未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第5回 『健全な組織体制・風土の特徴(2)オープン』 (2021-08-23)
2021.08.23
■オープン
「求められる健全な組織体質・風土」として,次に「オープン」を挙げました.そして,「オープン」というラベルのもと「透明」「外向」を挙げました.
「透明」とは,これから実施しようと思っていること,そして実施の経過や結果について,関係者に対して諸事を開示するということです.もちろん,何から何までオープンにできるわけではありません.開示に伴うリスク,例えば,法的な規制,個人情報などの悪意を持つ者による悪用,競争環境において開示が不利につながる可能性,交渉などにおいて知られることが不利・不都合になることなどです.
しかし,隠しておきたいと思う理由や動機には,公正とは思えないことも多々あります.嘘をつく(真実を隠す),交渉・取引において本来伝えるべきことが自身にとって不利に働くかもしれないとき,あえて言及しなかったり,ポイントを外したり,少し捻じ曲げて伝えることなどです.
あるシンポジウムで,「信頼の条件」として「高い専門性」「意図(魂胆)なきこと」「共通の価値観」「運命共有」があるということを聞きました.オープンでないことは,このうちの「意図(魂胆)なきこと」に強く反することになります.イマイチ信じられない経営者や上司の多くは,何か隠し事をしているのではないかと思われる何かがあるものです.隠しておかねばならないと思うことを心のうちに持っている人の話は,聞いていると分かります.これが,どこがどうとは言えないけれど信じられない,という感じを持たせてしまいます.そのような組織のコミュニケーションというのは,とてもやりにくいものです.
私が若いころ,とはいっても40過ぎのころ,忙しいだろうに同窓会の集まりが良くなりました.少しエラクなって余裕ができたこともありますが,世の中の情勢を知る良い機会だからです.いまから30年ほど前,高度成長期の終わりでバブル経済崩壊の直前でしたが,競合同士の中間管理職がアブナイ話をしていました.彼らが言うには,“confidential”というのは,「知られると恥ずかしいもの」という意味だそうです.「そんな程度か」とバカにされたくない,安心されたくないので部外秘にしているというのです.唯一の秘密は上市の日,発売日で,それ以外の,例えば技術情報などは,すでにばれているのだそうです.隠していないで,互いにいろいろ知った方が,業界全体でレベルアップできるし,自分たちが本当に優れていれば,お互いのことを知っているという状況での競争優位要因を自らのものにできるもので,隠しあっていることなど勝負を決めるカギにはなっていない,と言っていました.少々自信過剰気味でいかがなものかとは思いましたが,強い組織が持っている特徴のひとつだろう,とは思いました.
「透明」という組織風土は,情報共有,価値観共有につながります.部門間の壁が薄く,様々な情報が組織横断的に,公式的にも非公式に伝わり,情報共有ばかりでなく,価値観共有にもつながります.「聞いてない」という理由だけで反対したり,協力をしない組織とは相当に異なります.問題・課題の共通認識,解決に向かっての協力体制,関係者の当事者意識が高まります.「共有」については,第三の好ましい組織体質・風土に挙げておりますので,来週にでも後述します.
「透明」は,いわゆる「説明責任」とも関係します.責任・権限ということは組織運営の基本として長く言われて来ました.成熟経済社会に移行し,企業の社会的責任が議論されるようになって,責任responsibility,権限authority,説明責任accountabilityと三つ組みで表現されるようになりました.この「説明責任」というのは,そのころの経営者,とくに中小企業のオーナー社長には理解しがたい概念だったようです.私も,あるとき,「オレが作って,オレが苦労をしてここまでにした会社だ.煮て食おうと焼いて食おうと勝手だ」と言われて,閉口したことがあります.「勝手にしてはいけません.社長が作り,育てたあなたの会社は社会的存在なんです.何をしようとしていて,どうなったのか,関係者に説明する責任があります」と説くのですが,なかなか分かっていただけませんでした.
“accountable”という概念には,もちろん一般的な意味での責任があるという意味が含まれますが,とくに行為や管理を説明する責任,釈明する義務があるという点に焦点を当てています.誰かに対して何かにaccountableであるということは,そのことに責任があり,その人に対して自分がしたことを正当化(justify)しなればならない,という意味になります.正しいこと,適切なことをする責任があるばかりでなく,そのことが正しいということを示す必要があるということです.力があり,他に及ぼす影響が大きいときには,その影響の及ぶ隅々まで,なぜそうするか,それがどのような意味で正当であるかを説明しなければならないというのです.これはとくに上に立つ者が肝に銘じておかねばならないことです.人によっては「もっと良いコミュニケーションを」といいますが,もう少し深い意味があるといえます.自分の行為・管理に責任を持つということを「見える化」していることになります.
「透明」はまた,企業統治,管理のガバナンスにも通じます.勝手にコトを進めず,適時適切に知らせるべきことを知らせるという管理スタイルの浸透になります.昔から「報連相:ほうれんそう」といわれ,管理,組織運営において,適時適切な報告・連絡・相談の重要なことは指摘されてきましたが,これも「透明性」を尊重する組織体質・風土から自然に生まれるのではないしょうか.
「オープン」というラベルのもと「外向」ということも挙げました.ここまでは「透明」ということから,主に組織内部での「オープン」について考察しました.考えてみれば,「透明」は内に向かっても,外に向かっても言えることです.外に向かって「オープン」ということについても考えてみます.
ここで「外向」と言っているのは,文字通り,内向きではなく「外向き」であること,すなわち外部の他者からどう見えるかに関心を持つこと,さらにはベンチマーキングなど他者との比較に関心を寄せるような組織体質・風土のことを言っています.
外部の他者の目を気にすること,外部の期待に関心を持つこと,自らの活動がそのアウトカム,アウトプットの影響を受ける関係者にどう評価されるかというようなことは,社会的存在として常に持っていなければならない視点のはずです.
他者の目を意識するということには,好ましくない面がないわけではありません.主体性がないとか,独自性がなく常にフォローワーであり,真似ばかりしているとか,二番手以下に甘んじても痛痒を感じないとかです.
しかし,自らの使命を意識し,それを果たそうとするなら,また外部の期待に応え,社会的責任を果たすとなったら,外部の他者に関心を寄せざるを得ません.そもそも社会的存在として,外を気にせず,外に対して何も語らずにコトを行って良いわけがありません.
さて,「オープン」という組織体質・風土を実現するためには,どのような組織運営,どのような価値基準を重視したらよいのでしょうか.私は,結局は「外向き」志向ということではないかと思っています.組織内部の運営においても,組織外部との関係においても,自己にとっての他者,外部,周囲の期待に応えること,その責任を果たすことが重要という価値観を醸成し,何かにつけ,外部の状況に関心を持ち,外部に対し自らの言動の妥当性を訴えていくような組織運営をしていくことではないでしょうか.
飯塚悦功