本日から、品質部門配属になりました 第31回 『量産品質の保証(調達・外注管理)』(その2)
2020.12.21
【第2回】調達品質と調達管理の機能に関する品質部門の活動
ここで調達品質について考えてみましょう。
■調達品質
一つの組織が、製造・サービスの提供に必要となるすべての部品・原材料、設備・機器、ソフトウェア、情報、エネルギー、役務などを組織内ですべて確保するのは難しく、これらの多くの部分を国内および海外からの調達先に依存しなければなりません。調達先には、購入・定型業務先と外注・アウトソース先の2種類があり、これらの特長を考慮した品質保証の推進方法を構築し、維持する必要があります。
組織と調達先は互恵関係になっています。この互恵関係は、組織は、調達先から購入する製品・サービスの品質、価格、量・納期、コスト、環境、安全、情報セキュリティなどによって、組織の顧客の期待・要求を満たせるかどうかについて影響を受けています。このことを考慮すると、調達の役割は、組織が定めた調達のための要求事項を満たす製品・サービスを調達先から効果的かつ効率的に調達することです。このためには、調達のためのプロセスを構築し、運営管理する必要があります。
調達した製品・サービスに問題が発生すると、組織内の関連するプロセスに大きな影響を与え、顧客の期待・要求を満たすことができなくなるので、これらのリスクを考慮したプロセスを構築することが必要です。特に、組織が提供する製品・サービスに大きな影響を与えるプロセスの一部を外注・アウトソースする場合には、調達先とのコラボレーションが重要です。プロセスを外注・アウトソースするとは、組織のマネジメントシステムにとってそのプロセスが必要であり、組織が外部に実施させることにしたプロセスのことです。外注・アウトソースの例には、調達先の製造技術が高いので部品の製造を委託する、製品の試験設備がないので試験センターに試験を委託する、設計工数が不足するので設計の一部を委託することなどがあります。このため、調達品質が担保できるような仕組みを品質部門は考える必要があります。
したがって、品質管理という観点で「調達」がどのような役割を果たすかを明確にし、調達先と一体化となった品質管理体制を確立することが大切であり、これによってはじめて顧客の信頼を獲得できることを関係者が認識する必要があります。
次に調達管理の機能に対する品質部門の活動について考えてみましょう。ここでは、第26回で示した調達管理の機能として説明したa)~i)のうち、品質部門が主体となるべきa) 調達方針の策定、d) 調達先の評価・選択・再評価、e) 契約、h) 受入検査、i) 調達先の管理方式について説明します。
■調達管理の機能に関する品質部門の活動
- a) 調達方針の策定
調達方針には、調達製品・サービスに関する品質についての方針も含まれています。このため、品質部門は、調達先に対して組織が品質についてどのような活動を推進しようと考えているのかを明示することが必要です。
例えば、次のような品質に関する方針を策定します。
「調達製品・サービスの品質確保のために、調達先と一体となった品質改善チームを確立し、この活動を調達先と合同で実施する。また、品質管理に関する教育・訓練を開催し、調達先の日常管理の力量向上を図る。」
- d) 調達先の評価・選択・再評価
調達先の評価を行うため、調達先の評価に関わる部門はそれぞれの機能に応じた評価基準を明確にする必要があります。このため、品質部門では調達先の品質保証システムの能力評価を行うため、次に示す基準を明確にすることが大切です。
・品質管理体制
品質保証体制、教育・訓練体制、改善活動の体制など
・工程管理
QC工程表の作成・維持・管理、初期流動管理、設備能力・保全、監視・測定機器の管理、不適合の管理、工程異常の管理、作業環境の管理,5S、見える化など
・検査管理
検査方法、検査員の資格認定、工程内検査・最終検査の不適合率の管理など
・標準化管理
文書の作成・維持管理
・品質マネジメントシステム管理
品質マネジメントシステムの運営管理
調達先のマネジメントシステムの評価を行うための方法として、調達部門が主管となっている第二者監査があります。このため、品質部門は上記の基準に基づいて品質保証システムに関する評価を実施し、改善の方向性を明確にするとともに、その改善結果をレビューし、適切な指導を行うことが大切です。
なお、監査員は、品質管理活動の問題点を指摘するだけでなく、効果的で効率的な改善方法も明示する必要があるため、評価対象のプロセスに関する管理技術だけでなく、固有技術も持ち合わせていることが大切です。このため、品質部門の監査メンバーは、品質管理とその応用に関する知識を持った要員を選定することが大切です。
- e) 契約
品質部門は、品質保証に関する責任があるため、調達先で実施すべき品質管理に関する要求事項を明確にする必要があります。{第25回■調達管理の機能とその重点活動の(2)e)参照}
- h) 受入検査
品質部門は、検査に関する基準の策定の活動を行っているので、検査という視点で受入検査を含むすべての検査に関する検査方式を確立する必要があります。
調達製品・サービスの受入検査の決定要因には、調達先の品質管理能力及び品質実績があり、これらを考慮した効果的でかつ効率的な受入検査方式を設定します。
製品・サービスを受け入れてこれを組織内の活動に取り込む場合、受け入れた製品・サービスに問題がないかどうかを検証するために、受入検査を行います。受入検査では、製品・サービスの受入時に組織が定めた調達仕様書への適合性を評価します。
受入検査方式には、次の事項があります。
(a) 直接検査
直接検査とは、検査対象となる製品・サービスを直接検査することです。
① 全数検査
全数検査とは、選定された特性についての、対象とするグループ内全てのアイテムに関する検査のことで
す。製品・サービスのすべてのアイテムに対して行う検査であり、個々の製品・サービスの合否を判定す
るものです。
高信頼性が要求される製品・サービス、自動試験機で行う検査、または製品・サービスの品質が安定してい
ない場合などに適用します。
② 抜取検査
抜取検査とは、対象とするグループからアイテムを抜き取って行う検査です。製品またはサービスのサン
プルを用いる検査で、サンプルで受入ロットの合否を判定するものです。抜取方式には、JIS Z 9015
(計数値検査に関する抜取検査手順)などがあります。
(b) 間接検査
間接検査とは、調達先の検査システム及び提出された検査結果を評価し、試験することによる合否判定検査
です。このため、調達先が行った検査結果を必要に応じて確認することによって、組織の試験を省略する
検査です。これには次の2つがあります。
① 書類検査
書類検査では、調達先が検査した結果についてこれを受入検査基準と比較して適切かどうかを書類で合否の
判断を行います。
② 無検査(書類検査をさらに進化させた方式)
納入先の過去の実績と信頼関係に基づき、受入検査を省略する検査です。
これは、納入された製品を直接ラインに投入することで検査の工数を省くことが可能になります。ただし、
調達先の品質のレベルが相当高くなければ、これを導入することは困難です。
受入検査の設計は品質部門が行いますので、受入検査結果を考えて適切な時期に検査方式のレビューを行
うことが大切です。また、検査員の力量評価も品質部門で行います。
- i) 調達先の管理方式
調達先の製品・サービスのパフォーマンスを確保するためには、組織が提供する製品・サービスに与える影響を考慮した管理の方式を構築することが大切です。なお、管理の方式を決める際には、調達先の品質管理の能力とそのパフォーマンスから判断します。
調達先の管理における品質部門での活動は①~④が主体的な活動になります。
① 調達先の評価結果の指導・育成
品質部門は、調達先に対して、品質に関する実績評価結果および第二者監査の結果から改善事項を抽出し、その対策の検討依頼を行い、その内容を評価します。評価結果に問題がある場合には、調達先に対して具体的な指示を行います。
対策の効果に関する確認では、製品・サービス品質に影響を与える可能性のある重要な要素について、フォローアップ監査を行います。それ以外の改善項目については、次回の監査でフォローアップすると効果的です。特に、問題の原因追究では、関連するプロセスを含め、問題が発生しているプロセスを的確に特定・抽出できているかを確認します。
② 目標達成のための改善活動の支援
調達先の品質向上や品質保証システムの改善を行うためには、調達先とのコラボレーションが大切です。このため、調達先が自律的に設定した目標に、組織の希望も入れて、お互いが納得できるものとすることが重要です。
改善活動には、調達先が自律的に行うものと、組織と共同で行う場合があります。自律的に行っても、指導が必要な場合があり、定期的に改善活動がどのような状態になっているかを把握する必要があります。共同で行う場合には、お互いの関係者で構成するプロジェクト体制で行うことが効果的です。
③ 調達先とのコミュニケーションの実施
品質部門は、一次調達先とのコミュニケーションの場として、品質などに関する実績をもとに、定期的な打合せを行うことが大切です。
ここでは、品質部門からの情報伝達だけでなく、一次調達先からの意見を収集することも重要な活動であり、二次調達先に対してどのようなコミュニケーションをとっているかについても確認する必要があります。
また、この場を一次調達先の改善事例などを発表する機会とすることも他の参加者の認識向上および改善事例のベンチマークをすることが可能です。
調達のサプライチェーンを考慮して二次調達先以降に対しても、品質月間等を利用して、品質の重要性や組織の品質に関する方針などを伝える場を持つことで、組織とすべての調達先との意思疎通につなげることができ、効果をあげることができます。
④ 生産条件変更時の処置
品質部門は、品質保証の観点から、次に示す製品・サービスの品質に与える影響が大きい5M(man、machine、method、material、measurement )・1E(environment)の変更などに関する条件を策定し、調達先からの報告内容を検討し、関連部門との調整を行うとともに、調達先に適切な指示を行う必要があります。
・製造をアウトソースする場合
・製造工程を大幅に変更する場合
・組織の承認を得ている手順を変更する場合
・材料を変更する場合
・材料の調達先を変更する場合など
(福丸 典芳)