本日から、品質部門配属になりました 第45回 『品質管理教育』(その2) (2021-04-05)
2021.04.05
今回は,品質部門が担う品質管理教育の実施とその評価・改善をひも解きます.
■品質管理教育としてのQさんの職場内教育
品質部門に着任早々のQさんは,未経験な業務を完璧にはこなせません.
そこで,OJTの仕組みに則った品質管理教育の一環である職場内教育として,上司の指導を受けながら業務に必須な事項から学び,習得していきました.OJTは,単独で業務目的を達成できることを目標に,自己評価と上司助言などをもとに立案した個人別教育計画によって進められます.
Qさんは,担当業務がどのような仕組みに基づいて進められているか,インプットとアウトプットは何か,何をしなければならないかをプロセスフローチャートで理解しました.
その上で,順守する標準と帳票を読み込み,部員の支援を受けつつ実践しました.
また,業務結果の良し悪しを判断するための管理項目と管理水準,チェック頻度を管理項目一覧表で確認しました.管理項目が異常の場合は異常処置報告書を発行し,3回程度連続で異常が続いたら上司と一緒に原因追究する決まりです.
■品質管理教育としての職場外教育
Qさんは,個人別教育計画に沿って研修プログラムを受講することになります.
品質部門は,教育体系の職場外教育として品質管理教育の様々な研修プログラムを企画・計画して組織内に提供し,運営管理します.
品質部門が企画・計画・運営管理する品質管理教育の代表的な研修プログラム名〔主な課目〕を次に示します.
A) 経営者コース〔経営計画・戦略立案,方針管理・日常管理・小集団改善活動,優秀実践事例の意見交換〕(2日程度)
B) 管理者・部課長コース〔方針管理,日常管理,小集団改善活動,品質保証,経営課題解決,部下を指導で
きる程度のQCストーリーとQC手法〕(月2日×3か月程度)
C) 監督者・職組長コース〔日常管理の進め方,品質保証,問題解決や小集団改善活動の進め方〕
(月1.5日×3か月程度)
D) 一般職コース〔QC的な考え方,日常管理,問題解決の進め方〕(2日程度)
E) 品質管理専門技術者コース(基礎)〔品質管理検定2級相当の内容)(月4日×2か月程度)
F) 品質管理専門技術者コース(上級)〔品質管理検定1級相当の内容,自職場の事例研究,実験計画法・多変
量解析法・信頼性工学・品質工学などのユニット化を含む〕(3~6か月の間に20~30日程度)
G) 小集団改善活動リーダーコース〔小集団改善活動の基本・考え方,リーダーシップ,チーム活動の運営方
法,問題解決の進め方〕(2日程度)
H) 小集団改善活動推進者コース〔小集団改善活動の基本・考え方,問題解決,推進の計画と方法,活性化の
方法,小集団改善活動の指導方法,他組織の成功事例,GD〕(月3日×2か月程度)
品質管理検定の1級から4級に求められる知識・能力のレベルは,日本規格協会のホームページをご覧ください.https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0500/index/qc/qc_level/
品質部門は,これらの研修プログラムへグループ組織やパートナー組織の参加を促しています.研修プログラムFのように専門性が高く組織内で教育が難しいコースは,外部教育機関を活用します.
品質管理教育の研修プログラムで優秀な成績を収めた修了者は,品質部門から表彰されるとともに品質管理指導員の資格を付与され,指導者としての意欲を高められます.
■品質管理教育としての実践教育
品質管理教育は,職場外教育を受講して知識を得るだけでは役立ちません.
品質部門は,全部門・全階層で全員参加による改善を組織文化として定着することをねらい,教育体系の品質管理教育の一環である実践教育に小集 団改善活動を組み込みました.
実践教育は,自分の仕事の中から現実に起こっている問題・課題を取り上げ,解決・達成のプロセスを実施で学習・習得する品質管理教育の機会です.
Qさんなど品質管理教育の受講者は,研修プログラムの履修後に改善テーマを登録し,上司や品質管理指導員の支援を受けながら問題・課題の解決を行うことで品質管理教育の研修プログラムを修了します.
小集団改善活動は,第一線職場で働く人々が継続的に製品・サービスの品質あるいはプロセスの維持向上・改善を行うQCサークル活動,組織の重要問題解決のためにプロジェクト型の改善チームを結成して改善・革新に挑むチーム改善活動があります.
小集団改善活動による実践教育を通して,問題・課題の発見や解決の能力向上,社会人基礎力(前に踏み出す力,考え抜く力,チームで働く力)を養うことが期待できます.
小集団改善活動は,品質管理学会規格「小集団改善活動の指針」(JSQC-Std 31-001:2015)が参考になります.
■品質管理教育の効果の把握
品質管理教育の効果を把握してさらに品質管理教育の質を向上したいと品質部門が望むのは自然な成り行きです.
品質部門は,品質管理教育が計画的に進捗し,成果を上げているか,改善点は何かなどを確認しなければなりません.PDCAのサイクルで言えばCheckに該当します。
特に,A)組織と部門の人材育成の評価,B)個人ごとの成長の評価,C)研修プログラムと教育体系の評価が大切です.
A)について,品質部門は,品質管理教育を通して経営目標・戦略の実現に必要な組織能力を計画的に充足できたかを主に次の観点から評価します.
‒ 計画した品質管理教育を計画通りに実施したか
‒ 受講者の理解度,応用力などの能力がねらい通りに向上したか
‒ 受講者が品質管理教育で習得した内容を実務で活かしているか
‒ 品質管理教育の研修プログラムが妥当で役立つか
‒ 品質管理教育における教育・訓練の経営資源が適当か
‒ 品質管理教育を行った講師,教材,教育環境,施設などに改善点はないか
これらの結果,
‒ 品質保証,方針管理,日常管理,小集団改善活動,新製品開発管理,プロセス保証などの品質管理の活動レベルがねらい通りに向上したか,組織全体・部門が期待したレベルに達したか
‒ 組織全体・部門の目標・戦略の達成に貢献したか
‒ 有形効果,無形効果が大きいか
B)について,品質部門は,個人別教育計画を実行し,個人ごとが獲得すべき能力目標を達成できたかを自己評価や上司評価などを参照し,個人ごとの成長度合いを主に次の観点から評価します.
‒ 計画した品質管理教育の研修プログラムをスケジュール通り受講したか
‒ 品質管理教育の研修プログラムで学習したことを問題解決や課題達成へ活かしているか,その結果成果を上げたか
‒ 経営目標・戦略の実現に必要な能力を計画通りに獲得したか
‒ キャリアプランに沿う能力を獲得したか
‒ 目標とした組織内外の資格を取得したか
C)について,品質部門は,A)とB)から,品質管理教育の各研修プログラム(職場外教育,職場内教育,実践教育など)の実施状況と成果の両面を考慮し,評価します.
‒ 品質管理教育の各研修プログラムを計画通り実施できたか
‒ 品質管理教育の各研修プログラムの実施で困難だった点は何か,経営資源の充当が適時・適切か
‒ 研修対象部門は適切か,育成をねらっている人を研修対象者に絞り込めたか
‒ 個人別教育計画に沿って個人の能力を育成できたか,部門の能力が計画通りの水準に達したか
品質部門は,品質管理教育に関する教育体系の評価を,教育体系全体に共通する偏った傾向がないか,研修プログラム間に異常なばらつきや違いがないか,階層や分野で層別したときに層間で差がないかなどの視点をもとに行います.
■品質管理教育の仕組みの改善と組織の持続的発展への道筋
品質部門は,前記A),B),C)による評価を考察し,品質管理教育の仕組みの強み弱みを見極め,改善に着手します.改善の進め方は,教育体系に位置づけられた実践教育の一環である小集団改善活動のチーム改善活動を適用し,経営層へ進捗や成果を報告し,診断やレビューを受けます.これが経営層を品質管理教育に深く関与させる動機付けになります.
品質部門は,改善結果を中長期人材育成計画,教育体系,品質管理教育の研修プログラム,個人別教育計画などに活かすことによって,品質管理教育の深化を促せます.
メルマガでは,品質部門が主管する品質管理教育について,品質部門に配属されたQさんを介して品質部門が主体的に果たす役割を概ねPDCAの流れに沿って解説しました.
前回(その1)では,品質管理教育の策定,階層別分野別の教育体系の構築,個人・部門の必要能力と実現能力の把握,個人別教育計画の立案という面から,品質部門が担う品質管理教育の計画について説明しました.
今回(その2)では,品質管理教育の各種研修プログラムの企画・計画・実施,品質管理教育の効果把握とその改善という面から,品質部門が運営管理する品質管理教育全般の実施・評価・改善についてひも解きました.
品質部門が主体性を持って品質管理教育の仕組みを確立し,運営管理することは,一人ひとりの成長,部門の使命・役割の達成,品質保証の要諦となる顧客価値を創造できる組織能力の向上をもたらし,健全な組織文化を育む正攻法になります.
人重視の明瞭な組織方針に裏づけられた人材育成計画を策定し,個人・部門の能力開発に力を尽くすことが,組織の持続的発展への基盤を強固にする道筋と思います.
(村川 賢司)