QMSの大誤解はここから始まる 第7回 どうやったらISO9001が楽に取れますか?(2) (2017-11-20)
2017.11.20
前回 は、ISO9001QMSを構築し、その認証を取得するのに安易に楽をしようとすると、その見返りで思わぬ後遺症を残して苦労をしてしまう事が多いこと、長い目で見るとそれがちっとも「楽」ではなかったことの事例を挙げてお話ししました。
今回は、この原因を少し紐解いて、これから認証を取得 (ISO9001QMS構築) することは元より、その再構築、あるいは継続的な運用のための、より効果的な方向性を探りましょう。
5.なんでそうなったの?
前回のような組織(A社)も、決して好き好んで取った処置ではなかったはずです。その原因には大きく3つあるでしょう。
ひとつは、ISO9001規格が難解であり、とっつきにくいこと。
規格に書いてある用語は、普段使っている言葉にほど遠く難しい。
ISO9000には用語の定義もしてありますが、これを読むとますます分からなくなってくる。
初めてこれを読んだ人には、なにか別世界のような錯覚をさせてしまうのです。
判らないだけでなく、新たにやらなければならないことがある。内部監査、マネジメントレビュー、プロセスの監視、場合によっては、目標管理など、やり方が分からないことや、やりたくても出来なかったことなどもあります。
ますます敷居が高くなる。
もう一つは、特に小規模・中小企業では、人がいない。
そうでなくとも人手不足の中でこの活動(ISO9001QMSの構築・運用)に割ける人がいない。
なんとか居ても、この仕事を任せられるような能力を持った人材がいない。
これは結構、深刻な問題かも知れません。
6.ISO9001はほんとに難しい?
さて今回は、最初のISO9001は難解である、と言うことについて取り上げましょう。
ISO9001規格で要求していることと、自分の組織の業務と結びつけられると、この事の大部分が解決するのですが、これがなかなかむずかしい。
筆者は、長年、ISO9001の初心者の方たちに、仮想の会社の業務の実態を書いたものから、ISO9001の要求事項を特定してもらう訓練を通して説明をすると、比較的容易に理解をしてくれる経験をしています。
ただここで必ず出てくる問題が、“同じような要求事項が一杯あってその違いが分からない、複数ある規格の要求事項のどの要求事項につながるのか、どれだか判らないという、ため息混じり苦言(?)です。
例えば、変更管理の問題がでると、ある人は、6.3変更の計画、ある人は8.2.4製品及びサービスに関する要求事項の変更、ある人は、8.3.6設計・開発の変更、ある人は、8.5.6変更の管理と、それぞれの人がなるほどと思うような理論を展開して、主張します。
これはほんの一例で、同じように迷い、焦燥を募らせる場面がしばしばです。
この問題は、「プロセス」を理解してもらうと、結構解決するのです。
当該の組織がどんなプロセスを持っていて、どのプロセスで起きた問題なのかということを明らかにして、規格のプロセスと対応させて説明すると、ほとんどモヤモヤは解消します。
7. “楽な”ISO9001QMS(再)構築法、維持法とは
さてこのことから、QMSの構築・運用を考えてみましょう。
前回で説明した“楽にISO9001QMSを構築して認証を取得しよう”と取り組んだやりかたに共通なことは、最初にISO9001規格の要求事項があり、これを満足する品質マニュアルが出来て、その後に、これに合わせて自分の組織の業務を(場合により新たに)規定しています。
これだと、ISO9001のために自分たちの仕事があることになります。
ところが、自分の組織の業務から、規格を見ると理解しやすくなるし、なによりもISOと自分たちの業務の立場が逆転して、身近になります。
具体的には、自分の組織の特定したプロセス(例えば、営業プロセス、設計・開発プロセスなど)の実作業の業務フローを作って、これをベースにしてISO9001QMSを構築して、運用するのです。基本手順は次のようになります。
①自社のプロセスごとに実態を、業務フロー図に整理する
②対応するJIS規格の要求事項と対照する
③プロセスの期待するアウトプットを出すために(品質保証をするために)、不足・不十分があれば補強する
言ってみれば、な~んだ、そんなことか、と失望するかも知れませんが、でもこの基本が大事なのです。
前回のA社 の場合が好例です。
A社は、規格の要求事項に適合するように、しかも他社のQMSの枠組みを持ってきて、これが認証取得のための方法と盲目的に信じ込み、その意味もあまり考えずに、QMSを構築しました。
これが、当社のプロセスごとの業務実態を可視化して、ここから規格の要求事項を考えて構築し、運用すれば、新たに追加する事はなにも無かったのです。
また、そのプロセスの中でも、ISO9001の要求事項から、しっかりと守らなければならない要点が押さえられ、さらに審査という外圧の活用や、内部監査という自分たちの努力で改善を進めることで、その品質保証レベルも上がるのです。
8.おわりに
「今は昔」ではじまった今回のテーマ、本当に昔のことならよいのですが、少しでもその後遺症が残っていると自覚症状のある組織は、今からでも遅くありません。
ぜひとも、前記のように自社の業務をフロー図などで可視化して、これを本当にお客様の満足を提供できるしくみとして改善するために、ISO9001の要求事項を改めて考えてみて下さい。
今回の規格改訂で、いろいろな組織の新しいマニュアルをずいぶんと見ましたが、ちょっと心配になりました。
また、規格の言葉をそのまま移して、あの経験をまた繰り返そうとしているのではないかという不安感です。
いままでの運用の中で、書き込み使い込んできた大事な、自分の組織の言葉を大事にしてほしいのです。
(丸山 昇)