超ISO企業研究会

最新情報

  • HOME >
  • 新着 >
  • 本日から、品質部門配属になりました 第9回 『品質保証体系』(その5)   (2020-07-13)

新着

本日から、品質部門配属になりました 第9回 『品質保証体系』(その5)   (2020-07-13)

2020.07.13

第2話「品質保証体系」の完結編(その5)を始めます.品質部門が担うべき性格が異なる4種類の役割についてです,
 
 
(1)管轄&(2)主担当ライン業務
【品質保証体系図の作成】
まず第1に,品質保証体系の構築とは最終的には品質保証体系図(QA図)を作成することであり,上記3.(第6回)で述べた①~③の業務,すなわち,
 ①製品・サービス品質の確実な保証のために必要な経営機能(業務)の列挙
 ②品質保証に必要な経営機能(業務)の運営を行う組織体制の明確化
 ③(上記①と②を踏まえて)品質保証体系図の作成
 
が,ここに相当します.
 
【関連文書の作成,改廃管理】
 第2に,作成した品質保証体系図(QA図)に沿って業務を遂行するために重要となる規定,規準,規格,手順・マニュアルなどの文書類を特定し,それを作成し,正式な文書として登録しておくことが必要です.実際にこれら関連文書に沿って業務を実施するのは企画部,設計部,調達部などのライン部門ですが,そのためのルール作りを品質部門が行います.また,後に述べますが,現行の品質保証体系図が最適とは限りませんし,不備があれば改善することになります.改善に伴って新たな文書を作成することもあれば,既存文書を改訂することもあるので,関連文書の改廃管理も品質部門自らが行うことになります.
 
(3)事務局的ライン業務
【ISO 9001認証維持業務】
 先ほども説明しましたように,品質保証体系図に沿って業務を実施するのは品質部門ではなく,ライン部門です.ただ,ライン部門に”じゃあ,あとは任せたよ”といって,品質保証体系を維持できるわけではありません.決められたルール通りに実施させることはそれほど容易ではないのです.したがって,品質保証体系を維持する目的を実現する有効な手段の一つとして,ISO 9001認証維持業務を行うことがあります.
読者の皆さんもご存知の通り,ISO 9001認証取得・維持のためには様々な部門が主担当となって実施する必要があるのですが,品質部門がその全体の取りまとめ役・コーディネータとなり,進捗管理を行い,時には部門間の調整や各部門での活動を支援することがありますが,そのことを指します.
 また,ISO 9001では外部審査員による定期的なサーベイランスがあり,しかも決めたことをその通りに実施できているかどうかをチェックされるわけですから,日頃からルールを守ることの習慣化を促せます.また,なかなか内部の人が言っても聞かないことを外部の審査員に指摘してもらうことで,品質保証体系の推進に役立てるという効果もあります.
 
【PLP(Product Liability Prevention,製造物責任予防)体制の整備・推進】
 もうひとつには,製造物責任(PL:Product Liability)への対応のための体制整備・推進があります.PLとは,「設計,製造もしくは表示に欠陥がある製品を使用した者,または第三者がその結果のために受けた損害に対して,製造業者や販売業者が負うべき賠償責任」のことであり,製品・サービスの使用者または第三者の受けた身体的・物的損害に対しての賠償責任を意味しています.例えば製品のクレームや欠陥によって火事が起こり,その結果として家具や家の一部が燃えたとか,最悪のケースでは人命にかかわるような影響を与えることもあり,相当な賠償額になりえます.したがって,品質保証の1側面である製品の欠陥を予防することが重要であり,この活動を製造物責任予防(PLP)といいます.PLP活動には,製品の中に安全設計を組み入れたり,製品の取り扱いを誤っても、事故や災害に繋がらないようにする(フールプルーフ機能),製品が故障しても安全側に働くようにする(フェールセーフ機能)や,消費者への警告表示の工夫などがありますが,これらを自社の品質保証体系に組み込んでPLP活動を推進する事務局的役割も,品質部門にはあります.
 
(4)経営参謀的業務
 品質保証体系を構築,維持した後は,現行の品質保証体制の有効性,効率性を評価し,必要があれば改善提案を行う必要があります.これらの業務が(4)に相当します.
 
【品質保証体系の有効性,効率性の評価と改善】
品質保証体系の有効性を評価する観点にはいろいろありますが,例えば以下のような捉え方があり得るかと思います.
  ・品質保証体系の運用結果
    -各製品/サービスのQ,C,Dに関する目標達成状況とその時間的推移
  ・品質保証体系の運用状況
    -プロセスやシステムの構築状況
    -計画対実施の乖離の程度
    -内部監査を含む品質監査での指摘内容,改善の頻度・深さ・レベルアップの程度

A項目の「3.品質情報システム」を活用して,上記の観点に関連するデータを収集,分析した結果を経営層に報告するとともに,もし品質保証体系に大きな不備があれば,改善点を提案するという役割です.報告及び改善提案を行う場として品質会議がありますが,この詳細は「10.品質会議」で解説します.
もしかしたら,品質保証体系は1度作ればほぼ変わらないもので,改善点など見つかるのか?と思われるかもしれません.しかしそれは大きな誤解です.
たとえば,ある市場クレームや不具合1件について考えてみましょう.ある市場クレームが出たとき,そもそも顧客(市場)に流出させてしまったのはなぜか?と考えて,出荷検査,最終検査の不備を分析できます.また,もしその市場クレームが製品の硬度不足によって引き起こされたとした場合に,それに影響する製造工程のうち,加熱処理工程の工程条件に問題があったとしましょう.そうすると,その製品を作り上げるための加熱処理工程の工程条件を変更することになるでしょう.さらに踏み込んで,ではなぜそのような加熱処理工程の工程条件の設定に至ったのだろうかと考えることもできます.とすれば,製造を始める前の工程設計のやり方にも改善の余地がありそうですし,生産準備の量試確認段階でこのような不備を見つけられなかったことにも原因を求めることもできそうです.もっと言えば,このような製品の硬度に設定したのはなぜかと考えて,もし想定した顧客の使用方法・環境条件が実際と大きく異なっているのであれば,商品企画の段階まで遡って市場調査のやり方も変える必要があるかもしれません.このように,市場クレームや不具合1件からでも,個別の製品・サービスの改善に留まらず,品質保証体系図の改善点を見つけることが可能です.
また,不具合1件1件の分析ではなく,特定の製品・サービスにおいてある一定期間に起こったすべての不具合事例を集めて分析し,品質保証体系図内の経営機能のどの段階で,どの部門のどの業務で問題が多く発生しているかの傾向分析を行い,脆弱性を見つけることも可能です.さらに,同じ製品系列に属する複数の製品・サービスにおいてある一定期間に起こった不具合事例を重ねることで,1件1件やある特定の製品・サービス単位での分析では見えてこなかった,品質保証体系の潜在的な不備を見つけることも可能かもしれないのです.このように,鳥瞰図的に現行の品質保証体系の不備を見つけて改善を実施することは品質保証体系の1要素を主担当とするライン部門では難しく,品質部門以外には考えられないのです.
 
                               (金子雅明)

一覧に戻る