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本日から、品質部門配属になりました 第20回 『設計・開発品質の保証:設計・開発の全貌と製品設計』(その2)   (2020-10-05)

2020.10.05

【第2回】新製品の設計・開発における“要求品質の仕様化への変換アプローチ”と“設計・開発の対象、
側面”について

 
今回は、製品要求の技術仕様化(製品特性)への変換のアプローチ、また設計・開発における「製品設計・開発」の対象、側面などから考察します。なお、製品要求の技術仕様化の初期段階における概念は「企画機能」と「設計・開発機能」で線引きが明確でないこともあり、一部重複する内容になることをお含みおき下さい。
 
■新製品の設計・開発:仕様化へのアプローチ
前回のおさらいになりますが、製品を企画・設計するプロセスを概説すれば、日常用語や行動で一般的に使用されている顧客のニーズ・要求を、製品全体およびその製品を構成する部分に対する技術的仕様(製品特性)に変換するプロセスとも捉えることができます。
このプロセスで重要なことは、変換の前後における①顧客の要求品質と製品の技術的仕様として必要な項目を抜けなく列挙すること、②顧客の要求品質と製品の技術的仕様の間の関係を正しく把握することです。
簡単に言えば、顧客の要求品質を一般的なものからより具体的なもの(製品特性)へと分解・展開することですが、製品に対する品質要求内容を、製品・サービスが保有すべき技術的特性へ、製造方法やサービス提供方法を規定する技術的条件に変換し、変換された特性や条件が適切な水準であることを定めるような作業は、なかなか現実では簡単ではありません。
この顧客の要求品質等を技術的仕様に変換する思考プロセスを分析し、どのような論理・筋道で何を導くのか
を明らかにする手法として提案されたのが品質機能展開(QFD:Quality Function Development))であり広く活用されています。
QFDは、“顧客のニーズ・要求の構造の理解、各要求品質の重要度づけ、製品品質特性のブレークダウン、要求品質と製品品質特性の関連の把握、製品品質特性の重み付け、製品の品質仕様の決定という一連のプロセス”を合理的に漏れないよう実施するための企画・設計における有力な支援ツールと言えます。
QFDの本質的な議論は別に譲りますが、その要点は、要求品質展開(目的である要求品質を細部展開したもの)と製品特性展開(その実現手段となる製品特性を細部展開した代用特性としての技術仕様化)の関係性を分析・理解することにより設計のアウトプットに繋げることにあり、結果として、顧客のニーズ・要求から要求実現の構想化へ、また、目的から目的達成手段への論理的展開を可能にすることにより、得られた実現構想、及び実現手段の妥当性を担保しようとする機能を持つなど、企画・設計活動で有効なものです。
 
なお、当然のことながら、顧客が要求する品質には、潜在的なニーズを含む多様な側面がありますので,機能・性能のみならず、信頼性、安全性、使いやすさ、環境性能、感性品質など、製品のライフサイクルの視点から幅広く品質展開すべきです。この観点から品質部門が積極的に参画することに大きな意義があります。
また、要求実現のためには費用対効果など様々な観点がありますが、製品、サービスが持つべき本来の性質、特徴などを見極めた技術仕様化が重要であり、現在においては特に安心、安全の観点を忘れないことが必要です。
 
引き続き、新規製品の設計・開発の階層的な展開、対象、側面などを概観的に見ていきます。
 
■「製品設計・開発」の階層的な展開、及び対象・側面
企画された製品コンセプト・要求品質を、製品・サービスとして具体的に展開、着手する初期段階で実施する「構想設計」は実現する製品等のその後の枠組み・方向付けを決定するものとなり重要です。
この段階では、製品全体としての品質特性と各構成要素の品質特性との関連をつかむと共に、製品の構成要素を決定し、更に各構成要素の仕様を決定するため、各構成要素の要求品質特性と、それらと製品品質特性との関連を検討し決定することが必要であり、前述の品質機能展開(OFD)が設計支援ツールとして有効となります。
構想設計には、全体構想の発案、階層的な構築・展開、新規技術を含む構成要素の抽出・仕様化、製造方法・サービス提供方法の検討、評価方法の検討、ネック技術の明確化、開発計画策定、技術問題の洗出しと解決などの活動が含まれます。

ここで一例として、電子・通信機器分野における経験をもとに、このような「構想設計」の段階において、“配慮しておくべき着眼すべき点”を挙げてみると下記のようなものがあります。
 ・実績のある既存技術・テクノロジーの活用と新規開発領域の採用とのトレードオフ
  -新規開発技術の持つリスクに対する見極め、過剰な新規シーズへの注意
 ・設計変更等の発生は多数ありきのもとでの開発計画、量産判定機能等の計画・進行管理の重要性
 ・製造・検査・保守の容易性の考慮 (最近では対環境性;解体、分別など)、及び初期流動管理の考慮
 ・実現製品のメインテナンス/アベイラビィリティー;故障モードなどの解析診断機能の容易性など
 ・信頼度設計の側面(設計マージン、耐久性を含む寿命、要求信頼度など、及び想定内/外の明確化)
 
この段階で重要なのは、品質部門が積極的に参画し、求められている製品、サービスの性質、特徴を十分把握することはもちろん、それに即した明示的な要求に留まることなく、製品のライフサイクルの視点から顧客の立場に立ち、最後は自らの責任で判断する姿勢が大切だと思います。
 
この構想設計を経て、(各製品の種類・特質により様々ですが)、一般的には階層的に各設計対象・要素に下位展開され「機能設計」等(例えば、機能設計、方式設計、機構設計、部品設計など:いわゆる「詳細・要素設計」)が実施され、より具体化された顧客ニーズ・要求・対象に基づいた細部の構成要素の技術仕様化が行われます。また、中心となる「機能設計」等に加えて「信頼度設計」「原価設計」などへの展開が考えられます。
なお、製品設計では、対象・側面などから、「システム/ハード/ソフト設計」「論理設計、回路設計」「機構・実装・熱設計」「部品設計」などとも表現され、各製品分野、組織で様々です。
 
■信頼性設計
顧客の製品に対する要求品質の中には製品の機能・性能だけでなく“故障せず安全である”ということが常に含まれます。この信頼性ですが、一見、現在の一般製品の実力を見ると当たり前のように思えますが、実は非常に重要な要素で、顧客から明示的な要求が無くても、常に十分な考慮が必要な事項です。
信頼性とは、一言で言えば製品の“使用期間・時間”の概念を持った品質、すなわち、“製品が与えられた条件で、定められた期間に渡って要求された性能、機能を故障なく果たすこと”などと説明できます。
一般に、製品が具備すべき信頼性目標としては、平均故障間隔(MTBF:Mean Time Between Failures)や故障率(例えば、FIT*:Failure in Time:稼働10億時間あたりの平均故障回数)などの具体的な数値で示されます。*半導体部品など、大量に生産され故障率が極めて低い高信頼度工業製品などでよく用いられます。
 
信頼性目標を合理的に設定するためには,自社製品の市場品質情報や競合他社製品の品質情報、及び自社製品の実績データの把握・蓄積、更に市場での要求品質レベルを正確に把握することが重要となります。
製品の信頼性、安全性を向上させるためには一般的にコスト、重量、容積などが増大するので、その採用にあたっては経済性との兼ね合いの検討は必須です。信頼度設計における有効な手段、手法としては、下記のようなものが挙げられます。
・構成要素への目標信頼度の配分設計:システム>ユニット>部品 
・スクリーニング、エージングなどによる信頼度の高い構成要素・部品の選定
・構成機能の2重化など「冗長設計」(ある機能要素が故障しても他で補えるように2重化するなど)
・「ディレーティング設計;derating」(負荷条件を抑えマージンを持った使用条件とし長寿命化を図る)
・「フール・プルーフ設計;fool proofing」(人間の誤操作による故障を防ぐ方法の組込み)
・「フェイル・セーフ設計;fail-safe」(故障発生時にその影響が拡大することを防ぐ方法の組込み)
・トラブル予測のための「FMEA:Failure Mode and Effect Analysis」(製品やその構成要素に対して起り得る故障を想定し、その影響を評価の上、必要に応じて設計変更、設計計算、試験などへ結びつけるもの)
 
特に、ハードウエアの信頼度設計では、製品の設計技術に留まらず、故障・劣化モードの分析・特定などに
よる部品のスクリーニングや製品の信頼性確保のための過負荷・動作マージン評価試験、加速寿命試験(温
度、湿度、振動など)などの試験・評価技術が一体となった取り組みが重要です。
 
今回のまとめ;
 ・顧客の要求品質等を技術的仕様に変換する手法として品質機能展開(QFD)は有効である。
 ・初期段階の構想設計が重要であり、実現する製品の枠組み・方向付けが決まる。
 ・安全、安心など明示的でない要求品質にも注意が必要であり、製品の本質的な性質・特徴の理解が重要
  である。
 ・製品設計は、中心となる「機能設計」に加えて「原価設計」「信頼度設計」などもあり、名称も様々で
  ある。
 
次回、3回目では、設計・開発された製品が、指定された用途、又は意図された用途に応じた要求事項を満たし得ることを確実にするための裏付け評価となる“設計・開発の評価(妥当性確認)の目的、方法”について考察します。
 
(小原 愼一郎)
 

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