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未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第9回 『健全な組織体制・風土の特徴(5)愚直(前)』   (2021-09-20)

2021.09.21

■愚直(真理追究型ハングリー精神)
 
「求められる健全な組織体質・風土」として,第五に「愚直」を挙げました.ここでカッコ内に「真理追究型ハングリー精神」を付したのは,「愚直」が,いわゆる「愚かさ」とは対極にある望ましい組織風土であることを示すためです.そして「愚直」というラベルのもと,「徹底」「積極」「改善」「科学」「因果」「本質」を挙げました.

「徹底」とは,まさに「極める」ということです.何ごとも,目的が達成されるまでやり遂げること,よく分からないことがあったら,それが何であるか,なぜそうなのか,分かるまですぐに調べ尽くすことです.
 
先々週に取り上げた「賢さ」のうち「継続」に関連して,私がまだ大学にいるとき「成功する秘訣は,成功するまで続けることだ」と言ったことを紹介しました.東大生には小賢しい者も多くいて,そういう輩は「バカな」と思ったことでしょう.しかし,世の多くの成功者,一流といわれる人,成功した組織には,必ずといってよいほど「極める」という行動原理があります.学生とのやり取りではこんなこともありました.私は,分からない言葉があったらすぐに調べるべきだと学生に諭していました.辞書を引くなり,Webで調べるなり,友人や先生に聞いたらよいと言っていました.情けない学生は,「調べてみなさい」と言ったことに対し,間もなく恥ずかしげもなく「分かりませんでした」とやってきます.私が,辞書の該当箇所を示すとか,Webで調べてみせると「ああ,ありますね」です.真面目に調べていないのです.
 
分からないことがあったら,気持ち悪くてじっとしていられなくなり,その不思議さを速やかに解消するようにしなければ成長できません.組織においても同様です.ささいなことが理由・原因で重要事項がペンディングになっていても平気でいられる管理者の多い組織に,成長の見込みはありません.
 
「積極」とは,「前進,前進,また前進」という精神構造をいいます.2つの側面があります.一つは「挑戦」です.もう一つは「スピード」です.
 
「挑戦」するというのは怖いことです.失敗するかもしれないからです.でも,取り組まなければ,成功はあり得ません.不良を作りたくなければ製品を作らないことです.クレームが嫌なら製品・サービスを提供しないことです.こうした行動が意味のないことは自明です.東大には,自身の狭い視野での検討に基づいて(拙い)先読みをして,成功の可能性が低いと思うと挑戦しないという,ある種の“賢い”学生が少なからずいました.失敗してもその人格のすべてが否定されるわけではありません.有益な経験を積む良い機会かもしれないのにです.
 
目的達成のために何らかの行動を起こせば,マイナスの結果となるリスクを伴うのは必至です.適度なリスクヘッジをしながら挑戦してみること,これが成功への近道であり,成長の機会となります.野村監督が,超弱小球団の楽天の監督を引き受けて最初の2年,「挑戦」と「考える野球」を叩きこんだそうです.挑戦して失敗したら「なんでなんだ?」と考えて次に生かせばよいというのです.
 
関連して「スピード」も重要です.拙速でも良いではありませんか.「拙速をもって尊しとなす」という教えもあります.大事を取り,調べつくし,決断できないうちに時機を失するというのは,慎重をはるかに通り越して優柔不断というべきでしょう.ときには「石橋を叩いて渡る」ことが必要な場合があるかもしれませんが,叩きすぎて壊さないようにしたいものです.私は,気が短いところがあるせいか,「拙速」は好きです.
 
大学にいるとき,学生に対してこんなことを言ったことがあります.早く決めなさい.決められない理由は3つです.一つは情報不足,一つは将来のことゆえの不確実性,一つは同程度のメリット・デメリット.情報不足ゆえに決められないなら,集めることが合理的な情報をすぐに集めなさい.残りの2つはサイコロを振って決めなさい.決める人の性格,思考・行動様式があるかもしれませんが,組織としては,タイミングを失しないことの重要性を叩きこみ,決定事項の誤りそのものは不問に付し,決定方法に不備があればそれを正すような管理をすべきと思います.
 
「改善」とは,もちろん,日本的品質管理のお家芸ともいえるあの「改善」のことです.改善を,日本的品質管理の大きな特徴と認識した米国は,これを“improvement”とは言わずに“KAIZEN”と表現しました.“improvement”というと,技術者・管理者による改善・改革をイメージしてしまい,第一線の作業者を含む全員参加の改善という意味合いが伝わらないと考えたからです.
 
組織であれ,システムであれ,人であれ,内部に自身を改善するサブ機能を持っていなければ,まともな進化はできません.もちろん,先週考察した「学習能力」につながります.
 
改善という機能の必要性は分かりますが,これが十分であるためには,組織を挙げた問題意識と改善意欲が必要です.意欲は,上述した積極性から生まれるでしょう.問題意識,それも組織を構成する要員のかなり広範囲がそうした意識を持つためには,先々週に取り上げた「共有」が関連します.組織全体の目的を知り,その構成員が自己の使命・役割を認識し,十分な当事者意識を持つような組織運営が必要です.
 
「科学」とは,組織,部門,個人の思考・行動様式が科学的であるという意味です.「科学」の意味については,「正しさ」について考察したときに述べました.すなわち,私たちが「科学的」というとき,それは多くの場合,「事実に基づく論理的思考」を意味しています.「科学的」とはまた「再現性」に注目する考え方です.事実に基づく論理的思考により,因果関係や目的・手段関係を明らかにしようとしますので,目的を達成するために,その要因・条件がどうなっていなければならないかを知り,この知見を使って,望ましい状況を「再現」できるようになります.「合理」を実現する方法論の特徴,それが「科学的」ともいえます.
 
「因果」とは,物事の因果関係を考察するという意味です.コトが起きたとき,その発生の因果メカニズム,根拠・理由・背景要因を考えるということです.当然のことながら,何らの経験をし,そこから学ぶべきものがあると判断すれば,深い分析をします.上述した「徹底」「科学」と同様の側面に焦点を当てています.因果関係を理解しているから,それが適切であると確信して愚直に行動できるのです.
 
「本質」とは,物事の枝葉末節を取り払い,再利用可能な知見を得るという意味です.先週取り上げた「賢さ」でも,やはり「本質」について考察をしています.そのときも申し上げましたが,最も重要な思考形態は「抽象化・一般化」です.馬と鹿を取り上げて,対象の特徴を認識し,それを一般的知識として多様な対象に対する理解能力を向上することの意義を説明しました.こうした思考の結果として組織に蓄積されるものは,技術・知識ベース,技術の棚,可視化されたノウハウ,本質知満載のマニュアル,様々な対象についての仮説モデルなどとなるでしょう.
 
飯塚悦功

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