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本日から、品質部門配属になりました 第53回 『品質のための体制の構築・維持・改善』(その1)   (2021-06-07)

2021.06.07

■品質経営のための体制整備

 

先週まで3週にわたって説明された「経営における品質の意義の全社的浸透」を受けて,CQO(Chief Quality Office;最高品質責任者),すなわち「経営に対して責任・権限を持つ,品質に関わる社内外のあらゆる活動の統括を行う最高位の責任者」のリーダーシップのもと,品質のための体制の整備を,品質部門としてどのように進めるべきかについて考えてみます.

 

「品質のための体制の整備」としては,以下のような品質機能が必要になります.

1.品質基本方針の策定・展開・運用

  ・経営における「品質」の意義の再認識

  ・品質経営に関わる基本方針の策定・展開・実施・評価・対応

2.品質のための組織的体制の確立

  ・品質保証に必要な経営機能の明確化

  ・品質保証に必要な経営機能を担う組織体制の整備

  ・品質保証体系の構築

3.事業戦略実現のための品質経営の運用

  ・経営環境の認識に基づく品質経営に関わる課題の明確化

  ・品質経営戦略の策定と運用

  ・品質体制の運用状況の把握と対応

4.品質に関わる経営環境の動向・変化の把握と対応

  ・内外の経営環境変化の把握・分析

  ・品質経営に関わる社会動向,価値観の変化などについての調査・分析・研究・提案

 

これらについて,どのような活動が必要になり,品質部門としてどのような役割を果たすことが期待されるのか,検討していきます.

 

■品質基本方針の策定・展開・運用

 

ここでいう「品質基本方針」とは,経営における品質の意義・重要性の理解に基づいて定める,経営における品質に関する基本的考え方や行動原理を意味しています.もちろん,その基本方針は,経営環境,組織の経営理念,ビジョンなどに応じて変わっていくでしょうが,それほど頻繁に変わるものではないと考えられます.例えば,後述する,中期品質経営計画や年度品質経営方針のような3~5年程度の時間軸で定める方針・戦略よりは,長期にわたって思想・行動の基盤にするような方針をイメージしています.こうした基本方針を定めなくても組織運営をしていくことはできるかもしれませんが,品質の重要性の認識を組織全体に浸透させるという意味では,経営における基本思想として明確に言語化しておくべきことが望まれます.

 

同じような概念としては,ISO 9001でお馴染みの「品質方針」があります.ISO 9001の品質方針は,TQMの方針管理がイメージしているような環境変化に応じて組織一丸で対応するための経営ツールとしての年度方針とは異なりますし,またいわゆる品質に関わる事業戦略とも異なり,かなり長期にわたって変えることのない基本的考え方を定めているようです.

 

品質基本方針を定めるにあたっては,事業の特徴,すなわち市場・顧客,基盤となる技術,製品・サービス,製品・サービス実現プロセス,競争環境,サプライチェーンなどの特徴,動向を考慮して,品質マネジメントにおいてどこに価値を置き,何を重視するかを明言することになります.また,そもそも事業において成功するために,狭義の「品質」が,コスト,納期,安全,環境,社会的責任など,経営におけるその他の側面との比較において,どのくらい重要であるかについても考慮しておく必要があるでしょう.

 

品質基本方針としては,例えば,品質第一,お客様第一,顧客価値創造,社会的価値重視,SDGs尊重,システム思考,プロセス重視,科学的管理,三現主義,ひと中心マネジメント,パートナー・供給者との共存共栄,関係者との共創,持続的成功,改善・革新,リスクベース思考などをキーワードにした表現がいろいろ考えられますが,そのことに軸足をおいた品質経営を実施していく拠り所にできる少数の方針を定めたいものです.

 

品質基本方針を定めただけでは単なるスローガン,お題目にとどまりかねませんので,これを展開していく必要があります.展開としては,領域・分野・側面などへの分解と,手段・方策への展開の2種類ありそうです.基本方針には広い意味に解釈できる用語が使われるでしょうから,分解・展開は方針の意図・ねらいを明確にし,後述する品質保証体系や組織体制に的確に反映するためにも重要となります.

 

さて,品質部門としては,品質基本方針の策定事務局としての諸業務,例えば原案作成,検討タスクの運営などのほか,方針,分解・展開,方針の実効性(有用性・有効性)などの妥当性確保,さらには方針の理解の浸透,方針の実施に関わる諸活動の支援・調整,レビュー・監査・診断,そのフォローなどに関わる業務を担うことになります.

 

■品質のための組織的体制の確立

 

品質のための組織体制の確立のためには,第一に,製品・サービスの品質保証に必要な経営機能を明確にする必要があります.第二に,それらの経営機能を担う組織体制を整備する必要があります.そして第三に,これら2つの考察を踏まえて,品質保証体系を設計し,構築し,運用できるように整備する必要があります.

 

第一の品質保証に必要な経営機能の明確化のために,品質マネジメントシステム(QMS;Quality Management System)がどのような要素から構成されるかという視点で整理しておきます.

 

①フレームワーク

 (QMS全体の設計・構築,運用の枠組み,監視・監査・レビュー,改善)

 計画:QMSの計画(QMSの企画,設計,構築,運用計画)

 評価:QMSの評価(監査,診断,マネジメントレビュー)

 改善:QMSの改善(プロセス,マネジメントシステムの改善・革新)

②製品・サービスの実現プロセス

 (顧客要求の特定から顧客への製品・サービスの提供・支援サービスまでの一連の活動)

 企画:製品・サービスに関わる要求・ニーズの分析・定義

  (マーケティング,製品・サービス企画)

 開発:要求・ニーズを実現する手段の開発,仕様(研究開発,設計・開発)

 実現:仕様通りの製品の生産,サービスの提供(生産,サービス提供)

 調達:製品・サービスに組み込まれるモノや役務の外部からの入手

  (購入,外注,アウトソース)

 検証:製品・サービスの検証,妥当性確認,評価(検査,監視,評価)

 提供:製品・サービスの提供・設置,使用支援・サービス(販売,付帯サービス)

③経営資源の整備プロセス

 (製品・サービスの実現プロセスで利用される経営資源を利用可能な状態に維持する活動)

 ひと:業務を遂行する人材(人事,人材育成)

 設備:製品・サービスの実現に必要なハードウェア(生産設備,計測・試験機器,治工具)

 知識:業務遂行に必要な知識・技術の構造的可視化(知識ベースの構築・管理)

 その他の経営資源:パートナー・供給者,業務環境,インフラ,財務資源など

 

第二の,品質保証に必要な経営機能を担う組織体制の整備にあたっては,まず検討すべきは組織構造です.組織構造として最も一般的な形態は,いわゆる「機能別組織」と言われるものです.例えば,品質保証に必要な経営機能のうち②の製品・サービスの実現プロセスを担う組織として,商品企画部,技術部,開発部,製造部,購買部,営業部というような部門を設けるのは自然に思われます.③の経営資源の管理についても,人事部,経理部,工務部,技術管理などの部門が,然るべき機能を担うような組織を作るのも一般的です.

 

では,①のような経営機能や,③の知識マネジメントのような機能は,機能別組織の構造をとっている組織においてはほぼすべての部門が担うことになり,一つの機能を一つの部門が担うように設計することが難しくなります.そこで,品質,原価,生産管理,安全,環境,監査・診断のような機能については,主管部門とよぶ部門を作り,その部門がその機能に関する監視・管轄,支援・調整などと担うように設計するのが普通です.

 

とにかく,必要な経営機能をすべて列挙し,各経営機能をどの部門がどのような役割分担で担当するか,その多対多の関係を明確にし,また主担当部門がどこであるかを明確にする必要があります.また,一つの部門を木構造で細分化しているときの指揮命令系統は比較的明確ですが,複数部門による経営機能の分担の仕方によっては,管轄権・指揮権が曖昧になる可能性もあり,その指揮命令系統や意思決定プロセスを明確にしておく必要があります.

 

以上のような考察を経て,品質保証に必要な経営機能の“流れ”と,どの部門がどの機能を担うかを明示した品質保証体系が可視化されることになります.

 

品質部門は,この体系を効果的に運用していく役割が課されています.そのためには体系そのものの妥当性の根拠を理解しており,運用状況をレビューし,品質保証体系の意図通りに機能しているかどうか評価し,必要に応じて改善・革新のための活動においてリーダーシップをとることが期待されています.

 

その際忘れてならないことは,品質保証体系は手段であるということです.この体系によって達成したいことは,広義の品質保証です.品質保証体系に組み込まれている要素がどのような目的を達成するためのものであるかを理解していなければなりません.これを「情報」という言葉で表現するなら,市場・顧客のニーズ・期待に関する情報が,製品・サービス企画に反映され,設計・開発の仕様に,製造・サービスプロセス仕様,販売・サービス業務プロセス条件へと変換され,それが顧客による製品・サービスの評価に至るという「情報の連鎖」,あるいは品質情報のトレーサビリティが確保されていなければならないということです.品質保証の各段階のインプット・アウトプット情報の関係が表現されたQFD(品質機能展開)の連結のようなものの全貌を理解するということで,これは品質部門にとって重要な業務の一つと言えるかもしれません.
 
                                   (飯塚悦功)

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