本日から、品質部門配属になりました 第50回 『経営における品質の意義の全社的浸透』(その1) (2021-05-17)
2021.05.18
1. 「D. 品質経営参謀」とは
本メルマガシリーズで取り上げる品質部門が果たすべき役割は
・A.品質保証体制: 品質保証体制の構築・維持・改善
・B.4つの品質保証: 品質の4つの側面の保証
B1.企画品質の保証: ニーズ→製品・サービス企画
B2.設計・開発品質の保証: 企画→製品・サービス仕様(+プロセス仕様)
B3.量産品質の保証: 製品・サービス仕様(+プロセス仕様)→製品・サービス
B4.市場品質の保証: 製品・サービスの使用・利用時
・C.品質保証の全組織的活動: 全組織的、部門横断的な活動
・D.品質経営参謀: 品質経営の推進における参謀的役割
であると提示し,これまでA~Cまで順に述べてきました.今回からは最後の「D. 品質経営参謀」となり,品質部門は品質経営やTQMの推進において参謀的役割を果たすべきであり,そのために何をすべきかを論じていきます.
ところで,皆さんはCQO(Chief Quality Officer)という言葉をご存知でしょうか.CQOは経営に対して責任・権限を持っている,「品質」にかかわる社内外のあらゆる活動の統括,最高位の責任者という意味であり,「最高品質責任者」です.会社の中では「品質担当役員」がこれに相当します.いわゆるISO 9001が要求している管理責任者よりは責任・権限・説明責任ともに遥かに重い役割を担っており,品質に関わる経営責任を持つ者,つまり,品質を基軸として経営や事業の持続的成功のための中長期事業戦略を実現することにコミットし,リーダーシップを発揮する役員であるといえます.
その意味で,「D. 品質経営参謀」はCQOが直接的に果たすべき役割であるということができて,その主だった内容には次のような事項が挙がられます.
[1] 経営における品質の意義の全社的浸透
[2] 品質に関わる経営方針の策定・展開・実施とそのための組織的体制(MS+組織)づくり
[3] 品質に関わる内外の動向の把握と対応,組織内外とのコミュニケーションの統括
[4] トップ診断の企画・運営
そして,品質部門は上記[1]~[4]の参謀的役割を有するCQOの補佐・サポートスタッフとしての役割が求められていると理解できます.まずは,[1]経営における品質の意義の全社的浸透について解説します.
2. 「経営における品質の意義の全社的浸透」の目的と意義
経営における品質の意義の全社的浸透とは,品質の根源的な意味や目的,経営における品質の位置づけについて,(ときには品質に関わる誤解を解きながら)組織内の人々が常に正しく認識・理解している状況を作り出すこと,またはそれを維持し向上することを目的とします.
これまで,A.品質保証体系の構築,B.4つの品質保証,C. 品質保証の全組織的活動を説明してきましたが,これらの活動を効果的に進めるためには,活動の目的である品質の意義に関する正しい認識と理解が必要不可欠であり,活動の共通基盤とも言えます.また,AからCの活動を一過性,形式的なものにせず有効に継続させ,それぞれの活動を一段と活性化させる効果も期待できます.
次からは,経営における品質の意義を解説し,その正しい認識と理解をいかに全社的に浸透させるか,さらにそれらを行う上での品質部門の役割について順に説明していきます.
3. 経営における品質の意義とは
3.1 経営・事業と品質の関係
経営・事業とは,顧客のニーズを満たす製品やサービスを提供し,それによって妥当な対価を顧客から受け取り,それを原資にして将来に渡って顧客ニーズを満たす製品・サービスを提供し続けることです.そして,これらの活動によって社会における自社の存在意義を示し,その証左として持続的成功を成し遂げると捉えることが可能です.
もちろん,経営・事業においては製品・サービスの直接の受け手である顧客のみならず,社会,供給者,従業員,株主や投資家などその他の利害関係者への配慮も必要不可欠です.最近はESGやSDGsなどのように,ガバナンス・企業統治や世界の持続可能性に関する期待やニーズをも満たすことが求められています.
一方で,品質とは「顧客を含めた利害関係者の要求(事項)や期待を,提供した商品・サービスが満たしているか(合致している)の程度」であり,言い換えると,“製品やサービスを通じて提供する価値に対する顧客やその他の利害関係者による評価の結果”とも言え,品質とは“顧客価値”とか“社会的価値”を創造することであると理解できます.(※これら詳細の解説については「TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか?」の第2,3回や第36,37回メルマガを参照してください).
以上から,品質の根源的,本質的な意味とその目的から照らせば,品質は経営・事業そのものである,または少なくとも経営・事業の中核に据えるべき極めて重要な事柄であるといえます.
3.2 財務基盤・利益と品質の関係
経営や事業の継続には当然ながら良好な財務基盤,利益が必要不可欠ですが,品質は事業継続のための高収益確保にも貢献します.その理由は次の通りです.
まず,品質の根源的意味や目的から,品質が良いとは製品・サービスの受け手である顧客に受け入れられることであり,よく売れるということです.単に多く売れるだけでなく,顧客自身も気づかない潜在的ニーズに,競合相手よりもいち早く対応した製品・サービスを実現し,市場に提供することによって,市場価格よりも高いプレミア価格で売れます.かつ,これらの事業活動に関連し影響を受けるその他の利害関係者の期待やニーズを満たすことにもなります.つまり,売り上げ単価と売上個数の増加に寄与するので,総売上高が増えます.
次に,品質は高品質な製品・サービス提供のための会社内の事業運営活動の効率化にもつながります.品質には,製品・サービスの受け手の直接顧客やその他の利害関係者というように組織の外部にいる方ではなく,組織内の各事業プロセスの担当部署を顧客としてとらえる「内部顧客」という考え方や,各部署が担当する業務やプロセスの質を向上する「業務や仕事の質」の考え方があります.
さらに,品質管理の“管理”とはもともと“目的を効率的,継続的に達成する”ことを意味しており,これにより,従来よりも少ない経営資源の投下でこれまでと同様な量や高品質の製品・サービスを提供できるようになります.つまり,事業運営活動の効率化による費用・原価低減効果が得られるとともに,効率化によって節約した経営資源を新たな製品・サービス開発に同時並行に投下することで,売上増にも貢献するのです.
以上のことから,財務基盤の確保という側面から見ても,品質に取り組むことは売上増,費用・原価低減の両方の効果が得られ,結果として高収益を確保することができるのです.
(金子 雅明)