QMSの大誤解はここから始まる 第6回 どうやったらISO9001が楽に取れますか?(1) (2017-11-13)
2017.11.10
QMSの大誤解シリーズ、今回と次回は、「どうやったらISO9001が楽に取れますか?」です。
では以下からどうぞ。
1.はじめに
今は昔、ISO9001認証制度の黎明期、20数年前のことです。
筆者はある中堅企業のTQC・QC担当、そこに突然降って湧いたように出現したISO9001の認証取得命令。
職務上、仕方なく(?)認証取得プロジェクトを立ち上げ、準備を進めていきましたが、やはりその時思ったのは“少しでも楽をして認証を取得したい”でした。
ISOでなくとも、おそらく同じような経験をされた方も多いかと思います。
組織にとって未知の新しいものに挑戦するのは並大抵なことではありません。
まずそれを行う人材と、追加の工数と、そのための知識の吸収など、やらなければならないことが山ほど出てきます。
トップの強いリーダーシップがなければ到底適うことのない一大イベントです。
この中で、少しでも楽にISO9001の認証を取得したいと考えるのは自然のことでしょう。
でもそこで下手な“楽”をすると、後々大変な苦労の種となってしまうのです。
自省も含めて、今回の“大誤解”を書き進めましょう。
2.楽にISO9001QMSを構築して認証取得したい
日本の企業にとっては元々降って湧いたようなISO9001は、その認証取得が、ヨーロッパに輸出する企業の貿易対策に始まったものが、次第に国内の様々な取引条件にも使われるようになり、中小企業にとっては、大手・中堅企業とおつきあいするためのmust事項に近い存在となってしまいました。
また大手・中堅企業にとっては、なんで今更、という戸惑いを抱えながらも、まあ悪いことではないので品質システムの見直しに良い機会かな、という程度の認識を持った組織も多かったのでは無いかと思います。
そのような状況の中での認証取得は、これを積極的に利用して会社をよくしようという思いよりは、むしろ、取引継続や新規取引に不可欠な取り組みである、という受け身の動機から入った企業がほとんどといって良いでしょう。
そんな「ISO9001認証取得」を、なんとか楽にやりたい、と思うのは自然ですが、一部で次のような風潮が出てきました。
a) コンサルタントを一時的な社員にして、ISO9001QMS構築と認証取得に係わるこの仕事をやってもらって、用が済めば退職する。(認証取得請負型)
b) 社員になってもらうまでもないが、品質マニュアルや関連文書を、丸々作ってくれるコンサルタントに頼もう。(品質マニュアル・規格作成請負型)
c) でなければ、当社の部署名を当てはめればできてしまうようなひな形を提供してもらう(品質マニュアルひな形利用型)
d) コンサルタントは頼まないで、自前でやる。でも手間ひま掛けたくないから、品質マニュアルは規格の条文通りに書いておこう。(自前で規格トレースマニュアル作成)
これらの方法は、いずれも後で苦労をするのです。
3.楽をしてISO9001を取得したその後
さて、このような対応をとった組織のその後はどうだったでしょうか。
a)の一時的に雇用したコンサルタントがやめた後は、構築したQMSを理解している社員がいなくなり、後継者育成にしばらく時間が掛かりました。
また生粋の社員ではない人の作ったQMSに愛着は湧かず関心も低く、これを改善していこうという意欲も湧いてきません。
b)のコンサルが作った品質マニュアルや、c)のひな形を提供してもらって作った場合はどうだったでしょうか。
私も、いろいろな品質マニュアルを見せて頂く機会も多いのですが、当該組織には無いような部門部署名が出てきて当惑した経験もありました。
もう数年も経っているものです。前例と同じように、ほとんどの人が関心を持っていない証拠でしょう。
部門部署名だけならまだ良いのですが、深刻なのはサイズの合わない借り物の服のようなQMSを着てしまった時です。
次に紹介するのは、文字通り、服を作る専門業者が借り物の服を着てしまい、どうにも動きの窮屈になってしまった例です。
4.借り着(の品質マニュアル)を着せたA社の例
A社は会社や官公庁のユニフォームや作業着を作っている縫製会社です。
官公庁にも顧客を持つA社はISO9001が必要と判断して認証を取得しようと決意しました。
そして、コンサルタントに相談して、楽に取得をしようと、品質マニュアルのひな形を提供してもらって、これに合わせてQMSを構築しよう、ということになりました。
例えば、A社の設計・開発は、お客様のニーズや体型に合わせたパターンを作り、この試作をして、場合により試着をして確認した後に、量産があるときはさらに量産パターンも作り、量産に移行をする業務です。パターンが出来上がると、お客様の要望や採寸をしたデータを書いた依頼書があるので、これと間違いが無いか確認をします。
また、パターンを作る前や後には、上司や縫製責任者と相談しています。試作をすると、試着をしてもらってお客様のご意見を聞きます。そして、その都度関連する資料に、記録がされています。
A社の採用したひな形では、開発の計画は、「検証」「レビュー」「妥当性確認」など規格の要求事項をすべて様式化した「開発計画書」を作成して、その記録は、この資料に残していくというものでした。規格の要求事項を確実に満足させ、審査でも楽です。
ところが、最初の文章を読めば判るように、A社は、今までのそのままのやり方でISO9001規格の設計・開発の要求事項は満足しているのに、わざわざ手間の掛かる方法に変えて(増やして)しまったのです。
そうでなくとも忙しいパタンナーは、パターンを作るたびに開発計画書を作成し、ひとつ仕事を済ますたびにこれを引っ張り出してきて記録をする余分な業務に、ますます忙しくなって、退社してしまいました。
最初の“楽”が、後でその何倍にも“苦労”になって返ってきた例と言えましょう。
5.そんな組織のその後
A社と同じような経験を、多少ともでも経験された組織もあろうかと思います。
しかし、A社も含めて、多くの組織の賢明な経営者や管理者は、これに気づかされ、どうせやらなければならないなら、もっと効果的にやろうとか、さらには、これを逆手にとって積極的に利用して会社の活性化や業績向上に役立てよう、と活動を展開して、そして成果に結び付けている企業もたくさんあります。(本メルマガ記事、第2回 、第3回 を参照下さい)
ISO側でも、2000年改訂でマネジメントの8原則を導入して、顧客重視、改善(PDCAサイクル)、プロセスアプローチなどの重要性、文書の軽減化、などの努力もして、全体的に良くなってきました。
“楽に”取った後遺症もすっかり癒えて、過去のものになってきたかなと、安心していたら心配なことがまた出てきました。
最近、こんな依頼がたびたび来ました。”改正にあたって、品質マニュアルと関連する規定を直して下さい”という丸投げ・アウトソースや、”改正規格に対応した品質マニュアルのひな形を下さい”というような依頼です。
せっかく登ってきた道のりを、後戻りしないでほしい。そんな思いで、次の回につなげましょう。
(丸山 昇)