TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第44回『うちも方針管理を導入しています.各部門に会社方針を提示して方策を考えてもらっています.半期に一度,報告会も開催していて慣れてきたところです。 』(その1) (2020-3-9)
2020.03.09
皆さんは,方針管理の取組みにおいて次の実態に出くわした経験はありませんか?
何年も同じ文言で通用しそうな「世界品質第一,トータルコストダウン,納期遵守100%,安全第一,人材育成」など,毎年ほぼ同じ方針を掲げている.
上位方針の下位への指示中心の形式的な展開で,方策が妥当かどうかの吟味が欠落し,効果,副作用,必要経営資源などの考慮も見落としている.
これでは,経営環境の変化に俊敏に対応し,重点指向で経営目標・戦略を達成することが疑わしくなります.
しかし現実は,皮相的で形式的な「方針管理」であるにもかかわらず,「わが社はTQMを導入推進している」と思い違いしている場面に遭遇します.
プロセスの改善・革新を組織的に促進するための有効なツールとして生み出された方針管理は,TQMを実施するうえで欠かせません.
現在では多くの組織が取り入れ,経営目標・戦略の実現に向けて取組むべき課題・問題を,目的指向や重点指向のもとで明らかにし,達成・解決するための経営のツールになっています.
しかし,方針管理の考え方が提案されて約半世紀を経た今日,いろいろな形での形式化や形骸化に悩む組織から,どうしたらよいかという声を聞くようにもなりました.
■方針管理の形式化・形骸化を避ける
『うちも方針管理を導入しています.各部門に会社方針を提示して方策を考えてもらっています.半期に一度,報告会も開催していて慣れてきたところです.』という事例がありました.
確かに,会社方針を提示して各部門が方策を考え,半期ごとに報告会を行っており,形式的には良さそうです.
果たしてそうでしょうか…?
今回のメルマガでは,経営のツールとして実質的に有効な方針管理にするにはどうしたらよいかを2回にわたり紐解きたいと思います.
■方針管理を導入するとは
まず,「方針管理を導入する」と言ったときに必要な要件を振り返る必要がありそうです.
方針管理として何が求められるかは日本産業規格(JIS)の定義が参考になります.
「方針を,全部門及び全階層の参画の下で,ベクトルを合わせて重点指向で達成していく活動.」(JIS Q 9023:2018「マネジメントシステムのパフォーマンス改善-方針管理の指針」)
簡潔な定義ですが,少なくとも次のA)からC)の要件が浮かび上がります.
A)方針が策定されている.
ここで言う方針は,「トップマネジメントによって正式に表明された,組織の使命,理念及びビジョン,又は中長期経営計画の達成に関する,組織の全体的な意図及び方向づけ.」(JIS Q 9023:2018)であり,一般的には,a)重点課題,b)目標,c)方策が含まれています.
B)全員参加のもとで,全員のベクトルを合わせている.
製品・サービスの実現にかかわっている関係者全員が,自らの役割を認識し,経営目標・戦略の達成のために同じ方向性をもって積極的に参画し,寄与している.
C)重点指向である.
目的や目標の達成に及ぼす影響を予測・評価し,優先順位の高い要因を絞り込んでいる.言い換えれば,影響の小さい要因は取り上げず,影響の大きい少数の要因を選び抜いている.
組織が方針管理を導入していることを標榜するならば,経営目標・戦略の確実な達成を目指した方針管理の実施において,少なくとも前記のA)~C)を充足しているか確認することが肝心です.
方針管理を「方針に基づき管理すること」と解すると,方針に基づいてPDCAのサイクルを回すことが必要と思い至ります.
PDCAのサイクルという観点から,方針の策定,展開,すり合わせ,確認,処置の要点を考えて参ります.
■方針の策定における留意点は何か?
方針の策定で留意することは何でしょうか.
方針が,年度などある限られた期間に取り組むべきa)重点課題,b)達成すべき目標,c)目標を達成するための方策,という3つの要素を含んでいるととらえれば,これらの要素が妥当である方針の策定が必須になります.
a)重点課題とは
重点課題は,組織として優先順位の高いものに絞って取り組み,達成すべき事項を意味します.
総花的でない重点指向の方針を策定できるか否かは重点課題の絞り込みが大きく影響し,目安として3~5項目に絞り込むのがよいとされています.
b)目標は,a)の重点課題ごとに,日常管理で到達できない,現状打破の挑戦的な目標の設定がキーとなります.
強いて例えるならば,柳に飛びつくカエルが3回飛んで1回飛びつけるくらいのストレッチ目標(従来比20%増,25%減など)といったイメージです.
c)方策の立案で大切なこと
b)の挑戦的な目標を達成するには,既存の業務プロセスだけでは実現できません.
したがって,業務プロセスの改善に焦点を当てた新たな方策を立案する必要があります.
そのためには,業務プロセスの結果に影響する要因を洗い出して重要要因を見定め,この要因の改善に着目したアイデア創出と,効果や副作用を含めた実効評価が眼目になります.
適切な方策を立案するには,調査・分析・解析などの力量を持った人材育成が要といえます.
■方針の展開における留意点は何か?
策定された方針は,組織の階層に従って下位の方針または実施計画に展開されなければ実行に移せません.
上位方針の方策を受けて,下位の重点課題と目標を明確にし,これを達成するための方策を立案します.さらに,この方策をより下位へ展開し,実施計画として具体化していきます.この取組みが方針の展開と言われるものです.
方針の展開は,目標だけを下位に展開することではない点に留意を要します.
目標を達成するための方策を,それ以上は下位に展開しない段階で実施計画が立案されます.
実施計画は,ある部門・課・個人が実施すべき各々の方策について,実施する項目を時系列に整理し,実行できるレベルまで具体化されている必要があります.
誰が,何を,いつ,どこで,どのように行うかなど,5W1Hを念頭に置いた要素が実施計画で明確化されないと確実な実行に結びつきません.
方針管理におけるPDCAのCheck段階で不可欠な管理項目も方針の実施準備段階で設定します.管理項目は,目標の達成状況を監視し,必要な処置をとるために選定した評価尺度であることが要件となります.
また,方策を実行するための経営資源の確保,実行段階での状況変化に対する柔軟な対応への手立ても求められます.
■すり合わせを十分に行う
方針の展開段階で,目的の分解,目的を構成する要素への分解,目的を達成する手段への展開,これらの組織(部門,課,個人など)への割り付けが必要になります.
これらを行ううえで,すり合わせ(キャッチボールとも言われる)が重要になります.
方針は,上位者からのトップダウンにより,目的-手段のつながりをもとに,より具体的な手段に展開される必要があります.
同時に,下位者からのボトムアップにより,下位の課題・問題を上位の課題・問題へと集約されることが重要です.
すり合わせは,トップダウンとボトムアップの双方向の良好なコミュニケーションのもとで,方針の展開を確実に行うための極めて大切な役割を担っています.
すり合わせの過程で,上位の管理者,下位の管理者・担当者,関係する部門・パートナーなどが方針管理の実施にかかわる自らの役割を合意形成し,上位から下位に至る方針を一貫したものにしていきます.
すり合わせがキチッとできれば,方針の展開において,上位方針から第一線までがほぼ同じ内容なってしまう,いわゆる「火の用心,火の用心,…」を繰り返して方策が具体的にならないトンネル方針をまぬがれることが可能になります.
このメルマガでは,方針管理の定義を示したうえで,方針管理におけるPDCAのPlan段階で中核となる方針の策定,展開,すり合わせを取り上げ,方針管理の形式化・形骸化を避ける術の一端を紐解きました.
次のメルマガでは,方針管理の評価と処置を取り上げます.
(村川 賢司)