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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第48回『当社はTQMとBPRをやってきたから,次にBSCはどうか?日本経営品質賞もあるし,最近は○○も流行っているみたいだね 』(その1)  (2020-04-06)

2020.04.06

 
今回からは,『当社はTQMとBPRをやってきたから,次にBSCはどうか?日本経営品質賞もあるし,最近は○○も流行っているみたいだね.』という誤解テーマについて,3回に渡って解説していきたいと思います. 
 
■1.次々に出てくる新たな経営ツールに振り回されていませんか? 
 
今回取り上げるこの誤解テーマですが,具体的な経営ツールの名称は異なるかもしれませんが,このように似ている発言をしている経営者・管理者は少なくないと思われます.経営をよくするための手段としていろんな経営ツールが開発され世の中に出てきているのですから,それに興味があること自体は悪いことではありませんし,当然です. 
 
しかし,流行している経営ツールの本質,特徴をよく理解しないまま導入し,新たな経営ツールがまた流行りだすと今度はそれに飛び移ることを繰り返すきらいがある経営者・管理者の行動や思考スタイルに強い危機感,懸念があります.その結果,TQMを含めて非常に大きな効果をもたらす可能性を秘めた有望な経営ツールの本来の効果を十分に引き出せず,“○○(経営ツール)は思ったより使えないね”という間違った結論に至ってしまいます.そればかりか,導入した現場ではその対応にバタバタしながらなんとかやってきたのに効果が得られないので疲弊感のみが残ります.さらに最悪なことに,これまで現場でコツコツと作り上げ積め重ねてきた活動,仕組み,体制が,いたずらにこのツールを導入したことによって,大きく崩れていくこともありえるのです. 
 
このような痛い経験を一度でも経験すれば,現場サイドは自分の今の現場を死守しようとしますから,今後どんなに有用な経営ツールの導入を謳ってみても“またか”“現場には関係ないこと”という反応で,TQMを含めた経営ツールを効果的に導入するのを大いに妨げてしまいます. 
 
今回の誤解『当社はTQMとBPRをやってきたから,次にBSCはどうか?日本経営品質賞もあるし,最近は○○も流行っているみたいだね.』を取り上げた理由はまさにココにあるのです. 
 
■2.なぜ,流行のツールに追従するのか?  
 
1)取り組めば経営が良くなるという過度な期待
では,なぜ経営者・管理者(に限らないかもしれませんが)は流行のツールに追従してしまうのか,筆者が考える一つ目の理由が「取り組めば経営が良くなるという過度な期待」です.この理由は確かに一理あります.期待が全くないのにその経営ツールを導入するはずもありません.ただ,その期待がどうなれば実際の自社の効果として出るようになるのでしょうか?そこをちゃんと考えなければなりません. 
 
ISO 9001という経営ツールは多くの読者がご存知の通り,「グルーバルスタンダード化した,QMSのミニマムモデル」であり,計画通りに実施することによって顧客と合意した製品・サービス仕様への適合を確実にすることに焦点が置かれています.そのようなISO 9001の本質,特徴に対して,自社の置かれている経営環境下では顧客仕様に適合することが競争優位上重要なファクターとなり,かつ自社内のあらゆる計画(手順,マニュアル等も含む)通りに実施することに何らかの不安,懸念,問題を抱えている(例えば,社内の製品不具合事例を分析してみると,挙げられた多くの要因が標準不遵守にある)場合には,ISO 9001を導入することで,この経営ツールの本質や特徴が活きて,自社が抱える不安,懸念,問題の解決につながることになり,結果として経営が良くなります. 
 
また,一時期流行ったBPR(Business Process Reengineering)について考えてみます.BPRの本質,特徴は,対象業務の目的を改めて認識し直した上で,その目的達成のために本当に必要なプロセスが何であるかを,全組織に跨って鳥瞰図的視点からゼロベースで検討し,IT技術やアウトソーシング等の手段を用いて,業務のQ,C,Dを抜本的に改善・向上させることにあります. 
この本質,特徴を裏返して考えれば,多くの部門から構成されて部門間の連携がうまくいっておらず無駄が多いか,毎年の組織改編に合わせて各部門の分掌業務が適切に整備されておらず結果として業務全体の目的が曖昧になっている等の問題を抱えている会社では,BPRの経営ツールの導入は有効になり得るだろうと考えられます. 
 
以上の2事例からもわかりますように,期待した効果が本当に実現し,経営が良くなる成立条件とは,導入する経営ツールの本質や特徴が,自社が経営上解決すべき問題とマッチングしているからなのです. 
 
この成立条件の理解を踏まえて,改めて流行するツールを導入することの意味を考えます.まず,そのツールは流行しているのですから,それなりに現在の多くの企業が抱える共通的な弱点や問題点をうまく突いているからであろうと考えられます.しかし,当然ではありますが,各社が抱える問題や弱点は同じ業種・業態であったとしても全く同じであることはないわけで,まさに100社100様です.つまり,多くの会社にとって有効であったツールが,本当に自社にとって有効であるかどうかはまた別問題であるということであり,明確な根拠なしにそうなってほしいと祈っていても効果は得られません. 
 
ここでいう明確な根拠とは上述した成立条件のことです.導入する経営ツールの本質,特徴については,出版本やそのツールの大学研究者・専門家・有識者に聞けば,それほど苦労せずとも理解できます.一方で,自社が抱えている問題,弱点については,他の誰に聞いてもわからないので,自分自身が適切に理解している必要があるのです. 
 
このように言いますと,自社の問題や弱点として,競合と比べてここがまずい,業界の中でもうちはあれがまだダメだから伸ばさないといけない,工場内ではこんな不具合が毎日のように起こっていて問題となっているなどを挙げてくる方が少なくなりません.しかし,競合・業界との表層的な比較による差異や,目の前にある既に起こっている問題が,本当に自社にとって今優先的に解決すべき経営課題であるのでしょうか.スポーツの世界で日本人は平均身長が高い国ではありませんが,その特徴にあった戦い方をすることで活躍している選手も多いです.戦略スタイル,戦い方,戦術によって身長が低いことが弱点ではなく強みにもなり得ると同様に,企業・組織もその戦略に合った経営課題を正しく認識する必要があるでしょう. 
 
そのために,超ISO企業研究会では,品質を中核とした顧客価値経営のための手法やツールを提供してきているのであり,概略を述べれば, 
 
提供している顧客価値の明確化→自社が持つべき組織能力の特定→持つべき組織能力と現状との対比→現状とのギャップ(経営課題)の理解 
 
の流れで,経営課題を理解するのが良いと提唱としています.この理解なしでは,当然ながら上述の成立条件を満たすことは叶わず,結果としてどんなに有用な経営ツールを導入したとしても,十分な効果など獲得できないのです. 
 
 
(金子 雅明) 

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