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本日から、品質部門配属になりました 第52回 『経営における品質の意義の全社的浸透』(その3)   (2021-05-31)

2021.05.31

「経営における品質の意義の全社的浸透」の第3回目です.

 

4.2 全社的浸透のための共通の工夫,留意点

前回説明した4.1節の全社的浸透を進める上での,筆者が考える共通の工夫や留意点を下記に4つほどご紹介します.

(1)誤解の払しょく

何らかの新しい知識や方法論を広めたいと思っているとき,こちら側が正しい知識を体系的に伝えているつもりであっても,その知識を受け取る側が正しく理解できないことがあります.知識の全体像ではなく一部が欠落したり,知識の全体像のうちある特定の側面のみが強烈に記憶に残ってしまい,これによって大きな誤解が生じることがあります.

ちょうど,超ISO企業研究会メルマガの「TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか?」シリーズで23の誤解を,その前の「QMSの大誤解はここから始まる」シリーズでは12の誤解をその絵解き・解説ととともに提示していますので,これらを参考にして自組織でよく直面する典型的な誤解をリストアップしておき,絵解きや解説とともにFAQとして作成しておくべきでしょう.また,このような誤解があることを逆手に取って,「○○のような誤解をしていませんか?」と投げかけ,相手の興味を誘って最終的にこちら側に引き込むという策も有効だといえます.

 

(2)社内キーパーソンへの働きかけ

イノベーションの普及理論においては,普及の早い順にイノベーター:革新的採用者(2.5%),アーリー・アダプター=初期少数採用者(13.5%)、アーリー・マジョリティ:初期多数採用者(34%),レイト・マジョリティ:後期多数採用者(34%),ラガード:伝統主義者(16%)と分類し,イノベーターとアーリー・アダプターを合わせた16%への普及を超えたところで,組織内への普及が急速に高まる事実を発見しました.また,普及を進めるには5者のうちアーリー・アダプター(別名,オピニオンリーダー)への普及がとりわけ重要であるとも説いています.

この説に照らして考えれば,知識や方法論が組織内に広まる一つの大きなきっかけは,アーリー・アダプター,すなわち社内キーパーソンをどのように理解させ,仲間に引き込めるかが重要となります.したがって,組織内の誰もが一目置くキーパーソンを特定し,ピーポイントで正しい知識の獲得とその適用/活用を行うよう,集中的に働きかけを行うことが求められます.キーパーソンが正しい知識を持ち,業務上で実際に適用/活用している事実そのものがアーリー・マジョリティ以降の方々への浸透を大いに促進しますが,さらにその適用/活用によって得られた効果を成功事例として実証することで,さらに全社的浸透を強化できます.

 

(3)品質伝道師の育成

組織内のすべての人々に正しい知識を伝え,業務内での正しい適用/活用を促すことは非常に手間と時間がかかることであり,これをCQOやその補佐役の品質部門だけで担うことは困難です.したがって,CQOや品質部門と同様に,経営における品質の意義について正しい知識を広めてくれる仲間,すなわち“品質伝道師”の育成に力点を置くべきです.品質伝道師は,(2)正しい知識の獲得フェーズにおける公式/非公式の場での講師役として,(3)正しい知識の適用/活用では業務実施時の指導・助言役としての役割を主に果たすことが期待されます.

 

(4)認知・承認と激励・奨励

最後は,正しい知識を獲得し,それを正しく適用/活用できたとき,その者に対して組織として承認してあげること,勇気づけて奨励することが大事だと考えます.マズローの5段階欲求の第4段階目の承認欲,第5段階目の自己実現欲求への対応と考えてもよいでしょう.このために,その者の活動実績を誰もが目に触れる形で職場の掲示板や社内広報誌などで掲示する,優秀改善賞などの表彰制度を設けるなどを行うことが必要です.

 

5. 「経営における品質の意義の全社的浸透」における品質部門の役割

1.で述べた通り,経営における品質の意義の全社的浸透はCQO,すなわち最高品質責任者が直接的に果たすべき役割であり,この役割を果たすための補佐役が品質部門の役割です.また,上記4で述べた全社的浸透に必要な活動は多岐にわかっており,当然ながらCQOのみで実践できることには限りがあります.その意味で,品質部門こそが「経営における品質の意義」に関する正しい理解の全社的推進の旗振りであると認識すべきでしょう.そのためには,「経営における品質の意義」を社内の誰よりもきちんと理解すべきであり,だからこそ,3.でそれなりに丁寧に説明しました.

 

3.の「経営における品質の意義」を適切に理解し,4.の「全社的浸透」の方法を踏まえると,品質部門が果たすべき役割はある特定の活動というよりは,これまでに説明したA.品質保証体系の構築,B.4つの品質保証,C. 品質保証の全組織的活動や,今後説明するD. 品質経営参謀の他の活動を含めた様々な活動の中で,あらゆる場,機会,媒体や手段を用いて実践することになります.したがって,各A~Dの活動において,「経営における品質の意義の全社的浸透」という観点から,品質部門が果たすべき役割の基本方針を下記に示しておきたいと思います.

 

〇「A. 品質保証体系の構築」における役割

Aの活動においては,品質部門が管轄及び旗振りの役割を元々担っていることから,理解すべき正しい知識を織り込んだ,品質保証に関わるルール,手順書や運営マニュアル,管理基準を作成しておくことが重要です.品質部門以外の部門の方々は策定したこれら標準類に沿って業務を行うことになるため,正しい知識を意識せずとも“体現”することにつながります.

 

〇「B. 4つの品質保証」における役割

Bの活動においては,主管はほぼ各品質機能(企画,設計,購買,製造・・・)を担う部門であるため,品質部門は主管であることがなく,ほとんどが主担当ライン業務か事務局的ライン業務となります.そのため,各品質機能に対して,

     ・インプットの過不足がないかをチェックする
     ・インプットからアウトプットへと変換するプロセスの運用が,ルール通りに運用されており逸脱がない
      か,適切かをチェックする
     ・アウトプットが次の品質機能へのインプットとして必要十分かをチェックする

を行うことになりますが,この際には単にチェックというダメ出しをするのではなく,なぜダメなのかについての理由(必要に応じて,チェック項目を設けたそもそもの目的も含めて)を確実にかつ丁寧にフィードバックすることが品質部門にはとても大事です.なぜなら,品質部門から当該主管部門への理由のフィードバックこそが,(2)正しい知識の獲得と(3)正しい知識の適用/活用につながるからです.

 

〇「C. 品質保証の全組織的活動」における役割

Cの活動は“全組織的活動である”という特徴があることから,品質部門が主担当ライン業務か事務局的ライン業務として,組織の全部門に積極的に関与できる絶好のチャンスであると捉えるべきです.例えば,「品質会議の運営」は経営層に対して経営における品質の意義を説く(または誤解を解く)数少ない機会ですし,「品質評価」では品質部門が主体的に,あらゆる部門の業務に対して品質管理やTQMの思想,考え方を,それぞれの部門の業務の中で“植え付け”ることができます.全社的浸透の3フェーズでいえば,(3)正しい知識の適用/活用を最も促進できる活動領域がCの活動だといえるでしょう.

 

〇「D. 品質経営参謀」における役割

 Dの活動には,「経営における品質の意義の全社的浸透」以外に3つの活動(1.を参照)がありますが,これらはいずれもCQOを含む経営層や中間管理者層との関与が強い活動です.その意味で,品質部門は,これらの活動と関与が強い経営層や中間管理者層に対して,品質の正しい知識の提供とその適用/活用の誘導を行うための重要な機会として活用することになります.とりわけ,CQOの「経営における品質の意義」への理解は最優先事項で取り組むべきです.
 
(金子 雅明)

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