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未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第7回 『健全な組織体制・風土の特徴(4)賢さ(前)』   (2021-09-06)

2021.09.06

■賢さ:本質
 
「求められる健全な組織体質・風土」として,第四に「賢さ」を挙げました.そして「賢さ」というラベルのもと,「本質」「継続」「目的」「反省」を挙げました.
 
ここでの「本質」とは,知りえた状況や情報の本質を理解し的確に対応できる能力や,そうしようという心がけを意味しています.例えば,人について言えば,全体としては聞く価値のあることを言ってはいるのですが,その焦点をつかみにくい人の話を聞いて,その話で言及されている様々な事象のうち,関心を持つべき事象,その因果,その影響,対応指針などを的確に理解できる能力を指しています.切れ味鋭い人,抽象化能力のある人,一を聞いて十を知る人,いわゆる理解力がある人,伝えるべきことを要領よく説明できる人などが持っている能力・特徴です.
 
このような能力が組織として保有されているとよいなぁと思います.組織を取り巻く様々な状況,組織が獲得できる情報は種々雑多ですが,それこそ断片的な事実,いや事実かどうかも怪しい情報などから,自らの組織を取り巻く情勢を的確に理解し,将来取るべき方向性について的確に定めることができるような組織能力をイメージしています.
 
このような組織能力を持つためには,組織の事業に関わるリスクや機会についての健全な感受性が必要です.“健全な”と言ったのは,過敏でも,もちろん鈍くてもダメだという意味を込めてのことです.どこかで何かが起こったとします.誰かが何かを言ったとします.それが自らの組織が営む事業に対してどのような影響を与え得るか,そのリスクや機会について的確に判断し行動したいということです.
 
そのためには,常日頃から,自らの組織の事業についての「ビジネスモデル」「事業構造」を理解していなければなりません.事業に関わるプレーヤー(利害関係者)にはどのような人や組織がいて,その間のどのような価値提供連鎖,情報伝達,商流,商権,受託・委託関係,競合関係などがあるかを理解していて,何か起きたときに,その事業構造のどこに,どのような因果メカニズムで,いつごろ,どのような影響を与え得るかを考察するという習慣,思考様式を持ちたいものです.
 
その昔,私はISO/TC176(ISO 9000シリーズ規格)の日本代表でした.どこかの国から規格開発の提案があると,その規格が制定されると何が起こるか,かなり真剣に深読みしたものです.ISO 14000シリーズのEMS規格が発行される前,1990年代初め,ドイツから環境マネジメントに関する規格制定提案があったときには,これは南北戦争とも言えると感じました.南北とは,開発途上国developing countries(南)と先進開発国developed countries(北)という意味です.これから経済発展をしようとする国や地域に,環境保護に関わる財務負担を課そうとする国際的制度と見ることもできるということです.OHSAS(労働安全衛生)もそうです.先進国にとって無視しえない財務負荷となっている労働安全衛生のための経営コストを途上国にも課すよう誘導する規格と見ることもできます.疑い深い嫌な奴だとお思いでしょうが,ルールが強さを決めるというスタンスで各国の動きを見ると,大義名分に満ちた正論の裏に生臭い下心が透けて見えるという次第です.
 
「本質」には,何か経験をしたとき,いつか使える本質知を獲得すること,経験から得た知見を知識化しこれを再利用する能力も意味しています.「データ⇒情報⇒知識⇒知」というような連鎖で,事実・データを再利用可能な知識にすることの重要性が語られます.ここで重要なことは,抽象化,一般化ということです.多くの馬を見て,馬の特徴を理解します.また多くの鹿を見て,鹿の特徴を理解します.この思考方法を「帰納法」といいます.そして,馬とも鹿ともつかぬ4本足の動物を見て,馬とか,鹿とか,それ以外とか判別します.それがうまくできないと馬鹿となるわけです.この「特徴を理解する」というのが,抽象化能力,一般化能力といわれるもので,まさに意味のある特徴を認識しなければなりません.本質を見極めるとは,この意味のある,将来も活用できる,特徴を把握することです.
 
■賢さ:継続
 
「継続」とは,まさに続けることです.私が現役の先生のとき,研究室の学生に「成功する秘訣は,成功するまで続けることだ」と言っていました.みな本気では聞いていませんでした.東大生には小賢しい者も多くいまして,そういう輩は「バカな」と思っていたことでしょう.私の真意は,「続けるべきことをコトが成るまで続ける.状況変化に応じ,なすべきことを微妙に変えながら続ける」というような意味でした.
 
賢く続けることができるためには2つのことが必要です.第一は,目的・目標の理解です.その妥当性,大げさに言えば,その目的が正義であることを確信していることです.第二は,その目的・目標への到達の道筋・手段を分かっていること,その方法が妥当であると確信できることです.続けることは,一般にはツライことです.それでも続けることができるのは,目的の正当性と達成手段の合理性を知っているからです.まさに賢くなければできないことです.これを個人ではなく,組織的に実施できるようにしたいものです.
 
私は,長いこと品質マネジメントを専門にしてきました.TQM(Total Quality Management)の普及・啓発にも関わってきました.こうした経営アプローチにおいて重要なこと,それは継続です.まさに「継続は力」です.TQMは漢方薬のような面も持つ経営改善・革新の運動論でもあり,維持するだけでも大変なことで,ましてや向上するためには,愚直に継続することが必須です.
 
そういえば,どのような分野でも一流の方々というのは,おしなべて血のにじむような努力をしています.イチローは天才的な選手と評価されていますが,それは自分の特徴を知り,自分をコントロールし続けることができるという意味で天才的だったのだと思います.野村監督は「長嶋・王が向日葵(ひまわり)なら,自分は月見草」と言って,ナニクソという負けん気で努力してきた人です.心にしみる良い言葉を数多く残しています.
 
飯塚悦功

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