未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第13回 『“良い”組織におけるあるべき組織運営』 (2021-10-18)
2021.10.18
ここまで長々と,「求められる健全な組織体質・風土」として,「正しさ」「オープン」「共有」「賢さ」「愚直」「自律」について,それこそ徒然なるままに綴ってきました.思いつくままに書いてきた自分を振り返ってみると,これらの体質・風土を持つ“良い”組織に私自身が期待している組織運営のあり方が見えてきたように思います.私が期待していたのは,以下のような組織運営だろうと思います.組織体質・風土の締めととして,整理しておくことにします.
1.目的:目的志向の思考・行動
2.因果:目的手段関係の理解,要因管理
3.実行:堅実・愚直な実行
4.学習:改善力,積極性
5.人間:人間性尊重
6.透明:オープン,透明性の確保
■目的:目的志向の思考・行動
第一には,目的志向の思考・行動のできる組織運営です.そのような組織は基本的に「外向き」で,外的基準で自己を見つめる組織といえます.これは決して,他人に迎合するというような自律性のない組織というわけでなく,外部,周囲,関係者から何を期待されているか,自身にはどのような使命があるかを意識し,そうした期待に応えていこうとする組織という意味です.例えば,顧客志向の組織,すべてのステークホルダーのニーズ・期待にバランスよく応えようとする組織です.このことによって,何をするにも,その目的の妥当性を考える組織です.
また,当然のことながら,あらゆる活動において,目的を意識し,その目的を達成するために合理的な達成手段を実行しようとする組織です.何のためにやっているのか,その目的・目標を常に意識し,実施しようとしていることがその目的達成に有効であるか考えながら行動する組織です.
Backcasting(バックキャスティング)という表現をご存じですか.backcastとはforecastの対語です.forecastは「こうしたらどうなる?」と予測・予想するという意味です.これに対しbackcastは「こうなるためにはいつ何をしなければならないかを考える」という意味です.すなわち,目的・目標から逆算して,何をすべきか考えるということです.
■因果:目的手段関係の理解,要因管理
第二は,因果関係,目的手段関係を考える組織運営です.それは前項で触れた目的志向の組織運営に必須の思考・行動様式ともなります.
この考え方が組織運営に適用されると,望ましい結果を得るために要因系の管理を志向することになります.望ましいパフォーマンスを確実なものにするためにプロセスの管理をすることになります.一般に,管理において要因系に注目するというのは賢い方法です.結果は原因から生ずるからです.結果オーライを期待するのではなく,結果に一喜一憂するのではなく,望ましい結果の再現を追求して,良い結果が得られる条件を明確にし,根拠ある標準,合理的なルールを定めて,業務の質と効率を担保すべきです.
因果に関心を向ける組織運営では,コトが起きたときに,まともな原因分析を行います.因果メカニズムの全貌を明らかにしようとします.なぜ失敗したか,あるいはなぜ成功できたかを明らかにします.
これは再現性を求めての科学的方法ともいえます.科学的とは,事実に基づく論理的思考というような意味ですが,その本質は「再現性」にあるともいえます.「こんな状況で,こんな条件が整えば,またこんな結果になる」というわけです.再現性を確実なものにするために必要なこと,それは因果構造の理解です.因果関係に関心を抱くということは,科学的管理の基本でもあります.
■実行:堅実・愚直な実行
第三は,実施すると決めたことは,愚直に実施するという組織運営です.このシリーズの第10回で,「愚直」に関連して,ABC(A:あたりまえのことを,B:バカにしないで,C:ちゃんとやる)と申し上げました.「賢者の愚直」とも言いました.Aは,目的達成に必要な手段を知っているという意味です.Bは,その根拠を知っているという意味です.そしてCは,誰も見ていなくも,きちんと実施するという意味です.意図,真意を理解した,遵法,コンプライアンスともいえます.
実行力ということにも関係があります.何かすると決めておいたのに,それっきりしばらく放置という行動様式とはかなり異なります.やると決めて,それが納期通りにできないことがしばしばあるということは,目的達成のための実現手段に展開できない/しないか,展開したとしても時間概念が欠如/薄弱かなのでしょう.上述したBackcasting的行動様式に従い,まともなproject plan(目的,考慮事項,アウトプット,WBS,マイルストン,リソース,リスクなど)を作成する習慣をもち,きちんとした進捗管理を行うような組織運営をしたいものです.
■学習:改善力,積極性
第四は,高度な学習能力に裏打ちされた組織運営です.組織の学習能力というものは,積極性,謙虚さ,問題意識・改善意欲,抽象化能力・本質理解力,俊敏性(agility)などから構成されるものと考えらえれます.
まずは,積極性がなければなりません.何かコトが起きたり,経営環境に変化が見られたときに「これはエライことだ.何とかしなければ」と動き始めるような組織運営を期待したいものです.同時に,謙虚でなければなりません.自分たちが劣っていると卑下する必要はありませんが,いま自分たちはベストの状態にあるわけではない,もっと成長できる余地があるという謙虚さです.
そこから,明確な問題意識が芽生え,問題を定義・構築し,旺盛な改善意欲に支えられて,問題の構造,因果構想をしたうえで,改善が進むことになります.その基本は,問題があると認識し,改善しようという意欲を掻き立て,現実に問題解決ができる能力を付与して改善を進める組織運営です.
旺盛な学習能力のベースとして,抽象化能力・本質理解力が必要であるといえます.すなわち,何か学んだり経験したときに,それを抽象化・一般化し,本質的にどのようなものであるか理解し,具体的事象に賢く対応できる組織能力が必要ということです.「一を聞いて十を知る」という表現がありますが,それです.学習能力には,限られた情報から,多くの知見を得る能力という面もあります.単なる過去のトラブルの集積ではなく,再利用可能な構造化知識ベースの構築を目指すような組織運営です.
■人間:人間性尊重
第五は,人間を大切にする組織運営です.人が作る組織の優劣は,当然のことながら人に左右されます.技術的知見も,知識ベースも,マネジメントシステムも,情報システムも,設備も,人が構想し,人が実装します.もちろん,そこで活動する人の働きによって,組織のパフォーマンスが決定づけられます.組織にとって,人間が最重要の経営リソースだということです.
その人間を,単なる知的・肉体的労働を担う経営資源の一つと考えるのではなく,必要な能力(技術・知識,技能,マネジメント力など)を付与し,何よりも意欲を高めるような組織運営をしたいものです.
いろいろな考え方があると思いますが,私は「適材適所」が最重要と思っています.専門性などもありますが,忘れてならないのは「能力タイプ」の尊重の重要性です.能力レベルではありません.能力タイプです.分析的な方もいれば,直観的な方もいます.論理重視の方もいれば,人の反応が気になる方もいます.読んで分かる人もいれば,聞いて分かる人もいます.そうした能力タイプに応じた適所,ポジションを考えるような人事,組織運営ができればと思います.
■透明:オープン,透明性の確保
第六は,風通しの良い組織運営ということです.何回か前に「オープン」という体質・風土について考察しましたが,それに沿うような組織運営によって,良好な内部コミュニケーションが実現していることを期待したいと思います.また,外部の然るべき関係者に対して説明責任を果たしていくような組織運営を期待したいものです.
どこに進むか分からない駄文にお付き合いいただきありがとうございました.不祥事はもってのほか,尊敬される“良い”組織になりたいものです.そういう組織文化・風土・価値観は,マネジメントシステムに組み込んだルール,手順の繰り返し適用により習慣となり,それほど長い年月を要することなく醸成されるものです.そしてその習慣が途絶えると,これまた驚くほど短期間に雲散霧消します.組織文化・風土・価値観は,そこに誘導する仕掛けを意図的に継続することによって自らの組織のものになっていくものなのです.
飯塚悦功