超ISO企業研究会

最新情報

  • HOME >
  • 新着 >
  • 本日から、品質部門配属になりました 第19回 『設計・開発品質の保証:設計・開発の全貌と製品設計』(その1)   (2020-09-28)

新着

本日から、品質部門配属になりました 第19回 『設計・開発品質の保証:設計・開発の全貌と製品設計』(その1)   (2020-09-28)

2020.09.28

今回から、企業の品質保証機能のうち、事業の中核となる対象製品・サービスの提供を源流の立場で実現させる“設計・開発品質の保証”に関して考察します。なお、新製品の設計・開発の機能としては、“顧客に提供する製品そのものの「製品設計」”と“それを実現させるための方法・手段の設計となる「工程設計」”とが存在します。以下の4回にわたっては、まずは“開発・設計の全貌の理解と製品設計”に焦点を当て話を進めます。なお、「工程設計」については、本メルマガの後続の「設計・開発品質の保証:工程設計・生産準備」で展開されます。
 
【第1回】“設計・開発機能とは、その本質とは” などの基本的な理解について
【第2回】新製品の設計・開発における“要求品質の仕様化への変換アプローチと設計・開発の対象、側面”
     について
【第3回】設計・開発の“結果の評価(妥当性確認)の目的、方法”について、
【第4回】設計・開発品質の保証における“品質部門の役割”について
 
【第1回】“設計・開発機能とは、その本質とは”などの基本的な理解について
 
日本の品質管理の歴史を振り返れば、当初は製造工程の品質向上に焦点が当てられていたものが、製品の高機能化、仕様の複雑化などの影響もあり、1990年代後半頃からは設計品質の向上に焦点が当てられるようになり、現在に至っているように思います。顧客からのクレーム、出荷品質の問題の多くは製造起因のものよりは設計起因のものが目立つようになり、原因の究明、変更・改善対策の複雑化など、製品実現の源流である設計品質の重要性に着眼されるようになった歴史があります。(振り返れば、私も1995年頃、当時新設された設計品質管理室に突然着任させられ苦労した経験が思い出されます。)
 
最近は、どの事業分野においても新製品の開発ラッシュであり、製品設計・開発から製造、出荷までの短手番化などが要求されるため、特に、後工程に対する影響も大きい源流である設計・開発の品質保証の負担が増しているのも事実です。
 ・一般的に、設計・開発プロセスは、研究開発(R&D)を含め、概念・構想設計、基本設計(製品機能・
  性能・構造・品質設計・原価設計)、詳細設計、に加えて工程設計、更に信頼性設計、安全性設計なども
  含まれます。
 ・設計品質においては「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」のバランスも必要で
  す。
 ・プロセスの管理面からは、製品要求に合った確実なアウトプットを得るため、必要とされる力量の明確
  化・確保・適切な配置、更に検証、デザインレビュー(DR)、妥当性確認などの場に代表されるよう
  に、既知の問題事例の未然防止を含む実績データの活用、及びそれらの蓄積したデータに基づく標準化、
  手順・基準等の整備などが重要となります。
 
それでは、最初に設計・開発の機能とは、何かを整理しておきましょう。
 
■経営機能における設計・開発の機能について
経営機能としての「設計・開発」とは、顧客のニーズに基づく製品企画をもとにその実現手段を具体的に指定し、その要求の意図を満たす製品仕様を決定するという機能といえます。なお、「設計design」と「開発development」については、組織によって経営機能としての業務範囲にはいくつかの捉え方があります。
「設計(広義)」を、要求を満たす手段を指定することと広く捉え、その中には製品や工程に関わる構想を実現させる意味での「開発」が含まれるとする場合と、開発と設計を個別に捉え、「開発」は製品・サービスや工程に関する要求を実現させる経営機能(研究開発も含め)とし、「設計(狭義)」はその一部で仕様(図面)を作成するだけの機能と捉える場合などあります。
これらを踏まえると、一般的には、製品設計・開発を行う場合、製品・サービスの具体的な企画が準備されると、これを実現するための設計・開発としては、要求の仕様化である設計機能に加えて、中長期的な技術トレンド、技術ニーズなどの基礎的な開発(研究開発R&Dを含む)機能が必要となる場合が多くあります。
すなわち,市場で望まれていることが分かっている要求でも、それだけでは優れた製品を顧客に提供することは出来ません。市場動向・技術動向を把握し、将来を見越したいわゆるコア技術に代表されるような研究開発(R&D)を進めるなど、魅力的な製品の企画に対応できる技術の蓄積を図ることが必要となります。
 
以上の議論を踏まえると、“設計・開発”に関する経営機能としては、上流に位置する“研究・技術開発(R&D)の機能”、と下流に位置する“新規製品・サービスの開発・設計の機能,及び既存製品・サービスの改良・展開設計の機能”が必要であり、この両者間の密接な繋がり、資源投入のバランス、交流などがもちろん重要となります。
今回は、“研究・技術開発(R&D)の機能”に関する突っ込んだ議論は避けますが、組織がいかに得意とする固有技術を保有し育てるかが、組織の成長、発展のキーとなります。狙うべき基礎的な研究・技術開発(R&D)の戦略の明確化に加えて、研究開発テーマの設定、研究開発資源の再配分、研究開発の進捗管理などに着目することが重要となります。
 
ここで、ISO 9000での用語例に着目すれば、設計・開発(design and development)の用語の取り扱いは、国際的にも状況は同じで、一つの専門用語であるかのような使い方をしています。このメルマガでも、以降は、基本的に「設計」も「開発」も「設計・開発」も全て同義語として扱うこととします。
 
■設計・開発の本質と定義
設計の本質の理解を深めるために、最初に、飯塚先生の他のメルマガでの表現を引用させていただきます。
(もちろん、他の部分についても引用を含め大いに参考させていただいておりますが)
“品質論の原点の一つと言えるものですが、「真の品質特性」と「代用特性」というものがあります。
「代用特性」とは、私たちが設計し実現し検証できる技術上の特性のことです。それに対し「真の品質特性」とは、顧客が認知する、多くは心理的、感覚的な品質特性です。代用特性と真の品質特性という概念を明確に区別し、真の品質特性を実現するために、どのような代用特性をどのレベルにすべきかを考え、これを合理的に決める行為こそが設計であり、だから設計という仕事は、ときに「仕様化」と言われています。”
 
これは、設計行為の真の本質を理解するうえで大変含蓄のある言葉だと思いました。
 
ここで、ISO9000で“設計・開発の定義”がどのように定義されているかを確認しておきます。
ISO9000:2005, 3.4.4項の定義では「要求事項を、製品、プロセス又はシステムの、規定された特性又は 仕様書に変換する一連のプロセス」、であり、加えて注記3として「製品の設計・開発とは、ある特定の製品に対する要求事項を満たすような、その製品を実現する仕様を確立する一連の活動を示す。仕様を確定する活動の中には、製品を試作するなどして現実に製品を実現することが含まれることもある。なお、製品の特徴によっては、製品を実現する仕様の中には製造仕様、又はサービス提供の方法の仕様が含まれることもある」となっています。また、改訂されたISO9000:2015, 3.4.8項の定義では、「対象に対する要求事項を、その対象に対するより詳細な要求事項に変換する一連のプロセス」へと変わりましたが、意図するところは変わりません。
これらの定義からも分かるように、ISOの世界では意図的に「設計・開発」を一体として定義し、「設計」と「開発」とに分けて定義していません。
 
「設計・開発」は、前にも述べた“顧客のニーズに基づく製品企画をもとにその実現手段を具体的に指定することであり、企画を満たす製品仕様を決定する”にほかなりません。新たな製品やサービスを提供しようとするとき、まず、最初にその製品・サービスをどのようなものにするのかを決める必要があります。そのためには狙いとする顧客のニーズ・期待(要求事項;性能、特性など)や製品・サービスに関わる法規制などの情報に基づき、それらを満たすような製品・サービスそのもの、及びその実現手段の具体的な詳細・仕様を決めるプロセスが「設計・開発」と言えます。
すなわち、設計・開発には、“出荷すべき製品そのもの「製品設計」”と“その実現の方法・手段の設計となる「工程設計」”とが存在します。
 
以降においては、「製品設計」に焦点を当て考察を展開します。なお、「工程設計」に関しては、本メルマガで後ほど“設計・開発品質の保証:工程設計・生産準備”の中で考察します。
 
なお、上述した、ISO 9001:2015の改訂において 設計・開発の要求事項は、下記の例示のようにISO 9001:2008 に比べて表現、内容が簡素化されていますので、実現対象の製品形態、特質を考慮すると共に、設計・開発のプロセスの本質を十分理解した上での対応や注意が必要でしょう。
(参考)
『ISO 9001:2015、品質マネジメントシステム-要求事項 解説』“4 審議中に特に問題となった事項、
c)サービス分野への配慮”
「“design”(設計)という言葉がサービス業になじまないということで、“design and development”(設計・開発)の“development”(開発)への置換え、設計・開発の“review”(レビュー),“verification”(検証)、“validation”(妥当性確認)などの用語を使用しないこと、及び設計・開発に関する要求事項を簡素化することが議論された。これに対しては、製造分野の人を中心に、品質保証ができない、サービスにおいても“design”は重要であるなどの反対意見があり、用語の置換え・削除を行わないこととなった。ただし,設計・開発の要求事項については、ISO 9001:2008 に比べて表現が簡素化されている。」
 
今回のまとめ;
 ・“設計・開発”の用語の使い方は様々であるが、例えば開発を研究開発(R&D)のような上流を含む概念と
  している場合もある。
 ・「真の品質特性」と「代用特性」の概念がある。顧客の要求が「真の品質特性」であるが、設計・開発で
  実現できるのは技術上の特性である「代用特性」である。「真の品質特性」を忘れないことが重要で
  ある。
 ・設計・開発(要求事項に沿った製品実現のための仕様化)には、製品設計(製品の仕様化)と工程設計
  (製品提供の方法の仕様化)が一般に含まれる。
 ・ISO 9001:2015の改訂では、 設計・開発の要求事項は、ISO 9001:2008 に比べて表現・内容が簡素
  化されているので設計・開発のプロセスの本質を十分理解した上での対応や注意が必要である。
 
次回は新製品の設計・開発:製品の仕様化への変換のアプローチ法と設計・開発の階層的な展開、対象、側面など、少し具体的な観点から考察します。
 
(小原 愼一郎)

一覧に戻る