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本日から、品質部門配属になりました 第12回 『社内への標準化推進』(その1)   (2020-08-03)

2020.08.03

今回と次回と次々回執筆を担当する松本 隆です.
現在,ISO 9001/14001の審査,並びにQMS,TQM等に関するコンサルの傍ら,ビジネススクールで(標準化や品質管理をビジネスに活かすための)「標準化経営戦略」や「問題解決図解演習」という科目を,高専で「品質管理」という科目を担当しています.
 
これから,3回にわたり,「社内への標準化推進」を解説します.
 
1.はじめに
 
前回までの話の中で,品質保証業務の全貌(全体像)として
 
A.品質保証体制:品質保証体制の構築・維持・改善 ← ココ!!
B.4つの品質保証:品質の4つの側面の保証
C.品質保証の全組織的活動:全組織的,部門横断的な活動
D.品質経営参謀:品質経営の推進における参謀的役割
 
の4項目があることが示されました.
A項目は,そのタイトルにある通り,自社内に品質保証体制を構築し,運営・維持し,そして改善することです.A項目内をさらに具体的に展開すれば,
 
 1.品質保証体系    
 2.品質情報システム
 3.社内への標準化推進 ← ココ!!
 
の3項目があり,今回から3回にわたって,その3項目目の「社内への標準化推進」について,その狙いから詳しく解説します.
 
2.標準化の狙い,意義
 
(1)標準と標準化のイメージ
 
まず,「標準化推進」の前提となる「標準」や「標準化」という用語を考えてみましょう.
皆さんが,これらの用語からイメージする(思い浮かべる)のは,以下のようなものではないでしょうか?
 □ 不条理な規制
 □ ルール絶対主義の石頭
 □ マニュアル人間
 □ ものごとを型にはめて管理する
 □ 柔軟性のかけらもない画一化
 □ 独創性の敵
 □ 多様性の無視
 □ (特に優れてはいない)平均的なレベル(もの) 
 
このようなイメージは,いずれも,標準や標準化のある側面を物語っています.
しかし,以下のような標準や標準化の深遠なる意味を理解すれば,こうしたイメージは本質的なものではなく,誤解であることに気がつくでしょう. 
 
・標準は,管理における「計画」の結果である.
・標準化によって「経験の再利用」や「省思考」が可能となる.
・標準の内容は「技術・知識基盤」そのものである.
・標準化は「改善の基盤」であり,「独創性の基盤」でもある.
 
こうした表現の意味は,すぐには理解できないと思いますのが,これから「急がば回れ」で,ていねいに説明します.
 
(2)標準と標準化の定義
 
「標準化」とは,「効果的・効率的な組織運営を目的として,共通に,かつ繰り返して使用するための取決めを定めて活用する活動.」(日本品質管理学会規格)と定義されています.
 
また,「標準」の定義としては,やはり日本品質管理学会規格で以下のように定められています.なお,< >は筆者(松本)が付加しました.
―――――――――――――――――――――――――――――
(1)関係する人々の間で<利益又は利便が公正に>得られるように<統一・単純化>を図る目的で定めた取決め.
注記1)対象としては,物体・性能・能力・配置・状態・動作・手順・方法・手続き・責任・
     義務・権限・考え方・概念などがある.
注記2)標準を<文書化>したものを<標準書>という.
 
(2)測定に普遍性を与えるために定めた基準として用いる量の大きさを表す方法又はもの.
―――――――――――――――――――――――――――――
 
なお,「社内標準化」の定義は以下のとおりです.
―――――――――――――――――――――――――――――
個々の会社内で会社の運営,成果物などに関して定めた標準
注記1)会社の運営に関しては,経営方針,業務所掌規定,就業規定,経理規定,マネ 
     ジメントの方法などが挙げられる.
注記2)成果物に関しては製品(サービス及びソフトウェアを含む.),部品,プロセス,
     作業方法,試験・検査,保管,運搬などに関するものが挙げられる.
注記3)社内標準は,通常,社内で強制力をもたせている.
<JIS Z 8002:2006 (標準化及び関連活動-一般的な用語)の附属書>
―――――――――――――――――――――――――――――
 
以上の「標準化」の定義から,標準化の目的は「統一・単純化」にあることが分かります.「統一」することによって「互換性」が確保され,ネジ,プラグ,電球のようにどこでも使えるようになります.
用語,記号,言語を決めることによって,説明なしで通じて「コミュニケーション」が図れて,特別の説明を要することなく知識,情報,価値観を「共有」することができます.
私たちは日常ほとんど意識することなく標準化の機能の一つである「統一」の恩恵を受けています.
「単純化」によって,大量生産,効率向上,原価低減,品質向上が可能となります.
単純だから大量に作れるし,単純だから効率が上がり,単純だから安くなるし,単純だから品質が良くなる,というわけです.
一般にこのようにして,標準化によって,品質と効率の向上が図れます.
 ものごとには様々な面があります.標準化もまた同じです.
標準化とは,結局のところ「統一」だから,窮屈な規制・ルールがあり,自由が束縛され,ルール絶対主義の石頭が闊歩し,決まり切ったことしかできない融通の利かない集団ができあがるに違いありません.
自由な発想が阻害され,その結果として独創性が阻害され,画一的なものの見方が広まり,多様性に対応できなくなり,ものを考えないマニュアル人間が増加することも懸念されます.
そもそも進歩というものはルール破りから始まるということを考えても,標準化が手放しで良いこととは思えません.
こうした疑問,反論が聞こえてきます.
でも,実はそれは誤解に過ぎません.以下,その誤解を解いていきましょう.
 
(3)標準(化)の深淵な(本質的な)意義
 
■標準=目的達成のための実施計画(PDCAのPlan)
PDCAをまわすことが管理と考えることができますが,P(計画)において作業標準,マニュアル,ガイドライン等の標準が重要で,標準はある目的を達成するための実現計画に他なりません.
「標準化は管理の手段であり,標準とは目的達成のための実施計画である」ということができます.
Plan(計画)においては,基本的に以下の①~②の2つのことが行われます.
①目的を決める
 ・目的を明確にする
 ・管理項目(管理指標)を決める
 ・目標(管理水準)を決める
②目的達成手段を定める
 ・実施項目,実施手順・方法(作業標準)を定める
 
上記のプロセスにおいては,②の目的達成手段(実施項目,実施手順・方法)を正しく決めることが重要です.
計画とは,そのとおりに実施して自然に目的が達成できるようなものをいうからです.
目標だけ示して実現手段を全く考えていない計画は,計画とは言えません.夢まぼろし,白日夢といったところです.
計画(Plan)のうちの「②目的達成手段を定める」という機能は,例えば作業標準,マニュアル,ガイドラインを定めることです.
その意味で,標準とは,ある目的を達成するための実現手段の実施計画にほかなりません.私たちは何かしようとするときに「どのようにしてこれを実現しようか」と考えます.
この思考の結果を「計画」といいます.ある業務の実施にかかわる標準とは,この業務をうまく進めるための計画の内容そのものにほかなりません.
      
■標準化=知識の再利用(ベストプラクティスの共有)
標準には以下の2種類がありますが,どちらも知識の再利用になり,ベストプラクティスの共有になります.
  ①決めなければならない標準
    統一による混乱の回避 (例)交通の左右通行,電圧,電源プラグ形状
  ②決めた方がよい標準(知識の再利用,経験の活用,省思考)
    良いモノ・方法の適用拡大 (例)技術標準
 
■標準=技術基盤
一流の人間は「型」を尊重します.定石を無視せず,これを踏まえて超越します.まさに「守・破・離」です.
品質の良い製品・サービスを効率的に提供するためには、もっと一般的に,質の良い仕事に必要な要件は、以下の6項目に整理できると考えています.
 ①動機:品質への取組みの動機,インセンティブ,ドライビングフォース
 ②思想:品質に関わる基本的考え方,コンセプト,フィロソフィー
 ③技術:品質を確保するために必要な当該分野に固有の技術・知識,再現可能な方法論
 ④管理:技術を生かすマネジメントの仕組み,システム,プロセス,手順,インフラ
 ⑤ひと:能力,意欲,意識,感度,認識
 ⑥推進:運動論
ここに挙げた6つの項目のうち「③技術」は,標準化の対象となる,品質の良い製品・サービスを生む,あるいは質の良い業務を行うために必要な,目的達成のための再現可能な方法論を意味します.
そして,「④管理(マネジメント)」において技術的根拠のある方法が標準化されます.
この意味で,標準とは,質と効率を確保するために必要な技術・知識基盤の,組織が共有すべき,可視化・構造化・最適化された技術・知識コンテンツと言えます.
 
■標準化=改善とイノベーションの基盤・創造性発揮の基盤
改善(=変化,変更)と標準(=一定,規則)は相容れないように思うかもしれませんが,基礎がしっかりしていて,スタートラインが明確であって初めて飛躍でき,イノベーションにまで展開できるのです.
質の高い創造的な仕事をするためには,どうすれば良いか分かっていることについては考えない(省思考)で,良いもの(標準化されたもの)を適用し,新しいこと,難しいこと,重要なことにリソース(人,時間,カネ)をつぎ込むのが早道です.
 
以上で今回は終わります.
この続きは次回に解説します.
                                  (松本 隆)
【引用文献】
・飯塚悦功(2009):現代品質管理総論,朝倉書店
・日本品質管理学会(2018):品質管理用語(JSQC-Std 00-001:2018)

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