超ISO企業研究会

会長の挨拶

会長の挨拶

超ISO企業研究会
趣意書

代表 飯塚悦功(東京大学名誉教授)

1987年3月、ISO 9000シリーズのQMS規格ISO 9001及び9004の初版が発行された。その後、ISO 9001は、1994年、2000年、2008年と版を重ね、いまAnnex SL(マネジメントシステム規格共通フレーム)に準拠した2015年版改正の審議が進められている。ISO 9001を基準とする国際的QMS認証制度は1990年代初頭に離陸し、わが国においては1993年11月、JAB(日本適合性認定協会)の設立により、正式の制度として発足した。それから20年、QMS認証制度は、様々な期待に応え、また多くの失望を与え続けてきた。この社会制度を戦略的に活用するためには、認証という社会制度の本質をこの日本という社会全体が理解しなければならない。また適用組織においては、認証基準となっているISO 9001というQMSのモデルの本質を理解したうえで、自組織の競争力強化の基盤として活用していく必要がある。

ISO 9001発行の当初から、品質立国日本を任じていた日本は、TQC(日本的品質管理)とISO 9001の融合について熱心な検討をしてきた。2種類の検討がなされている。一つは、TQCの枠組みのなかに矛盾なくISO 9001を取り込む方法の検討であり、もう一つは、ISO 9001を出発点として、さらに拡大深化した品質マネジメントへと、QMSの成熟度を上げる方法の検討である。

後者の、ISO 9001からのステップアップの方法論に対する社会ニーズは高かった。経営における品質の意義、品質保証の意義と方法論、品質マネジメントに対する理解が十分でないままに、ISO 9001認証を取得する組織もあったからである。しかし幸いなことに、ISO 9001認証を契機に、品質の意義、品質マネジメントの基本的考え方の理解は着実に広まり、ISO 9001認証組織をまともな組織に誘導できる可能性は増した。

このような状況において、「超ISO企業研究会」は、次に示す「ISOを超える」3つの意味を提示し、ISO 9001認証組織の体質強化の支援をしてきた。

  • (1)ISO 9001の枠組みのなかでの有効活用
  • (2)ISO 9001からのステップアップ
  • (3)競争優位のためのQMS構築

(1)は、ISO 9001を基準とする認証制度の枠組みのなかで、認証という社会制度と、ISO 9001というQMSモデルを活用しての組織体質強化である。(2)は、ISO 9001のQMSモデルを拡大・深化したQMSの構築・運用である。そして、(3)は、競争優位の観点から持つべき組織能力を明確にし、それらの能力を実装するQMSを構築することである。(3)は、実は、ISO 9001、ISO 9004、あるいは経営品質賞などの、与えられたモデルにならって自組織のQMSを構築・改善するのではなく、自らが保有すべき組織能力を自覚し、それらを備えたQMSを設計するというアプローチである。

(3)のアプローチを具体化するQMSモデルは、2005年発行のJIS Q 9005である。この規格は、わが国がTQM(Total Quality Management)のJIS化への挑戦の過程で、「持続的成功のための品質マネジメント」という概念を打ち出し、国際的にも積極的に訴求し、現在のISO 9004のベース文書となったモデルである。JIS Q 9005はいま改訂審議中で、2013年度中には発行予定である。

JIS Q 9005のQMSモデルは、わが国が1960年~80年代半ばの「経済高度成長期」を経て、バブル経済崩壊後の「成熟経済社会期」における品質経営のあり方を指し示すものである。この規格は、改めて、事業とは製品・サービスを通した価値提供であると認識し、競争環境において持続的成功を収めるために、組織が持つべき能力(組織能力像)を明らかにし、この能力を実装するQMSを設計・構築・運用する必要があることを訴えるものである。

それは、失われた20年と言われる混迷の時代を経て、いまなお経営における明確な方向性を見いだしかねているものの、その潜在的能力においては、技術においても、マネジメントおいて、人材においても優れたものを有している、わが国の中堅・中小企業に対する熱きメッセージでもある。

成熟経済社会は、量的な変化は小さいが、質的な変化は大きく、また速い。
私たちは、いま変化の時代に生きている。
かつて日本が輝いていた、工業製品の大衆化による
経済高度成長期とは全く異なる経済社会にある。
こうした事業環境においてもつべき、
事業経営に関わるマインドセット、価値観の変更を促し、
もう一度輝ける日本を作りたい。

わが国の中堅・中小企業は、事業を価値提供の視点で
見直してほしい。変化の様相を鋭敏に察知できるようになりたい。
自己が有している能力・特徴を理解しておきたい。
自己のあるべき姿を描けるようになりたい。
必要とあれば、果敢に自己を変革できるようになりたい。
そして何よりも、自律したい。
すなわち、自らの価値基準を持ち、先頭に立つ勇気を持ち、
リスクを取り、果敢に前進したい。

超ISO企業研究会は、ISO 9001のQMSモデルを超えた、
本来の品質経営のモデルを提示し、
このモデルの実践におけるあらゆる支援を惜しまず、
わが愛すべき日本の健全な産業経済社会の発展に貢献したい。