QMSの大誤解はここから始まる 第2回 ISO9001をやれば会社はよくなる(1) (2017-10-16)
2017.10.16
先般ご案内しました、
新シリーズ 「ISO9001に基づくQMSの“大誤解”はここから始まる」
いよいよ今回から本編が始まります。どうぞお楽しみに!
大誤解1:「ISO9001をやれば会社はよくなる」
過日、筆者はこんな相談を受けたことがあります。
従業員約50名の給排気設備の製造・設置を営むA社の経営者からでした。
「10年ほど前に、顧客やコンサルタント、金融機関などから、“ISO9001をやりなさい、そうすれば会社はよくなります”といわれ認証を取得しました。
社員はまじめにやって、毎年審査員からも“皆さん大変に熱心にやってすばらしいです、不適合はありません”と言われています。
内部監査をやっても、不適合はありません。
ただなんとも我慢できないのが、たまに不適合が出てきても、なんとかの記録がないとか、捺印が漏れているとかで、会社の経営に役立つ指摘が出た試しがありません。
ISO9001認証を取得したことで会社がよくなってきている実感はありません。
それなのに、毎年審査費用は掛かるし、今回は新規格ができたということで、このためのコンサルの費用も掛かります。
こんなことでは、ISO9001も返上した方がよいのではないかと思っています」
本当にISO9001QMSを構築・運用すれば会社(の業績)はよくなるのでしょうか?
第1回目は、こんな「ISO9001をやれば会社はよくなる」という大誤解がシリーズの皮切りです。
ISO9001はそもそもが、欧米諸国で、国や地方自治体などの物品購入者が調達する際に購入業者に要求する規格がそれぞれの国にあったものを、イギリスの規格をベースにして決めたものでした。
それが後に、認証取得の基準として使われるようになったものです。
国際規格を評価の基準とすることで、品質保証は、内部の品質保証を充実するための活動に加え、外部に信頼感を与えるように実証する活動の側面にも焦点が当てられるようになりました。
一方、その弊害として、記録や文書の存在が特に重視されるようになってしまい、多くの組織で、社内の品質保証レベルは変わらず(相対的にはレベルダウン)、説明する能力ばかりがうまくなってきています。
A社の方が言うように、審査員には褒められ、内部監査で不適合がなくなっても、説明する能力ばかりが高くなっただけで、中身が充実しなければ、会社の業績とは無縁となってしまうのです。
「ISO9001をやれば会社はよくなる」はずなのによくならないという、大誤解の大元を、少し紐解きましょう。
それは、先に述べたような生い立ちを持つISO9001QMSモデルの、次のような“本質”とこれらに関する“限界 ”から来るのです。
a) 評価の対象は「マネジメントシステム」である。
「技術」そのものは対象としていない。
技術に関する評価は、必要な技術がマネジメントシステムに手順、マニュアルなどの標準類に適切に埋め込まれ、技術レベル向上の仕組みがあるかどうかに限られる。
b) 評価の視点は、マネジメントシステムの「適合性評価」であって、そのシステムを運用して得られた「パフォーマンス」そのものは評価しない。
パフォーマンスが望ましくない場合、その理由・要因をマネジメントシステムの脆弱性に求めて評価する。
c) 評価の法的根拠は「任意」であって、民間の第3者機関による「適合性」の評価である
d) 品質マネジメントシステムの目的は、「品質保証+α」であって、「総合的品質マネジメント」ではない。
e) 管理の関心事は、計画どおりの実施で、計画通り実施すればよい結果がでることを前提にしている。
f) 検証機能を重視している。
g) 管理方式は、管理者、実施者、検証者の3機能の分離を前提としている。管理スパンが限定されている。
前述のA社は、まさにこの「ISO9001QMSの本質から来る限界」の落とし穴に、ズッポリとはまってしまったのです。
社員は一所懸命に、ISO9001の要求事項に「適合」するために文書や記録を作って、審査ではうまく答えて褒められ、内部監査では同じ事を繰り返し確認することで不適合はなくなり、すべてうまくいっているはずなのに、空回りをしているのです。
別のある印刷会社B社とC社の例です。
印刷業では最近では、CTP(Computer To Plate)で製版するのが当たり前のように普及してきていますが、ひところは価格が高くて小さな企業ではなかなか手が出にくいものでした。
B社は、これからはこれが活躍するはずだと思い、ムリしてでも、と導入しました。
一方、C社はもう少し様子を見ようということで導入をしませんでした。
どちらもISO9001QMSの認証取得をしています。
B社は操作が難しいこの機械の操作手順が標準化していなかったので、審査の時に指摘を受けて、さっそくこの手順書を作成しました。
C社は今まで通りの標準化された作業方法を守り、審査でも指摘を受けず、内部監査でも指摘ゼロです。
会社の業績結果は、ISOの優等生であるC社は業績悪化し、ISOで指摘を受けたB社は、CTPをみんなが操作できるようになり、これを活用して業績上がっています。
この例を、先ほど紹介した「本質と限界」から見ると、B社とC社の違いは、評価(審査・監査)の対象です。
対象は技術と裏腹の同じ「管理」で、技術そのものではありませんが、片方は高い技術レベルの作業であり、片方は低い技術レベルの作業です。
評価の場面で、その技術の内容は関係ありません。
だから、ISO9001QMSに形式的に適合するようにいくら頑張っても、現在保有している技術のレベル以上の結果は引き出せないのです。
また、QMSを運用して得られるパフォーマンスそのものについても評価の対象にもせず、あくまでもマネジメントシステムの適合性に限定されるという限界があります。
C社は、“労多くして益無し”の好例と言えましょう。
もうひとつ例を挙げましょう。
D社は、電機関連部品の金属の切削加工をする会社です。
顧客である親会社は、D社をもっと良くしようとしてISO9001の導入を奨めました。
導入した当時は、D社の受注も多く、大変に忙しい会社でした。
そこでできるだけ手間を掛けないように、コンサルタントと相談して、現状で実施している以上の業務を増やさないように構築しました。
例えば、品質目標は「クレームの減少」として、これを営業部門も含めて、全社で展開しました。目標を達成すための手段は明確に決めず、毎月の会議ではクレームの発生件数を確認し、その対応に追われるだけでした。
一方、ライバルのE社は、当時D社よりも売上の低い会社でした。
E社の社長は、なんとかD社を追い抜きたいと考えて、品質目標に「売上高」と「粗利益額」を入れて、営業部にはこれを品質目標として設定をさせました。
そしてこれを達成するための手段を明確にして、この進捗を社長自ら毎月監視し、確実に管理をしました。
その後、D社、E社の親会社は、電機業界の不況のあおりを受けて、国内工場を縮小し海外展開することになり、このために両者への注文量は減りました。
D社は倒産寸前になり、E社は力のついた営業力により、新規顧客を開拓することで事業を継続しています。
無論のことE社はD社を追い抜きました。
この例を、前述の“ISOの本質と限界”で見ますと、D社は品質目標を、製品の品質保証のみに限定した運用で、「品質保証+α」の域を脱せずISOを運用していたのです。
これに対してE社は、この目標管理を全社の総合的な品質マネジメントのひとつとして位置づけ運用することで、この限界を乗り越えたのです。
このように、「ISO9001をやれば会社はよくなる」は大誤解であり、ISO9001は“ただ”やっただけでは、会社の業績はよくなりません。
今回お話ししたような、ISO9001QMSの持つ本質と限界を良く理解し、これを積極的に乗り越えていくことを意識して構築・運用することが大事なのです。
第1回目は、ISOの限界を中心にして話を進めてきました。
ISO9001の本質を理解し適用すれば、本来の「効用」を発揮し、業績向上に寄与するISO9001QMSの構築が可能になります。
次回は、この効用を中心にして、話を進めていきましょう。
(丸山 昇)