本日から、品質部門配属になりました 第32回 『市場品質の保証)』(その1)
2021.01.05
明けましておめでとうございます。2021年のメルマガは、「市場品質の保証」からスタートします。
このシリーズの冒頭で述べているように、「市場品質」とは「製品・サービスが顧客に提供され、それを使用・利用する際の品質という意味」であり、「顧客が当該の製品・サービスに期待した価値が得られたかどうか」という側面から品質をとらえるものです。
「品質を保証する」とは、「品質が期待通りであることを請け合い、顧客に信頼感を与える」こと、でした(メルマガ第三回「品質部門の役割」より)。であるならば、「品質保証」とは本来、顧客が製品・サービスを「使用・利用する段階での品質保証」、すなわち「市場品質の保証」を含むものでなければなりません。
今回から四回に分けて、このテーマについて考えてみます。
《なぜ「市場品質保証」について検討するのか》
ISO 9000では、品質を「対象に本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義しています。言い換えれば、
1)品質とは「程度(程度に対して下される判断・評価)」である。
2)程度を評価・判断する基準となるものは、「要求事項(ニーズ・期待)」である。
3)程度が判定される要素は、製品・サービス、プロセスをはじめとする
「対象に本来備わっている特性(評価対象に内在する性質)」である。
・・・ ということです。
「品質」について評価・判定される要素は、製品・サービスに内在するもの(すなわち、提供側が作り込んだもの)ですが、それを評価・判定するのは、提供側ではなく受け取り手のニーズ・期待に基づく基準です。基準は、受け取り手の側にあるのです。
コミュニケーションの価値は、送り手がどれだけのものを発信したか、ではなく、受け手がどれだけのものを受け取ったかで決まると言われます。「品質」も、製造した側がどれだけの価値の製品・サービスを提供したと考えているか、ではなく、顧客の側が結果としてどれだけの価値を受け取ったと評価しているか、で価値が決まります。製造側が100の価値を提供したと考えていたとしても、顧客が50の価値しか認めていないなら、それは50の価値しか持たないということです。
これまでのメルマガで、「企画品質」、「設計・開発品質」、「量産品質」について考えてきましたが、「市場品質」は、企画~設計・開発~量産を通じて作り込んできた「品質」に対する“最終評価”を意味しています。“最終評価”はクリアしなければなりません。つまり「市場品質保証」とは、提供側が100の価値を持つと想定して送り出したものが、顧客に100の価値を持つものと受けとめられるために、提供側がなすべきことの総称なのです。
「市場品質保証」とは、「品質保証」の“仕上げ・正念場”ともいえるプロセスなのですが、ともすると「市場品質」については、「市場品質問題(=製品・サービスが市場へ提供されてから発生する不具合等の問題)への対応」という視点から取り上げられることが多いように思われます。“品質保証の仕上げ”が、“問題が発生した場合の対応”でよいのか、「市場品質を保証する」ために“問題対応以外になすべきこと”があるのではないか、そのような視点から検討をすすめてみます。
《「市場品質」を保証するために何が必要なのか》
顧客が製品・サービスを使用・利用する際に、「期待した価値」が得られるようにするためには、以下のことが必要になります。
a) 製品・サービスの企画において:
出発点としての「企画品質」が市場のニーズ・期待を正しく反映していること。メルマガ第15回「企画品質の保証(その一)」で明らかにされたように、「企画品質とは,顧客ニーズが製品・サービスの企画にどのくらい反映されているかどうかに関する品質レベル」です。企画段階で想定したニーズ・期待が、適切に設計・開発され、製品・サービスとしてミスなく実現されたとしても、そもそもの想定がニーズ・期待を外していれば、顧客が期待する価値を実現することはできません。
そのために、「企画段階」で実施すべき「市場調査・分析」などの活動については、メルマガ第16回「企画品質の保証(その2)」で明らかにしています。「市場品質保証」段階では、販売~提供~使用・利用を通じて、企画段階で想定した市場のニーズ・期待を検証し、改善に生かすことが求められます。
b)営業・販売において:
当該の製品・サービスによってどのような期待・ニーズが実現するのかを、正しく・分かりやすく伝えることで、そのような期待・ニーズを持つ顧客に購入していただくこと。
c)付帯サービスにおいて:
約束した通りの製品・サービス(品質・納期)が引き渡されること、及び、使用・利用・廃棄の段階で顧客の側に立った適切なサポートが行われること。
d)不具合の発生時において:
使用・利用段階で発生する「不具合」等に迅速・ていねい・適切に対応が行われること。
e)以上のすべての段階において:
「顧客のニーズ・期待が実現できたか」に関わる情報を入手し、「市場品質」の測定・評価結果を製品・サービス実現プロセス、販売・サービスプロセス及び品質保証プロセスのPDCAサイクルに組み込むこと。
f)組織全体として:
当該製品・サービスに直接関係がない問題であっても、組織(ブランド)の価値を低下させる問題事象が発生すれば「市場価値」は低下するため、社会的責任を果たし、組織価値を向上させる取り組みは、「市場品質保証」のためにも重要であること。
a)~f)の詳細は次回のメルマガで検討するとして、ここでは以下のことを確認しておきます。
1)「市場品質」は「製品・サービスの品質」だけでは決まらない。
企画段階で意図した顧客のニーズ・期待を満たす製品・サービスが、正しく設計・開発~量産されたとしても、a)~f)に何らかの欠陥があれば、最終的に「顧客の期待・ニーズ」は実現されない可能性があります。
2)「製品・サービスの品質」が同等であるならば、「市場品質」が優劣を決める。
場合によっては、「製品・サービスの品質」で競合他社に勝っていても、a)~f)で劣っていることで顧客からの支持を得られないこともあり得ます。それは、「市場品質」という顧客からの最終評価において後れを取ったということなのです。
《“品質の苦情”と“それ以外の苦情”でよいのか》
先にも触れたように、ISO 9000では、「品質」を「対象に本来備わっている特性の集まり」に適用されるものとして定義しています。これについて、知人から、“品質を「対象に本来備わっている特性の集まり」に限定することは誤りではないか”というご意見をいただいたことがあります。
彼の会社では、苦情の分類に「品質」と「品質外」という区分があり、「品質外」とは例えば“発注と異なる製品の納入”や“納期遅れ”などの不具合を意味していて、「品質外の苦情」への対応は「品質苦情」対応より軽くなる、というのです。“このような苦情を「品質外」と呼んでいいのか、それでは顧客満足向上に悪影響がでないか、「品質」という概念をもっと広く捉えることが必要ではないか”・・・彼の意見はこのようなものでした。
例えば「受注ミスによる納期遅れ」などを、積極的に「品質保証」すべき要素と位置付けて、我々が提供する製品・サービスの「市場品質(顧客が製品・サービスを使用・利用する段階での品質)」を向上させるために、組織が何をなすべきかを明らかにすること ・・・ このことは、顧客満足を向上させるための必須の課題と言えるのではないでしょうか。
次回は、そのために組織が何をなすべきかについて考えます。
(土居 栄三)