TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第47回『QCサークルなどの小集団改善活動は自主的な活動だから、方針管理とつながるテーマに取り組むのはまずいですよね 』(その2) (2020-3-30)
2020.03.30
前回(第46回)は、小集団活動と方針管理の関係を、具体的な事例(製造部門の「テーマ型QCサークル活動」)を含めて説明をしました。
今回は別の事例として、スタッフ部門のプロジェクトチームとしての小集団活動と最近のQCサークル活動報告の例を紹介します。
3.全社方針と直結した「チーム改善活動」の例
これから紹介するのは、前回同様に、筆者が勤務していた企業(非鉄金属加工メーカー)での別の事例で、部門横断型のチーム改善活動である「CSチーム活動」です。
■「CSチーム活動」とは
お客様クレ-ム削減を目指した全社活動に取り組む。その活動を「CSチーム活動」と称する。
「CS」とは、顧客満足:Customer Satisfactionとクレ-ム削減:Claim Sakugenの頭文字である。
■「CSチーム活動」の目的と目標
当社の最重点課題として、客先クレ-ム削減を取り上げ、それを解決する事により顧客満足を向上させ、同時にスタッフの問題解決能力を向上させ、将来起こりうる問題の未然防止をもはかる。
全社共通の目標として、客先クレーム件数を30%減/年(2年で半減)とする。
■「CSチーム活動」の背景とねらい
各部門のお客様クレーム削減の取り組みの実態を調査したが、個々のクレ-ム対応はそれなりに実施されていたが、クレ-ム削減が効果を上げていない部門が多く見受けられた。多くの場合、施策そのものの不適切さや、施策に挙げられている事項が十分実施されていない事が主な要因だと考えられる。一方、当社が4年前から取得しているISO9001の仕組みは整ってはいるが、この仕組みはクレーム削減という意味では効果を上げていない。
また、当社のクレームは、その性格から大きく次のa)・b)の2種類に大別でき、その削減策も両者では変えるほうがよいと考えられる。
a)技術的な問題等による慢性的な不良・不具合現象から発生するクレーム
b)品質保証上の仕組みの問題(システム上の不備)から発生するクレーム
以上の点を踏まえて、本活動は「クレ-ムの原因の捉え方」と言った基本的なところからスタ-トし、クレ-ム削減策を(クレームの性格によるアプローチの仕方を含め)抜本的に洗い直して、関係者の周知を結集し、固有技術・管理技術のレベルアップを目指し、最終的には“決められた事を守る”「標準の遵守」につなげる。結果として、当社が維持している品質マネジメントシステム(ISO9001)の向上をはかる。
本活動はテ-マにより各製品部内の製造課、技術課、品質保証課のそれぞれ単独では実施出来ず、それらの枠を越えた営業部、物流部も含む活動となる可能性があるため、各部門の壁を取り払い各部門が参加する全社横断活動とする。
■「CSチーム活動」のポイント
1) 顧客クレームを減らして顧客満足度を高める。
2) クレームを次の2種類に大別し、攻め方を変える。
a)技術的な問題等による慢性的な不良・不具合現象から発生するクレーム
b)品質保証上の仕組みの問題(システム上の不備)から発生するクレーム
3) 特に新しい仕組みを作るのではなく、従来から当社にあるISO9001と方針管理の仕組みを活用し、そのレベルアップにより業績を向上させる。
4) 各製品部内だけの活動ではなく、営業部→技術課・製造課・品質保証課→物流部という製品・情報の流れ(バリューチェーン)を一気通貫した活動とする。
5)管理者・スタッフの活動として、計画的・体系的・効果的かつ効率的に進める。
■「CSチーム活動」の成果
全社で約75のチームが活動し、以下に記す様な特色のある成果が得られました。
1)クレーム傾向の把握に「クレーム・マトリックス解析」を作成
2)新製品の製造条件の把握に実験計画法を活用し、製造技術の向上
3)クレーム情報のデータベース化とデザインレビューの改善
4)外注先と協力し社内全ノウハウを盛り込んだQC工程表を整備し、内部監査でフォロー:
5)パートタイム従業員への技能伝承にデジカメの動画機能を使った作業標準の活用:
4.最近のQCサークル発表会に参加して
今から1か月ほど前の2020年2月に、筆者が住んでいる兵庫県で開催された、QCサークル近畿支部主催の「QCサークルチャンピオン大会イン兵庫」に参加する機会がありました。
その大会では、一次予選で選抜された5つのサークルから体験談発表がありましたが、私としては、そのようなQCサークル活動の発表会に参加するのは、10数年ぶりでした。
代表(チャンピオン)5サークルの発表は、業種としては製造業や工事、運送、福祉、そしてサークルの職種としては品質管理部門、介護職、総務、保全部門と、多彩でしたが、昔見られたような芝居がかった大仰な発表はなく、その内容、取り組み方、手法やストーリーの展開等、「基本に忠実」で、さすがチャンピオンで素晴らしいと思いました。
そして、前回紹介した「小集団改善活動の3つの基本」(以下の①~③)が満たされていると感じました。
①小集団で問題・課題に取り組む
②QC的考え方・手順・手法で改善する
③能力の向上と組織の活性化を図る
また特に、このメルマガの今回のテーマである「小集団活動のテーマと方針管理」との関係で考えても、5サークルの活動テーマは、全て各社・各部門の方針と密接にリンクしていると判断できました。
5.まとめ
今回を含めて、2回にわたって以下のことを書いてきました。
・QCサークル活動と方針管理の関係に関する考え方
・(筆者が社内の企画・推進役として主体的に関わった)全社方針と直結した
サークル活動とチーム活動の事例
・最近のQCサークル発表の事例
その“まとめ”としては、以下のように考えます。
TQMの本質は「品質」「全員参加」「改善」の3つの言葉に凝縮されます。
QCサークルの本質の一つを「全員参加の改善の場」と考えると、QCサークルは、いわゆる職場の(全員参加の)サークルというより、組織の「改善」の一翼を担う重要な要素として評価し支援(推進)すべきでしょう。
前回書いたように、「小集団改善活動」の形態を、「職場型・継続型」の「QCサークル活動」と、「横断型・時限型」や「職場型・時限型」の「チーム改善活動」として区別することができますが、このような区分にとらわれることなく、その進め方は柔軟にして、メンバーのやりがいの発揮と能力の向上、活動結果による経営への貢献に期待したいと考えています。
なお、「小集団活動(小集団改善活動)」については、日本品質管理学会の「方針管理の指針」(JSQC-Std 33-001:2016 )には、以下のように定義されており、「方針管理」と「日常管理」との関係性が明示されています。
―方針管理・日常管理を通じて明らかとなった様々な課題・問題について、コミニュケーションがはかりやすい少人数によるチームを編成した上で、特定の課題・問題についてスピードのある取り組みを行い、その中で各人の能力向上と自己実現、信頼関係の醸成を図るための活動。部門横断チーム、部門ごとのプロジェクト活動、第一線の従業員によるQCサークル活動などが含まれる。
以上から、『QCサークルなどの小集団改善活動は、たとえ運営を自主的に行っても、方針管理とつながるテーマに取り組むのが望ましい。』という結論になります。
【引用文献】
・松本 隆(2005):超ISO企業実践シリーズ4、お客様クレームを減らしたい 日本規格協会
・飯塚悦功(1997):QCサークルのこれまでとこれから、QCサークル活動の本質、日本品質管理学会 「品質」Vol.27,No.2
・日本品質管理学会(2016):方針管理の指針(JSQC-Std 33-001:2016)
(松本 隆)