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本日から、品質部門配属になりました 第42回 『クレーム処理,重要品質問題対応』(その2)   (2021-03-15)

2021.03.15

2.クレームの解析(原因究明)

 

前回(その1)で説明した「応急処置」で,クレームの現象そのものがなくなれば,当面は顧客の不満は解消するかもしれません。しかし,同様のクレームが今後発生することを防ぐためには,欠陥現象そのものの除去のみならず欠陥の原因を除去しなければなりません。品質管理のレベルを上げるためにも,クレームの原因を究明し,これに対して処置をとる活動が必要です。以下に,クレームの解析(原因究明)として,手順⑥~⑪まで説明します。

 

⑥クレーム現象の正確な把握

クレームの原因を究明するための最初の重要なステップは,欠陥現象の正確な把握であり,以下のような項目を,もれなく確実に把握・記録する必要があります。

・クレーム品の製造番号

・クレーム品の使用開始時期・使用頻度

・欠陥が発生した部位,欠陥の内容・発生月日

・欠陥発生時の使用状況・使用環境

 

このうち,最初の「クレーム品の製造番号」については,製品製造時の製造履歴の記録(トレーサビリティ)と対応させることによって,クレーム原因の調査の重要なデータとなります。逆に,クレーム原因の調査には製造時のトレーサビリティの記録が欠かせないともいえるでしょう。

そして,できる限り現品を入手するか,必要なら現地を調査することが良いでしょう。

 

⑦「重要品質問題」への登録

「重要品質問題」とは,「開発,生産工程や市場において発生する各種品質問題のうち,発生率,内容の重大性,市場に及ぼす影響など,ユーザーおよびメーカーの双方の立場から,被害の大きさが一定の基準を超えるもの」をいいます。

“一定の基準を超えるもの”,すなわち重要であるか,そうでないかを決める基準は,単に一時的な(発生又は予想されるロス等の)金額評価だけではなく,企業としての将来的な能力や信用についても考慮する必要があります。

このような重要品質問題は,組織内で正式に認められた(オーソライズされた)案件として登録されます。その問題解決のアプローチは,以下に述べる⑧以降の手順と基本的には同じですが,一般的には関係部門が総力を挙げてタスクチーム編成をして,その対応に取り組む必要があります。

 

⑧ クレーム原因の解析担当部門の決定

クレームの原因究明を担当する部門を決めます。その担当部門は品質部門の場合もあるし,以下のようにそれ以外の部門の方が良い場合もあるでしょう。

担当部署はそのクレームの原因に関する固有の技術を有していなければなりません。調査・研究,設計・開発,製造,品質保証等の部門がある場合は,クレームの内容に応じて,主担当部門を決めると良いし,複数の部門の協力・連携が要る場合もあるでしょう。

 

⑨ 解析担当部門における現品調査と実地調査

解析担当部門が,欠陥の原因究明を目的として,現品を調査し,また必要なら現地の調査を行ないます。例えば,顕微鏡による観察,化学分析,精密測定などを行ない,クレーム品を詳細に観察します。使用環境などに問題がありそうな時は,現地に出向き詳しく状況を調査します。

問題解決にあたり,現地(現場)に行き,現物を観察することは極めて大切な事です。

そして現場にいる人の話を真摯に聞くことが望まれます。

 

⑩ 欠陥の原因の究明

クレームの原因は,一般には単純ではなく,種々の要因が重なっていることが多いので,

原因究明は次のように多面的に行う必要があります。

 

1)欠陥発生のメカニズム(物理化学的な技術的原因)と管理上の問題点に分ける

  その欠陥がどのようにして発生したかの“メカニズム(物理化学的な技術的原因)”を究明することと,
  「管理上の問題点」はないかと二つに分けて考えるのが良いでしょう。

  これを明確にしておかないと,技術的な原因究明を怠って,単に「不注意だったので,これから気を
  付けなさい」という「管理上の対策」で逃げることになり,再発を招きかねません。

2)発生原因と流出原因に分ける

  クレームとなった欠陥をつくり込んでしまった工程とその原因(発生原因)とその欠陥を見逃して
  しまった工程とその原因(流出原因)を 分けて考える必要があります。

3)関連標準との関係を解析する

  決めたルール(標準書)と,その教育訓練と実際の実施状況等とは区別しなければなりません。この
  ために,「クレームに関係する標準があったのか?」「標準を守ったか?」「標準を知っていたか?」
  「標準を教えられていたか?」「標準遵守の意識があったか?」等のチェックを順次展開していくこと
  になります。

 

⑪品質保証システムの不備の解析

クレームにつながった欠陥は,その欠陥に関する製品特性の設計仕様に盛り込まれていなかったために起きたのかもしれません。また,ある欠陥は,その特性が品質試験時に試験されずに見逃されたために起きたのかもしれません。このようないろいろな分析を通して,品質システムの不備を発見し,改善に結び付けることも必要です。

お客様クレームにつながる製品の欠陥の原因を分析する時に,品質システム(設計→製造→試験・検査→出荷 等の各工程を通じた品質保証の仕組み)のどこ(どの工程)に原因があったのかを特定し,品質システムの不備を発見することが大切です。そしてその不備をなくすことが改善につながることになります。

     

3.再発防止策
 

前述の「2.クレーム解析」で説明した方法で,クレームを発生させるに至った種々の原因が明らかになったら,その原因へ対応すること、即ち以下の⑫~⑯のような再発防止を目的とする処置をとることになります。

 

⑫ 対策案の立案

問題の性質に応じて,対策を実施する範囲を決定します。変更を行なおうとする時には以下の2点に注意する必要があります。

 ・新たな問題を引き起こさない

 ・全体として統一のとれた変更を完全に実施する

対策案の実施に伴う変更の思わぬ副作用で,別のクレームに結び付くことは,よくありますので,変更の影響の評価が必要です。
 

⑬ クレーム品と同一の製品に対する処置

再発防止の第一は,クレームを起こした製品と同一種類の,既に製造された製品に対する処置です。この処置は,クレームを起こした欠陥の影響が大きく,既に製造・販売された製品についても処置をとる必要がある場合にとられます。

すでに顧客の手に渡っている製品について,状況によっては人に危害を及ぼす恐れがあると推測されるときや,機能・性能上看過できないときには,欠陥のある製品が含まれる製品群について,その欠陥について公表し,無料で点検し,所要の修理・取替えを行ないます。この処置は,“リコール”と呼ばれます。

この処置を的確に行なうためには,欠陥の原因の特定を速やかに行なうとともに,日ごろから,いつどのように作られた製品群がどの顧客群に渡ったのかが特定できるという意味での製品の追跡性(トレーサビリティ)についての考慮がなされている必要があります。

既に販売された製品以外についても,販売店など流通経路にあるもの,製造者の倉庫にある在庫製品,あるいは製造工程の途中に仕掛かっている中間製品についても,販売済み製品と同様の処置が必要です。

 

⑭ 他の製品に対する処置

クレームの原因となった部品,機構,原理を用いた製品はクレーム品と同一の製品以外にもありえますから,これらの製品群についても対策する必要があります。その方法については前項⑬に準じます。

 

⑮ 設計・製造・評価(検査)他のプロセスに対する処置

前項⑬,⑭はすでに製造されていたり,製造途中にある製品群に対する処置ですが,クレームの再発防止のためには,これだけでは不十分です。これから製造する製品に対しても次の1)~4)の処置をとる必要があります。

 1)設計に対する処置

   クレームを起こした製品と同一の製品あるいは他の製品の設計仕様に,誤り・不備・あいまいさがあ
   るなら,これを改めなければなりません。

 2)製造工程についての処置

   製造技術上の問題については,技術者がこの工程について研究し,より良い標準を作成すればそれで
   よいでしょう。

   作業ミスについては,作業者の教育・訓練とともに,できるだけミスを起こさないような工程の工夫,
   ミスを発見できる方法を考える必要があります。

 3)品質評価(検査)についての処置

   これを防ぐためには,部品の受け入れ検査,工程中の検査,最終検査における検査項目の追加,測定
   機器の改善,測定方法の改良,判定基準の改訂などが必要です。

 4)包装・輸送・保管中の扱いについての処置

   この場合には,包装方法の変更,輸送手段の変更,保管環境の改善,出荷時の検査などが必要になり
   ます。

 

⑯ 品質保証システムの改善

前項⑮の対策は,現在,製造・販売中の製品に対する再発防止策です。再発防止を真に実りあるものにするには,将来,企画・設計・製造・販売する製品群に対して何等かの処置をとる必要があります。前述の⑪の解析は,クレームの直接原因ではなく,そのクレームを引き起こした品質保証システムの不備の発見とその除去を行なうためのものです。

そのために,その原因に応じて,以下の1)~4)の処置をとる必要があります。

 1)関連する重要特性が設計仕様に盛り込まれていないために起きた

  →仕様項目の抜けを無くすための方法を考え出す

 2)関連する特性が試作時に試験されずに見逃されていたために起きた

  →試験項目の選定方法を改善する

 3)製造工程で作業標準通りに作業されていないために起きた

  →作業者に対する作業標準の内容の教育・訓練の方法を改める

 4)関連する特性について最終検査をしているにも拘わらず,判定基準が不明確なために見逃された

  →判定基準の定め方を改善して,検査の計画時にその明確さを確認する

 

4.クレーム情報の活用

 

⑰ クレーム処理報告書の作成(完成)

前回の⑤で述べた「クレーム処理報告書」は,クレーム処理を円滑に進め,クレームの内容・処置の記録を残し,クレーム情報をのちに解析できるようにするために書かれます。

クレーム処理報告書には,少なくとも以下の(a)~(f)の事項が含まれるようにします。

      (a)ユーザ名
      (b)クレーム品の製品名,製品番号,製造番号(またはロット番号),使用開始時期,使用頻度に関す
        る情報
      (c)欠陥部位,欠陥内容,欠陥発生状況(欠陥発生月日,欠陥発生時の使用方法・使用環境など)
      (d)クレーム品に対する処理月日,処理内容,処理費用
      (e)クレーム解析担当部門,クレーム発生の技術上の原因(欠陥発生のメカニズム),クレーム発生の
        管理上の原因(品質保証システムの不備)
      (f)クレームの再発防止策の内容(前回説明した(4)項の内容),実施月日,実施方法,実施部門,所要
        費用

 

クレーム報告書が的確に記入されるためには,その記入方法(記入時期,記入内容,記入部門など)について予め明確に定め,関係者に周知徹底しておかねばなりません。

上記(a)~(d)については,クレーム品に対する処置を行った部門で記入し,

(e)はクレーム解析部門,

(f)は対策実施部門において処理後すみやかに記入します。

 

⑱クレーム情報の分析と活用

クレーム処理報告書は,個々のクレームに対する処理の進捗に役立てるとともに,定期的に集約して,製品別,内容別,部位別,使用者別,製造月(または製造ロット)別,重要度別,発生責任部門別,見逃し責任部門別などに分類・整理します。そのようなデータは,次のアクションに結びつけるために,グラフ化したり,マトリックス図法等を用いて解析をすると良いでしょう。

そして,その結果は,以下のように活用します。

 ・製品の市場での評価を知る

 ・社内の品質意識高揚する

 ・次の新製品開発へ反映させる(例えば,デザインレビューの際のチェック項目とする)

 ・品質保証システムの改善へつなげる

 

以上2回にわたり,クレーム処理と重要品質問題への対応の概要を説明しましたが,次回第3回は,それらの活動において品質部門が果たす役割を解説します。
 
【引用文献】飯塚悦功(2009):現代品質管理総論,朝倉書店
 
(松本 隆)
 
<「その2」おわり>

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