本日から、品質部門配属になりました 第39回 『品質評価』(その2) (2021-02-22)
2021.02.22
今回は、品質評価の2番目「製品・サービス提供の主プロセス(バリュー
チェーン)→プロセスの評価」についてです。
2.製品・サービス提供の主プロセス(バリューチェーン)の評価
品質マネジメントシステムを構成するプロセスは、一般的に品質保証体系
図やプロセスフロー図などで示され、バリューチェーンは顧客要求事項を
満たすため「受注→設計→購買→製造→検査→出荷」の順序で構成される
顧客指向(Customer oriented)プロセス、いわゆる「製品実現プロセス」
に該当するものです。
これらの主プロセスをISO 9001:2015の箇条8の要求事項のみに基づいて
評価するとしたら、プロセスアプローチ導入以前の逐条的なものになって
しまうおそれがあります。本来の目的が達成されたかを評価をするために
は、それらのプロセスを実行するために必要な資源を提供するISO 9001:
2015の箇条7に該当する「支援プロセス」との相互作用を含めて評価する
必要があります。
この主プロセス(製造実現プロセス)が有効に機能するために支援プロセ
スは極めて重要です。例えば、製造プロセスで不良品が発生した場合の要
因として、作業員の教育訓練に原因があったという事例では教育訓練プロ
セスの有効性の評価がキーであるということになります。しばしば、ISO
の審査や内部監査で見かける例ですが「教育訓練プロセス」で、“教育訓練
計画→計画の実行を確認→記録があれば良し”とするパターンが多いのです
が、肝心なことは、その教育訓練が主プロセスの成果に結びついているか
の評価がされないと本来の目的は達成されません。
目的を達成するために展開される主プロセスと支援プロセスの相互関係を
確認すること(即ちプロセスアプローチ)が、製品実現プロセスのアウト
プットを評価するために必要なのです。
「支援プロセス」は、要員の教育訓練、測定機器・検査機器管理、文書管
理、サプライヤ管理・アウトソーシング、ネットワーク管理などハード
(インフラ)及びソフトの両方ですが、企業としては直接の生産性とは結び
付きにくい「金のかかるプロセス」なのです。支援プロセスに手を抜かず
運用している企業は品質評価が高いことが実証されています。
ここでは、主プロセスである「受注→設計→購買→製造→検査→出荷」の
プロセス評価について、ライン業務以外で、経営機能として品質部門が関
与すべきものについてお話したいと思います。
2.1受注プロセスの評価 (営業プロセス):
顧客の要求事項に対して、それを満たす事ができる能力があるか、期待す
る利益を確保できるか、継続的な供給ができるかなどの実現可能性の評価
を行うことが大事です。顧客との契約に際して、単に仕様・性能を満たす
という技術ハード面だけでなく、将来の材料の入手性、労働資源の確保、
将来の環境規制なども重要な評価ファクターになるので、世界的なサプラ
イチェーンの変化などの情報にも注目する必要があります。特に国際情勢
の変化によるサプライチェーンの確保は重要であり、最近は日本の企業も
中国サプライチェーンの分断などで影響を受けている現実があります。
品質部門としては、ISO9001の要求事項箇条8.2の顧客関連プロセスだけ
では十分ではないということを認識して “リスクに基づく考え方”から評価
項目を策定することが経営機能への参画になると考えます。
2.2設計・開発プロセスの評価:
このプロセスでは、「設計・開発のアウトプットの検証」が最も重要な評
価プロセスです。いわゆるデザインレビュー(DR)であり、製品・サー
ビスの品質を決定付けるものになります。例えば自動車部品など、量産
性がある製品では、設計の段階ごとにDR1、DR2などの評価ゲートを設
け設計の完成度をあげてゆくのが普通です。
顧客要求事項、法規制などの設計要件を評価するためには、それらを満た
すことができない要素を検出することが最も重要であり、これは「リスク
に基づく考え方」の実践です。特に、安全性・機能性が要求される製品で
は、FMEA(故障モード影響解析)によるリスク評価が設計・開発プロセ
スにおいて極めて重要な評価項目になります。このDRでは製品の仕様・
性能におけるリスクが最小限になる設計を検証することで、自動車セクター
ではFMEAはDFMEA(デザイン:製品設計)とPFMEA(プロセス:製造
工程設計)の両方に対して実施することになっています。
FMEAは(1)重要度S(Severity)、(2)発生度O(Occurrence)、(3)検出度
D(Detection)の3要素を乗じてリスク優先度を決め対応策を導く品質
リスク防止ツールです。航空機産業の開発プロセスに採用されたことが
始まりですが、米国では医療分野で医療事故防止の目的でも広く活用され
ています。誰が考えても初歩の医療ミス防止(患者、投薬取り違えなど)に
有効であることは解ると思います。
FMEAは難しいものではなく、何の製品、サービスにでも応用できるので
「リスク評価」ツールとして活用をお薦めします。
DRに対する支援プロセスとして、その製品・サービスに関連した側面の
評価を行うため専門的知識・経験も含めた力量あるレビュアーが必要です。
自動車の安全欠陥リコールの原因では、設計・開発におけるこの評価が充
分でなかったことが半分以上を占めており、近年では電子制御ソフトに関
連した重大品質不具合が激増しています。ひと昔前までは、メカ中心のレ
ビュアーで事が足りたのですが、現在ではレビュアーにもソフトウエアの
専門家を入れなければならないことを示唆しています。
DRにおける品質部門の役割としては、評価側(レビュアー)の立場で参
画することになります。顧客要求事項が満たされる設計になっているかは
当然のこと、法規制、品質保証方案(検査基準など)、製品認証等も責任
領域になるでしょう。顧客要求事項がQFD(品質機能展開)のアウトプ
ットとして設計にどのように反映されたかを検証することも営業部門と相
まって品質部門の重要な役割になります。
特に、「リスク評価」に関してはFMEAが図上検討結果だけでなく、現物
ベースによる妥当性確認結果を見極めることが重要です。また、支援プロ
セスにおいてはこのリスク評価の質確保のため「FMEA教育訓練プログラ
ム」による力量の確保が極めて重要であり、品質部門が主導する内容と考
えます。
DR結果に対して大事なことは、DRにおけるレビュアーからの指摘等へ
の対応です。そのための全社的推進機能を品質部門の役割としている会社
も多く、この機能は製品開発プロジェクト推進の要となります。
2.3購買プロセスの評価:
会社規模にもよりますが、ここでは品質部門として関連する部分について
考えます。
・サプライヤ及びアウトソーシング先に対する要求事項(購買品質基準)
・受入検査の基準
・第2者監査の計画策定
・新規サプライヤ選定プロセス
・サプライチェーンを通してのパフォーマンス
現在では、アウトソーシングを含めた購買機能は、多くの産業で設計・
開発プロセスにリンクした購買戦略として事業プロセスに深く関連してい
ます。受注プロセスで述べましたがサプライチェーンに関連して国際調達
で影響を受ける企業では購買・調達戦略は事業の根幹に関係するものです。
自動車メーカーでは、購買部門内に品質機能を持たせ設計・開発段階から
製品開発プロジェクトとして関わっています。
現在、サプライチェーンを通して品質、生産、流通履歴を確認できるブロ
ックチェーン(分散型台帳)を利用した仕組みが飛躍的に発展しています。
このブロックチェーンは金融業界や食品等のトレーサビリティの確保にも
活用されていますが、自動車産業では「CASE」(C:コネクテッド A:自動
運転 S: シェアリング E:電動化)改革によりブロックチェーンの国際的な
ネットワーク構築が進んでいます。
半導体や電子部品の国際的分業化と取引の複雑化に伴い偽造品や不良品が
まぎれるリスクが増大している中で、ネット上の複数のコンピューターが
取引の記録を共有し、互いに監視しながら記録を蓄積するので書き換えは
不可能で改ざんリスクが小さいとされています。
特にサプライヤチェーンが多岐に亘る産業にとっては今後普及することが
予測され、品質保証面においても重要なものになって行くと思われます。
2.4製造プロセスの評価:
各製造工程で作業手順が守られていること、製造工程のサブプロセスにお
ける基準適合が評価の主体ですが、これらの殆どはライン業務なので省略
し品質部門が係る製造工程監査に関してお話します。
量産品の製造工程管理ツールであるQC工程表(自動車セクターIATF16949
では、日本発のQC工程表をコントローププランと呼称している)が監査
基準となり、定めれた工程毎に特定された作業基準(製造機械・装置/治具/
ツール、安全特性、公差、測定機器管理、測定方法、サンプルサイズ・頻度、
作業手順、データ記録、不適合品処理など)に基づき検証します。その結果
からSPC(統計的工程管理)を用いて工程能力の監視と評価を行ない前工程
の改善を行うことが、検査のみに頼らず、造りこみの工程で保証する「製造
現場の品質管理」として日本が得意としたQCの実践です。(過去形は使い
たくありませんが)
現場における作業プロセスも、IT化により格段に省人化が進み電子機器に
よる処理が普通になってきましたが、製造工程監査では、アナログ指向で、
その裏付けを検証することが大事なことです。その意味から、製造工程監査
を行う監査要員は工程品質管理の力量が必要です。そのために教育訓練プロ
セスでQC技法の習得、ハード面では製造機器・装置、測定機器管理が重要
な要素であり、これらの支援プロセスは品質部門の役割と認識すべきでしょう。
2.5検査プロセスの評価:
検査プロセスは、多くの量産製品において、初期のIT化時代から省人化が
最も進んでいるプロセスの一つですが、今後もDX(デジタル トランスフォ
ーメーション)により更に進化する領域です。検査プロセスの評価は前項の
製造工程監査の範疇で考えれば良いと思いますが、製品監査を含めてアナロ
グで現場、現物ベースで裏付けを取ることが大事であり、品質部門としては
ライン業務以外に前述した支援プロセスの役割が大事です。それらに関連し
てITスキル要員の補強などが課題になると考えます。
2.6出荷プロセスの評価:
梱包、合格品倉庫、流通を含めて出荷プロセスとしますが、ここではルーテ
ィン業務ではなく、合格品に対する製品監査についてお話します。
製品監査は通常の最終検査とは違い、全面的な製品スペックの確認です。合
格品からサンプリングして検証しますが、製品によっては全寸法検査、性能
検査も行うことになるので要員、設備インフラも必要になる場合があります。
出荷状態の製品評価としては、梱包仕様も製品によっては重要な意味があり
ます。精密品(特に振動に弱いものなど)、医療器具などは梱包が品質に重大
な影響を与えるので、製品以外の設計開発プロセスで決めることになってい
ます。輸出の物流プロセスでは、運輸手段、気温、作業者による取り扱い、
倉庫環境などが品質に影響を与えるので、運用前に妥当性検証が必要な場合
もあります。自動車部品等では、現地の顧客近くの倉庫において在庫製品に
対する簡易な品質確認を行っています。(その1)の中で述べましたが、製品
監査を定期的に内部監査の一つと位置付けて行うことは意味があります。
まとめ
プロセスの評価は、独立した単一プロセスだけでなく、関連する他のプロセ
ス(ex支援プロセス)との相互作用の結果であること、即ち目的指向である
ことが重要です。
ライン業務の評価は省略し自動車産業モデルを参考にして、経営における品
質部門という側面から述べてきました。サプライヤチェーンの評価において
ブロックチェーンの話を加えましたが、基本は、三現主義(現場、現物、
現実)であることに変わりはありません。
ただ、IT化の波はすごい速さで進んでおりDX(デジタル トランスフォー
メーション)は近未来に企業存続の一要素になると言われています。
品質部門では、我が国の得手とする現場力(OT :Operational Technology)
にITを組み入れ、先ずは、データ分析・処理や支援プロセス(教育訓練、
文書管理、検査・測定機器管理等)において評価基準を見直すことから始め
ると良いでしょう。
(その2おわり)
その3では、品質評価対象の3番目「組織全体の仕組み(事業プロセスを
コアにした品質マネジメントシステム)→マネジメントシステムの評価」
について、体系的な品質評価としての内部監査、経営者による評価につい
てお話したいと思います。
(長谷川 武英)