本日から、品質部門配属になりました 第29回 『量産品質の保証:量産プロセス管理』(その3) (2020-12-07)
2020.12.07
6.ヒューマンエラー対策
A社の顧客クレームの原因を分類すると、その7割が人的ミス、すなわち、ヒューマンエラーです。製造の責任者に聞いてみると、“人の問題なので、対策の打ちようがない。教育を改めて実施した”ということを大まじめで言ってくる先輩もいます。そこで、中山さんは、ヒューマンエラーの対策を出来るだけ列挙して、それを、「歯止め」効果の高そうな順番に並べてみました。結果は、以下の通りでした。
①機械/装置や製品などによる発生原因対策
・フールプルーフ(間違った作業ができないようにしてしまう)
・フェイルセーフ(安全側で止まる)
・インターロック(危ないときには動かない)
・当該作業が廃止できる設計変更
②機械/装置などを利用した排除・警告・通知による対策
・機械/装置による全数検品、又は、警告
・間違った作業時に警告、あるいは、正しい作業に通知
・コンピュータシステム (ワークフロー) の活用
③機械/装置を利用しないシステム対策(ソフトな対策)
・全数検査(ここでは機械による検査も含む)
・複数確認、ダブルチェック、相互監視、
・作業の流れの変更や、特別な作業の設置(例:記録を付ける)
・識別、見える化
・禁止、誘導など
・注意喚起(意識付け、指差し呼称、声出し、声かけ、注意喚起表示、朝礼などを利用した定期的な注意
喚起)
中山さんは、まずは意識改革として、上記を書いた「ヒューマンエラー対策一覧表」を作って、現場の掲示板に貼ってもらい、ヒューマンエラーの対策については、その原因を追究した上で、この一覧表の中から対策を考えてもらうようにしました。
そうすると、さらに欲が出て、過去に起きた作業ミスや、今後起きそうな作業ミスは、現在はこの中のどんな対策を実施しているのか調べて、その影響と対策を見直してみたくなり、これを実施しました。いわば、「作業ミス」に絞った工程FMEAとでも言えましょうか。
中山さんは、最近の製造における大きな課題となってきた、ヒューマンエラーへの取り組みについて、以上のような取り組みを開始しました。
7.検査
最後が「検査」です。
検査とは、「品物を何らかの方法で試験・測定した結果を品質判定規準と比較して個々の品物の良品・不良品の判定を下し,さらにはロット判定規準と比較してロットの合格・不合格の判定を下す」ことです
検査の役割には2つあります。一つは部品・材料,中間製品,最終製品の不具合が未発見のまま次の工程へ進まないようにすることであり,もう一つは検査部門で取得したデータを関連部門に速やかにフィードバックして,設計品質,品質標準,保証レベルなどを適切に保つことです。
また検査は、部品や原材料の受入時、製造工程中、出荷前の3段階で行われ、A社では、それぞれを、購買部門、生産部門、品質保証部門で、部品や製品の種類や、検査の方法や使用する機器によって、振り分けながら行っています。
その検査の方法は、大きく分けて、全数検査、抜き取り検査、無試験検査(間接検査)の3つがあります。この3つのどの方法を採用するのかを含めて、製品ごとの詳細な検査計画を作ることは、経済性と品質保証のバランスで決められる極めて重要な要素でもあります。
A社では、検査に関わる基本的な規準は「検査規準書」に定められており、これをベースにして個々の製品の規準が生産技術部で決められ、「QC工程表」に落とし込まれています。しかしながら、その運用面では、無試験検査と抜き取り検査の往復や、全数検査の追加や廃止などが頻繁に行われています。もちろん、このためのルールは決められているのですが、これがルールを逸脱して行われていないどうかについては、目を光らせておくことも品質部門の重要な仕事のひとつと中山さんは再認識しました。
そして、中間工程や最終検査で、その検査実務も実施している品質保証部門としても、大事なことが、検査そのものの管理です。検査の管理には、①検査の正確性の確保と、②検査データの活用ということが重要です。
検査にはミスがつきものです。この原因としては、①合否の判定基準が不安定・不明確・不十分、②検査標準類が不備、③不適切な検査スピード、④疲労、⑤検査員の技能レベルのチェック、⑥検査員のモラルなどがあります。検査も製造と同じで、その要因のバラツキを減らすことが基本だと言うことを、検査員にも教育して、検査員の改善活動で改善していくように、品質保証部門内の検査班に働きかけました。
もう一つ大事な「検査データの活用」です。検査員は、自分たちの力で不良を減らすことはできませんが、自分たちの力で製造工程や外部業者の不良を減らす支援はできます。それは、情報の提供であって、合否の情報や不良数の情報だけでなく、検査する際に収集したデータを傾向分析して、製造工程で役に立つ情報も提供出来ることを目標として取り組むことにしました。
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●工程設計段階での品質部門の役割発揮ポイント(2)
第2回に、いったんまとめましたが、第3回の中山さんの仕事ぶりから、さらに次のような役割発揮のポイントが追加されました。今回も、当メルマガ第9回で説明している、“性格が異なる4つの役割”に分けて説明します。
①体系構築・管轄
・ヒューマンエラーの再発防止、及び、未然防止のしくみ
・検査に関連するすべてのしくみ(検査規定、試験検査機器管理規定、検査員教育訓練規定など)
②主担当ライン業務
・検査規定による検査業務の維持・改善(検査の種類、検査方式、検査手順、検査基準などの設定や、
試験・検査機器の選定を含む)
・検査方式の運用面(無試験検査、抜き取り検査、全数検査の移行)の管理と監視
・「検査の正確性の確保」のための検査員の訓練
・検査から得られたデータを分析して、前工程(製造工程や設計工程)に役立つ情報を提供する
・試験・計測器の管理(製造ライン使用のものも含むことが多い)
③事務局的ライン業務
・品質管理委員会(品質会議など)の事務局として以下の事項
・朝礼や、職場内掲示、社内ネットワークなどの利用による品質意識向上対策の提案(特に、ヒューマン
エラー対策)
・社内及び社外で発生した不良の傾向分析結果情報の提供
④ 経営参謀的業務
以下の事項の計画(目標)に対する実績の把握と、その差異分析から、しくみや組織体制の改善提案をす
ることが重要です。
・量産段階における工程内不良の発生状況、工程能力指数、不良率、顧客クレームの発生状況、品質コス
ト、品質問題による製造原価・納期などへの影響度など
さて、このようにして、「工程設計・生産準備段階」そして「量産段階」の品質保証について、7回に渡る中山さんの奮闘記を通して、お話をしてきました。これらの記事が少しでも、みなさまの参考になったら幸いです。
完(丸山昇)