本日から、品質部門配属になりました 第57回 『トップ診断』(その1) (2021-07-05)
2021.07.05
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1.トップ診断の概要とそのねらい
トップ診断とは,トップ自らが現場に出かけ,事前に設定したテーマについて議論し,部門を評価するとともに,部門とのコミュニケーションを円滑化する活動です.トップ自らが,品質に関する活動やその効果,現場の雰囲気などの実態を評価したり,感じたりすることもねらいとしています.企業によっては,社長診断をはじめ,他の名称で呼ぶ場合もあります.
製品,サービスの品質による顧客への価値提供の上で,トップの意思決定の重要性は言うまでもありません.トップが中心となり,品質に関する経営目標の設定や,その実現のための戦略の策定をします.次に,それらを全組織にそれぞれの部門の機能をもとに展開します.このように言葉にすると単純ですが,この実践は容易なことではありません.トップが目標,戦略を正確に表現したつもりでも,それぞれの部門に意図通りに伝わらず部門の目標や方策が策定されていないことも多々あります.また,部門長のレベルでは意図通りの展開ができても,第一線への展開では意図に反することもあります.トップの意図が全組織に展開されているかどうかをトップ診断により調べ,必要に応じて対策をとることで,組織を一枚岩にすることを目指します.また,トップがそれぞれの部門の雰囲気を感じるとともに,部門からトップに意見を直接伝える場でもあります.
トップ診断と似たねらいを持つ活動に,四半期会議,定例マネジメントレビューとよばれる活動があります.この活動では,会社全体の日常的な課題に関する評価と対応,重点的な課題にかかわる活動の目標の達成度合いと方策の実施度合い,部門の目標の達成度合いと方策の実施度合いなどにより,会社が進むべき方向に進めているかを総合的に評価し,必要に応じて対策を取ります.
活動の効果を評価し次の活動を考えるという点では,四半期会議や定例マネジメントレビューと,トップ診断は同様のねらいを持っています.一方,四半期会議や定例マネジメントレビューは,全組織で計画的に実施し,重点活動の達成度などの正確な評価がねらいになります.これに対しトップ診断では,特定の部門,現場に焦点を絞り,トップの意図の浸透度の評価やトップによる現場の雰囲気の把握,現場とのコミュニケーションなど主なねらいとする点で異なります.今回のメルマガでは,トップ診断の概要,品質部門の役割,トップ診断のねらいの明確化などを取り上げます.どのようなテーマについて取り上げるかは,次回のメルマガで説明します.
2.トップ診断における品質部門の役割の重要性
トップ診断を実施するにあたり,品質部門の役割はとても重要です.品質部門には,製品,サービスを通して組織全体を横断的に見る役割があります.製品やサービスの品質は,企画段階では顧客の声にもとづく,製品やサービスのありたい姿という漠然とした情報で表現されます.次の設計段階では製品,サービスの仕様の目標値で表現されます.生産,提供段階では,実際に生産した製品や提供したサービスの指標値で表現されます.次の営業では,製品,サービスの仕様に対する認識で表現され,製品の使用時,サービスを受けている段階では使用に対する顧客の満足で表現されます.このように,品質は時間の流れに沿って形態が変化するので,どこかの部門が一元的にそれを見ておかないと,それぞれの部門が自分たちの思いだけをもとに活動をし,顧客指向から外れた活動になりかねません.
トップ診断で取り上げる重点課題は,多くの場合,部門単体の解決するものではなく,複数の部門の共同によって解決する問題です.したがって,これらの部門間の橋渡しが必要であり,それを担うのが品質部門です.品質を通して会社全体を眺め,効果的にトップ診断が進めるようにするのが品質部門の役割です.
より具体的には,品質に関連する諸活動の事務局の役割だけでなく,企業の司令塔たるトップを陰で支え,導く参謀の役割もあります.組織の構成上表立ってはできないのですが,品質部門はこのようなトップ診断などの機会を利用して,製品,サービスの品質をとおして組織を良い方向に導くという重要な役割があります.
3.トップ診断のねらいの明確化と場の設定
定例会議,マネジメントレビューの主なねらいは
(a) 日常的な課題に関する評価,対応,重点的な課題にかかわる活動の進捗,効果の網羅的,かつ,正確な
評価
であり,トップ診断,社長診断の場合には,上記を考慮しつつも
(b) トップの意図の浸透度評価,現場の雰囲気の推察,トップと部門のコミュニケーション
の重みを増すことになります.どちらか一方で十分ではなく,両者の側面でトップは会社を知る必要があります.ねらいが変われば,その運営方法も当然変わってくるので,まずは,診断のねらいを明確にする必要があります.このうち,(a) 重点課題にかかわる活動の進捗,効果の正確な評価については,方針管理の枠組みを利用し,これと連携することでトップ診断を実施するとよいでしょう.
一方,(b) トップの意図の浸透度評価,現場の雰囲気の推察,トップへの意見伝達を主眼とするトップ診断の場合には,その場の設定を考える必要があります.まず,どのようなトップ診断が好ましいのかについて,次が挙げられます.
(1) トップ自らが,現場での実践を目の当たりにすることで,社内の課題,社内に潜在化している問題を感
じたり,見当をつけたりすることができる.
(2) トップが,部門の生の声を聞くことで現場の雰囲気を察することができる.
(3) トップ自らが品質に関する実態を現場で評価することで,部門にその問題の重要性が伝わる.
(4) 現場で部門がそれぞれの思いを発することで,トップと部門のコミュニケーションが円滑になる.
これらを達成するべく,適切な場を設定する必要があります.トップ診断は,原則としてトップが部門を訪問し行われます.社長室や本社の会議室で実施すると,部門の限られた人しか参加できなくなり,上記が達成できなくなる可能性が高くなります.また,部門の生の声を聞くことためにも部門で実施します.
次にスケジュールです.トップが予告無しに訪問する場合,前日に訪問を伝える場合,ある程度の準備期間を置いて訪問を伝える場合などさまざまです.トップが現場の雰囲気を感じるためには,準備など必要がないという考え方に立つと,直前に伝えれば十分になります.
トップが現場の雰囲気を感じ,察することは,さまざまな点で重要です.データの改ざんなどをはじめとする不正や,コンプライアンス違反は,従業員がやりたくてやっているのではありません.過度のコスト低減の要求,売上向上命令など,重圧が強すぎてそのような行動に出てしまう場合がほとんどです.このような場合には,現場で何らかの変化が生じます.トップ診断は,このようなことにつながる予兆を感じる場でもあります.健全で風通しがよい企業にするために,トップが現場の雰囲気を知る必要があり,トップ診断は,そのための一つの重要な機会です.次回は,トップ診断について,テーマの設定などについて説明します.
(山田 秀)