い」とする)であって、適合していることが実証されれば「適合」、実証できなければ適合とはいえず「不適合」(もちろん、不適合が実証されれば不適合)というものであるはずです。
なぜ、このような正反対に見える解釈が可能なのでしょうか。
私は、いずれも「誤判断による危険の最小化」の原則に従っているからだと考えています。
すなわち、冤罪の方が、有罪なのに無罪になるより重大であり、無能なのに有能と認知されることは、有能なのに無能と見なされるより重大と考えているということです。
■ISO 9001適合とは何か
私は、長いことISO 9001に基づくQMS認証に関与してきました。
JABのISO 9001シンポジウム(MS公開討論会)の全体主査を務めてきました。
その過程で、「ISO 9001適合とはどのような“状態”を言うのか」について、議論し考察してきました。
それは、ISO 9001の各条項に適合していることなのか。
ISO 9001の各条項への不適合を証明できないことなのか。
しかも、サンプリングで対象になった要素に対してのみなのか。
もし、不適合を見逃してしまったら適合なのか。
これらに対しては、そうではないとの合意が得られました。
目的を示す要求事項(例:~のため、必要な、適切な)への適合の判断基準は何か、という上述した難しさについても検討した覚えがあります。
私なりの結論は、ISO 9001要求事項の「意図」への適合、すなわち、ISO 9001要求事項に適合したときに発揮できると期待されるQMS能力が、現実に保有され将来にわたって維持できると判断できるとき、ISO 9001適合と言えるのではないか、ということでした。
しかも、適合の実証によってはじめて「適合」と言うべきであって、適合と確認できなければ「不適合」とすべきだと考えました。
こうした審査ができるためには、認証組織の製品・サービス、その実現プロセス、市場・顧客、基盤技術、業種・業態、組織の沿革などの特徴を踏まえ、当該組織がISO 9001適合と言える「状態」に関わるモデル、端的に言うなら、当該組織が有すべき「QMS能力像」を持つべきではないかと考えます。
私は、ISO 9001の認証審査の経験はなく、品質経営に関してはデミング賞の審査・診断の経験、経営品質賞の委員であるに過ぎません。
ここでの学びは、審査・診断していることは「組織能力」であるということでした。
個々の様々な事象からQMS能力に関わる側面を特定し、それらが当該組織のあるべき能力に関わるものであれば、指摘するようにしました。
これができるためには、当然のことながら、組織のあるべき姿、持つべき能力のモデル、仮説を持つ必要があります。
この後は、いよいよ最後になりますが次回に続けたいと思います。
(飯塚 悦功)