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未だに頻発する品質不祥事を防止するために何が必要か? 第4回 『健全な組織体制・風土の特徴(1)正しさ』   (2021-08-16)

2021.08.16

先週,事故・不祥事を起こす組織や,起こさないまでも「いかがなものか」と首をひねりたくなる組織の特徴を参考にして,「求められる健全な組織体質・風土」として,「正しさ」「オープン」「共有」「賢さ」「愚直」「自律」を挙げました.これらについて,少しかみ砕いてみます.

 

■正しさ

 

「正しさ」というラベルのもと,「公正」「合理」「事実」「賞罰」を挙げました.「公正」とは,コトにあたっての「公正性」や「職業的正直さ;professional honesty」を意味しています.

 

「公正」とは,まさに「公平で正しいこと」です.これが良いことであることは,だれでも頭では理解できます.ところが,地位・金銭・報奨など何らかの得につながるとか,脅迫・恐怖などに耐えかねるとかして,これに反する行為がなされることがあり得ます.どのような誘惑があろうとも,どのような圧力があろうとも,これらに屈せずに行動できる人々からなる組織でありたいものです.

 

「職業的正直さ;professional honesty」や「職業倫理:professional ethics」もこれに近い概念です.医師,法律家(検事,裁判官,弁護士など),教育者,高度技術者・技能者など,高度な専門性が望まれ,また社会的影響力の大きな職業に就く者に求められる「正しさ」「倫理性」です.

 

いつだったか,名古屋空港に着陸する予定の航空機のパイロットが,悪天候下で着陸を断念し別の空港に向かったとき,乗客の多くが不満を漏らしたそうです.しかし,その後に着陸を試みた別の航空機が事故を起こし,着陸は可能だったかもしれないがルール通り撤退した,そのパイロットの“勇気”が褒められたということがありました.医師,法律家などに限らず,ほとんどの職業で,倫理,正しい職務への忠誠心が求められていますが,そのように強く教育・指導する組織でありたいものです.

 

高度な技術・知識や技能を期待されている組織,いわばそうした高度技術・技能を売りにしていている組織にあって,何らかの誤りを犯したときの対応において「正しさ」を強く意識したいものです.素直に誤りを認めることは重要であるにもかかわらず,ひとたび発した言葉や行動が不適切であったとき,屁理屈をこねてでも決して認めないというのは,職業的正直さにおいて問題があると言わざるを得ません.

 

何らかの評価に携わる者には,こうした公正性を揺るがしかねない誘惑や圧力が少なからずあると想定できますが,正しいことを貫く組織であり,その構成員でありたいものです.そもそも評価に携わっているのですから,自らが基準に適合する言動をとることにおいて率先垂範することがprofessionの矜持であるはずです.

 

「合理」とは,文字通り「理にかなっている」という意味で,必要不可欠なことまで省いてしまうエセ効率主義をいうのではありません.合理を尊重する組織,合理的組織とは,目的達成のために道理にかなった方法・手段を適用すること,あるいは,ある考慮の対象が妥当であることを十分に認識したうえで,そうした思考・行動ができる組織を意味しています.道理にかなったことを,自然体でできるような組織です.

 

「事実」とは,事実(事の真実,真実の事柄,本当にあった事柄)を尊重し,また重視するという意味です.合理的であるためには,上述したように,目的・手段関係や因果関係の視点で理にかなっていなければなりませんが,その関係理解において事実に基づいていなければなりません.思惑,とくに邪念があるとき,自らの誤った論理を正当化するためには,事実を曲げるなり無視するか,正しくない論理を主張することになります.このような言動にブレーキのかかる組織の特徴に「事実」というラベルを付けました.

 

「科学性」を尊重する組織と言ってもよいでしょうか.私たちが「科学的」というとき,それは多くの場合,「事実に基づく論理的思考」を意味しています.推定,期待,空想などをもとに,およそ実証的,論理的,体系的でない思考に基づいて状況判断をし,意思決定をしているとしたら,空恐ろしいことです.たとえ,期待するような状況認識にならなくても,事実に基づく論理的思考によって状況を冷静に判断し,そこからどこまで望ましい方向に回復・復元できるか,それこそ論的に考察すべきです.

 

「科学性」にはもう一つの意味もあります.それは「再現性」に注目しているということです.事実に基づく論理的思考により,考慮の対象となっている事象について,その因果関係や目的・手段関係を明らかにしようとしますから,ある目的を達成するために,その要因・条件についてどうなっていなければならないかを知ることができます.この知見を使えば,望ましい状況を「再現」できるように,ある程度は状況を制御することができるようになります.「合理」を実現する方法論の特徴,それが「科学性」ともいえます.

 

「賞罰」とは,組織運営において「信賞必罰」を原則とするという意味です.信賞必罰とは「賞すべき功績のある者は必ず賞し,罪を犯した者は必ず罰すること.賞罰を厳格に行うこと」ですが,この「正しさ」の文脈では,正しいことをした者はきちんと評価し,正しくないことをした者には,そのことを指摘し,正しいことができるように仕向けることを意味しています.良いことをしたら,多数が知る場で適切に認められ,評価され,褒められ,逆に好ましくないときには,何がどう好ましくないのか理解できるように知らしめることが必要です.こうした組織行動によって,様々な状況において「正しさ」を求めるということが,どのような思考・行動を期待してのことなのかの理解が浸透していきます.

 

このような,組織の体質・風土というものは,組織運営,業務遂行において,良い思考・行動行動様式を繰り返すという習慣によって身につくものです.大のオトナに向かって失礼な言い方ではありますが,まさに職業人・社会人としての「しつけ」をすることなのだろうと思います.

 

そのむかし,さる日本のグループ企業の一つで,「なかなか優秀な,人間としても立派な方がいらっしゃいますね」とお世辞半分で申し上げたら,その会社の人事担当役員が「そこそこかもしれませんが,私たちのグループ企業にはもっと良い会社があります.入社のときに同じような属性・能力の持ち主が,うちより良いその会社に就職して20年もすると,相当に違った人間になっているのです」と言われました.同じ人に異なる経験をさせて比較する実験はできませんが,同じような人の集団を比較した時に,一朝一夕には追い付けない差を感じてしまったというのです.体質・風土は,組織に前々から内在しているものと思いがちですが,繰り返し,習慣,刷り込み,しつけなどによって,何とかなるというのです.もちろん,簡単なことではないのですが.

 

結局,「正しさ」とは,正しい目的にこだわり,その目的を正しい,合理的な方法で実現していくという組織風土です.こうなるためには,どのような運営,どのような価値基準を重視したらよいのでしょうか.

 

私は,第一に「目的志向」「外向き」ということではないかと思っています.外部の期待に応えることが重要と考え,その実現において自らの責務を果たすことを重視する価値観です.常に,何のため,誰のため,どのような状況にすることをねらいとしているのかというような目的を意識し,その目的達成に真正面から努力する思考・行動様式です.不正をしたり,姑息な手段を講じたら,そのこと自体が目的達成に反してしまいます.

 

第二に,「目的・手段関係」や「因果関係」の考察を重視するという価値基準ではないかと思っています.目的達成において,それが合理的であるためには,目的と手段の関係を理解していなければなりません.これから実施することがどのような結果になるかを知りつつ行動するには因果関係に関心がなければなりません.目的達成行動において,目的志向であるだけでなく,目的・手段関係を深く考察することの重要性を強調する組織は,合理的であり正しいことが行われやすい組織ではないかと思います.
 
飯塚悦功

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