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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第50回『当社はTQMとBPRをやってきたから,次にBSCはどうか?日本経営品質賞もあるし,最近は○○も流行っているみたいだね 』(その3)  (2020-04-20)

2020.04.20

 
今回で誤解『当社はTQMとBPRをやってきたから,次にBSCはどうか?日本経営品質賞もあるし,最近は○○も流行っているみたいだね.』の3回目(最終回)となります. 
 
■4.他社によるツール適用事例(成功事例)をどう読み取るべきか? 
 
流行するツールということの別の側面としましては,それだけ宣伝がうまいということでもあります.当然ながらツールを普及させたい側はそのような意図をもってツールの有効性をこれでもかと“過剰に”訴求してきます.テレビのコマーシャルはその代表例でしょう.特に経営者・管理者にとって,有名なあの会社でも適用していて成功しているというのは,特にそのキンリンに触れる殺し文句ともいえます.また,講演やシンポジウムでもその背景にある基本的考え方や本質の説明よりも,とにかく実践・適用例を見せてほしいという要望が多いのも確かです.では,その適用例(成功事例)をどのように読み取ればよいでしょうか? 
 
そもそも適用例というのはあくまでのその会社独自でやったことの軌跡であり,(講演等で聴講している側の方の)会社ごとに歩むべき軌跡は異なるはずです.その意味で,他社で成功した軌跡をそのまま自社でなぞろうと思うのは大きな間違いです.筆者は以下の2つの視点からこの適用例を読む取るべきだと考えます. 
 
第一は,ツールの適用例(成功事例)を通じて,そのツールの基本的考え方や本質,特徴の理解をより深めるという視点です.第二は,このツールは自社にとっても役に立つ有効なものであるかという視点です. 
例えば,第一の視点からは,そのツールの基本的考え方を言葉の表現や頭では理解してはいても,その考え方を現実として展開した適用例を見ることで,誤解していることに気が付くことが多々あります.また,ツールを適用した過程と成功した結果が説明されますので,そのように成功した理由はツールのどのような箇所(本質,特徴)から来ているかを理解することでもあります. 
 
第二の視点からは,以下のようなことを適用事例から読み取るべきです. 
 
・この会社で成功したのは,その会社固有の状況や経営環境,特徴によるものなのか 
・どのような状況であれば,広く一般的に同様な効果が得られ得るか 
・わが社の状況はどうであり,この経営ツール導入の効果は期待できそうか 
 
とある講演会で,立派な企業の取り組み事例を聞いて満足そうに帰っていく人を見たことがあります.何度も見たことがあります.あるときに“何が面白かったのか”と聞く機会がありました.回答の詳細は覚えていませんが“こういう立派な会社はやはりこういうところまでやるんだから偉いよね”というような主旨のご発言でした.適用事例の聞き方として大変もったいない聞き方であるとともに,このような聞き方,理解の程度に留まってしまうままでは,十分な効果が出るように経営ツールを活用できないだろうなと思いました.適用例の読み方について,是非ご注意いただければ幸いです. 
 
■5.色々な経営ツールの本質,特徴を概観する 
 
さて,1~3を通じて,経営ツールを有効に活用するためには,その本質,特徴を理解しておく必要があると申し上げました.また,そのツール事例として既にISO 9001,BPR,BSC等を適宜挙げて説明しましたが,改めて,いくつかの経営ツールについてその本質や特徴を短文でキーワード的に整理してみました.皆様によるツール有効活用の一助になれば幸いです. 
 
なお,その整理にあたってはいろんな観点があろうかと思いますが,ここではa.目的,b.アプローチ,C.解決手段の3つの観点から整理を試みております.b.のアプローチはa.の目的を達成する方法に関する基本的考え方を示し,c.の解決手段はその目的達成のための具体的な方法という意味です.また,私はTQM信者でありますから(笑),TQMについてはさらに日常管理,方針管理などの重要な活動・手法についても取り上げています. 
 
【ISO 9001】 
a.目的:合意した顧客要求事項を満たす製品・サービスの提供する 
b.アプローチ:顧客志向,システム志向・プロセス重視,マネジメント(PDCA) 
c.解決手段:グルーバルスタンダード化したQMS要求事項 
 
【BPR】 
a.目的:業務のQ,C,Dの抜本的な向上(業務改革) 
b.アプローチ:目的志向,全体最適,業務プロセスの可視化・再設計 
c.解決手段:ITの活用,積極的アウトソーシング,目的に直結しない業務の削除 
 
【BSC】 
a.目的:事業環境に応じた適切な経営による経営目標・戦略の達成 
b.アプロ―チ:財務とそれにつながる顧客/業務プロセス/成長と学習の3つ視点との因果関係の考慮,目的とその達成手段の組織的展開 
c.解決手段:SWOT分析,戦略マップ,適切な業績評価指標(KPI)のセット 
 
【RPA】 
a.目的:業務効率や生産性の向上 
b.アプローチ:ITを駆使した業務の一部代替化や自動化 
c.解決手段:IoTやAIなどのICT技術 
 
【TQM】 
a.目的:品質を中核としたシステム志向の顧客価値経営の実践 
b.アプローチ:顧客志向,システム志向,人間尊重,改善重視の科学的経営アプローチ 
c.解決手段:日常管理,方針管理,QFD,DR,FMEA,工程管理,QCサークル,統計的手法など 
 
【日常管理】 
a.目的:各部門における分掌業務の管理 
b.アプローチ:業務のPDCA,標準化 
c.解決手段:業務機能展開,管理項目,プロセス条件(良品条件),業務標準,維持・改善 
 
【方針管理】 
a.目的:環境変化のなかでの経営目標・戦略の達成 
b.アプローチ:全組織一丸の環境変化対応型管理体制の構築・運営 
c.解決手段:方針の展開(目的‐手段の展開,組織への展開),上下左右でのすり合わせ,実施計画に基づく進捗管理と期末レビュー 
 
【QFD】 
a.目的:顧客ニーズ・要求を満たす根拠ある製品・サービス仕様の明確化 
b.アプローチ:顧客要求と品質特性との関係性の科学的・体系的な把握 
c.解決手段:品質機能展開表,品質表(要求品質展開表,品質特性展開表,企画品質設定表等を含む) 
 
【FMEA】 
a.目的:トラブル未然防止による製品信頼性の確保・向上 
b.アプローチ:故障モードを手掛かりとして、その影響連鎖・因果メカニズムの把握による設計完成度向上 
c.解決手段:不具合現象を一般化・抽象化した故障モードの予測,故障モードの影響・発生確率・検知度合を考慮したRPN(Risk Priority Number)評価 
 
■6.効果が確実に出るようにするツールの賢い活用法とは? 
 
1)ツールの賢い活用のためのエッセンス 
まず,上記1~4を通じて読者の皆様に一番伝えたかったことを集約すれば,結局は以下のようになります. 
 
・経営ツールは手段,それを使う目的は経営課題の達成である. 
・まずは,自組織の経営課題の正しい認識が必要である. 
・その正しい認識を行うためには,提供すべき価値→持つべき組織能力→現状との対比→経営課題という順番で行うのが超ISO企業研究からのお勧めである. 
・導入しようと思っている経営ツールの本質,特徴を理解する. 
・正しく認識した上記の経営課題の解決戦略・戦術の“一部”として,経営ツールを適用する. 
 
これがあらゆる経営ツールを効果ができるように賢く活用するための共通のエッセンスだと考えられます. 
 
2)デミング賞審査のABC項目から見る,TQMというツールの有効な活用方法 
最後に,経営ツールのひとつであるTQMに焦点を当てて,デミング賞受賞3条件について考察してみます.まず,デミング賞受賞3条件は以下のA,B,C項目の形で示されており,「デ賞受賞3条件ABC」と表記することもあります. 
 
A): 経営理念,業種,業態,規模及び経営環境に応じて,明確な経営の意思のもとに積極的な顧客志向の,さらには組織の社会責任を踏まえた経営目標・戦略が策定されていること.また,その策定において,首脳部がリーダーシップを発揮していること. 
B): A)の経営目的・戦略の実現に向けて,TQMが適切に活用され,実施されていること. 
C): B)の結果として,A)の経営目的・戦略について効果を上げるとともに,将来の発展に必要な組織能力が獲得できていること. 
 
これらA,B,Cそれぞれの項目が100点満点で採点され,いずれも70点以上になって初めて合格と判定されるのがデミング賞で,75点以上がデミング賞大賞となります. 
 
A項目では,経営ツールであるTQMそのものではなく,TQMを使う目的,つまり経営目標・戦略を策定することが要求されていることがわかります.しかも,トップが経営ツールとしてTQMを選んできてあとは“やっておいて”と言ってTQM担当者に丸投げするというではなく,そのTQMの活用において,リーダーシップを発揮しなければならないということも要求しています.つまり,TQMを実際に使う前に,その使用目的とそれに対する経営層の本気度を確かめるためのものとなっています.これが明確でなければ,どんなに良い経営ツールも効果が得られるはずもないという意図の表れでしょう. 
なお,単に経営目標・戦略を明確にすればよいのではなく,TQMが主眼にしている“積極的な顧客志向”なものでなければならないとも規定されています. 
 
B項目はまさにツールとしてのTQMの活用そのものについて述べています.しかも,ここでキーなのは文中の“適切に”という点です.“適切に”とは,当然ながらA項目で定めた経営目的・戦略を実現する観点から適切か,という意味です.経営目的・戦略は当然ながら個々の企業・組織で異なるのですから,TQMツールを活用する点では同じかもしれませんが,その“活用の仕方”は企業・組織で千差万別でありますし,異なるべきであるとも考えられます. 
 
読者の多くは既にご存知のように,TQMには方針管理,日常管理などのマネジメントシステムや,QFD,FMEA,統計手法などがありますし,それごとに解説した専門本も多く出版されています.最近では日本品質管理学会が学会規格として整備しJIS化もしています.いずれにしましても,それらを型どおりにやればよいのではなく,参考にはしながらさらに進めて自社の経営目標・戦略のためにどう活用すべきかを考えなさいと言われているのです. 
 
また,文中には“実施されていること”とも書かれています.これは当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが,ある部門,ある特定の人だけがTQMを実施するのではなく,全社的に実施し,さらに一過性のものにせず,継続していくという点も大事だということです.ここからは,TQMは何らかの市販のパッケージソフトを購入してそれをインストールしそれですぐにおしまい,という類のツールではなく,全員参加で継続的に実施することでやっと効果を発揮できる経営ツールであるとも認識してもらいたいです. 
 
最後に,C項目は文面通り,ツールを使った効果が出ていることが大切で,それをちゃんと確認し,評価していますか?と要望しています.ツールを使いっぱなしではダメだということですね.また,効果については,A)の経営目的・戦略についての効果であり,かつその効果がB)の結果であるか,つまりTQMというツールによる効果であるかどうかという2点も抑えておきたいです.単に経営成績が良いということだけをアピールしてもダメで,B)のTQMというツールの活用によって得られた効果を示す必要があることもわかります. 
 
なお,筆者の個人的意見ではありますが,効果は何も成功物語ばかりだけでなくてもよく,失敗事例でもよいと考えます.失敗したことを通じて得られた教訓そのものが効果であり,その教訓からTQMという経営ツールを経営目標・戦略の達成のためにより賢く活用できるヒントを得て,将来に活かせばよいからです. 
 
最後の“将来の展開に・・・”の部分は,今の経営環境や目標・戦略だけでなく,もう少し長期的な視野に立ち,将来の経営環境変化を踏まえて,競争で重要となってくるだろう組織能力をいざというときに発揮できるように,今のうちに備えているかが要求されています.結構厳しい要求ですが,TQMを,この先の経営環境の変化への適切な対応を確実にし,持続的に成功し続けられるための仕組み,体制作りのツールとしても活用しなさいとも要求しています.
デミング賞審査項目についての更なる詳細な説明は他の機会に譲りますが,ここで言いたいことは,デミング賞審査においてはTQMツールそのものでばかりでなく,それを如何に効果が出るように賢く活用できているかを問うているともいえるのです. 
 
皆様が世の中の経営ツールをいかに有効に導入できるのか,とりわけTQMという経営ツールをご自身の経営に役立てられるよう,切に願います. 
 
 
(金子 雅明)

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