本日から、品質部門配属になりました 第30回 『量産品質の保証(調達・外注管理)』(その1)
2020.12.14
今回から、企業の品質保証機能のうち、製造・サービス提供に必要な原材料・部品や外注・アウトソースに関する保証に関して考察します。以下の2回にわたって、「調達管理とその重点活動」及び「調達品質と調達管理の機能に関する品質部門の活動」に対する取組みについて説明します。
【第1回】調達管理とその重点活動
【第2回】調達品質と調達管理の機能に関する品質部門の活動
【第1回】調達管理とその重点活動
まず、調達の意味を整理してみましょう。
■調達の意味
組織では購買という言葉を用いているところが多くあります。しかし、製造・サービスを提供するためには、部品・原材料の購買だけでなく、製造・サービス提供のプロセスを外注・アウトソースしてその結果を組織に受け入れて、製造・サービス提供を行っています。このため、ものを買い入れるという意味の購買ではなく、「必要なものを適切な時期にものやサービスを取りそろえる」という意味の調達という用語を用いることが適切です。
なお、調達は、製品・サービスに組み込む有形・無形のものの外部からの入手を行う機能を持っており、これには次に示す2つの活動があります。
・購入・定型業務:調達先の設計・実現による製品・サービスの購入(カタログ製品、パッケージ・サービス)
・外注・アウトソース:仕様通りの製造・業務(仕様を与えての業務)
調達管理を適切に実施するためには、関係者が次に示す調達管理の基礎となっている原則を理解し、これに基づいて行動する必要があります。
■調達管理の原則
(a) 組織と外部提供者は、相手のマネジメントシステムを相互に理解し、協力してマネジメントシステムの運
営管理を実施する。
(b) 組織と外部提供者は、おのおの自主性をもち、かつ相互に相手の自主性を尊重する。
(c) 組織は、外部提供者が何を作ったらよいかがはっきりわかるような要求を外部提供者に提供する。
(d) 組織と外部提供者は、取引の開始の前に、品質、量・納期、価格、環境、安全、情報セキュリティ、支払
条件等について合理的な契約を結ぶ。
(e) 外部提供者は、組織が仕様上満足できる品質のものであることを保証する。またそれに必要な客観的なデ
ータを必要に応じ提供する。
(f) 組織と外部提供者は、両者が満足するような評価方法を契約時に決める。
(g) 組織と外部提供者は、両者間のいろいろなトラブルを解決する方法・手順を契約時に決める。
(h) 組織と外部提供者は、相互に相手の立場に立って、両者が品質管理、量・納期管理、環境管理、安全管
理、情報セキュリティ管理を実施するのに必要な情報を交換する。
(i) 組織と外部提供者は、つねに両者の関係が円滑にいくように発注・在庫計画などを十分に管理する。
(j) 組織と外部提供者は、取引に際し、つねに最終消費者の利益を十分考える。
次に調達管理に必要な機能とその重点活動を「購入・定型業務」と「外注・アウトソース」に分けて考えてみましょう。
■調達管理の機能とその重点活動
(1)購入・定型業務
購入・定型業務で扱う製品・サービスは、カタログ製品、パッケージ・サービスなので、他部門からの情報をもとに、調達先を選択する活動が中心になります。
- a) 調達方針の策定
全社方針に基づいて、調達する製品・サービスが組織活動に影響を及ぼさないようにするため、品質、量・納期、コスト、環境、安全、情報セキュリティなどの経営要素を考慮して、関連する部門と調整を行い、調達方針を策定します。
- b) 調達計画の策定
各部門の事業計画に基づいて、要求事項を満たす製品・サービスを必要な時期までに必要な量を確保するため、調達計画を策定します。この際には、在庫状況を考慮することが大切です。
- c) 調達する製品・サービスの仕様の確定
調達する製品・サービスの仕様は、設計・開発からのアウトプットおよび他部門からの情報などから確定されるので、これに基づいて適切な製品・サービスを調達するため、今年度調達する製品・サービスの仕様を決定します。
- d) 調達先の評価・選択・再評価
この要素は、新規調達先と継続調達先に分けて考える必要があります。
① 新規調達先
新規調達先が要求事項を満たせる能力があるかを把握するため、調達先の経営状況,販売実績,価格,品質
保証体制などについて評価を行います。特に顧客に提供する製品・サービスに関する環境要求事項や量・納
期など組織の事業活動に影響する要求事項があるので、これらに関する評価項目も考慮することが大切で
す。
② 継続調達先
調達要求事項を今後も満たせることができるかを把握するため、調達先の経営状況や品質実績(クレーム件
数,損失金額など)、価格動向、納期達成率などの情報をもとに再評価します。
- e) 契約
調達先を選択した後、調達に関してお互いが守るべきことを明確にするため、調達契約を結ぶ必要があります。調達契約に記載する内容には次のような事項があります。
購入仕様、品質管理要求事項、製品・サービスの不適合発生時の処置法、特別採用とペナルティ条項、各種変更に伴う補償問題、情報の交換に関する事項、問題発生時の解決の方法、出荷検査・検収に関する事項、価格、納期、数量、納入場所等の条項、保証範囲及び保証期間、アフターサービスに関する事項、情報セキュリティに関する事項など
- f) 価格交渉
製品・サービスを安く調達するため、契約完了後に事業計画に基づいて発注量を算定し、これに基づいて価格交渉を行います。このためには、競合他社の価格情報などを調査したうえで、価格交渉を行うことが大切です。
- g) 発注仕様の確定
調達する製品・サービスの要求事項を明確にするため、関係部門からの発注依頼に基づき、製品・サービスの仕様、発注量、納期、納入先などを明記した発注書を作成し、発注を行います。
- h) 受入検査
調達製品・サービスは、カタログ製品などであるので、検収(品名・数量の確認)を行います。
- i) 調達先の管理方式
カタログ製品なので調達先に対する指導等に関する管理は必要がなく、契約事項に基づく処置を行います。
(2)外注・アウトソース
外注・アウトソースの基本的な機能は、購入・定型業務と同じであるが、調達先の評価・選択・再評価、契約、受入検査、調達先の管理方式についての活動が異なります。
次のその活動を示します。
a)~c)
購入・定型業務参照
- d) 調達先の評価・選択・再評価
① 新規調達先
調達実績がなく,最終の製品・サービスに与える影響が大きくなることが予想されるので、新規調達先の
評価・選択に当たっては、十分な検討および調査が必要です。
この調査では、概況調査と詳細調査に分けて行います。概況調査では、どのような調達先があるのかを
ホームページや関連会社からの情報を元に範囲を広くして調査を行います。その調査結果から,調達候補
先として数社以内に絞り込みを行います。なお、調査では、経営状況、類似製品・サービスの有無、マネ
ジメントシステム認証取得状況、生産場所などに関する事項を評価します。詳細調査では、書類調査と現
地での実地調査を行います。なお、調査では、経営状況、マネジメント能力などに関する事項を評価しま
す。
② 継続調達先
調達要求事項を今後も満たせることができるかを把握するため、調達先の経営状況や品質実績(受入検査
結果,クレーム件数,損失金額など)を他の調達先との比較、マネジメント能力を評価するための第二者
監査の結果、納期達成率などの情報をもとに再評価します。
- e) 契約
契約内容は、購入・定型業務の内容に加えて、次に示す調達先と品質保証に関する事項を明確にし、お互いが納得する内容とすることが大切です。
調達先での検査方法、工程管理の方法、要員の力量、受入検査又はそれ以降のプロセスで検出された製品・サービス不適合に関する処理方法、調達先でのアウトソースに関する情報の報告方法、生産条件変更時(例えば,生産場所,生産委託など)の報告方法、第二者監査への対応方法、調達先への支援・指導 など
- f) 価格交渉
価格交渉では、調達先から提示された見積書の内容を精査するとともに、他の調達先と比較を行います。また、製造・サービス提供の原価積算を行うとともに、どのプロセスを改善することで価格が低減できるのかを分析し、調達先と交渉を行うことが大切です。このため、価格交渉ではお互いが持っている情報に基づいて行うことが大切です。
- g) 発注仕様の確定
購入・定型業務参照
- h) 受入検査
品質実績及び品質管理能力に応じた効率的な受入検査を行うための検査方式を決定します。
- i) 調達先の管理方式
調達先は組織の製造・サービス提供に当たり、組織と一体化した活動を行う必要があるため、次の事項に関して調達先を適切に管理することが大切です。
調達先とのコミュニケーション、調達先の指導、調達先の満足度調査、調達先の表彰制度など
(福丸 典芳)