TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第41回『標準化をしっかりしてみんなで守っているから日常管理はばっちりです。 』(その1) (2020-2-17)
2020.02.17
1.日常管理とPDCAサイクル
■ある経営者との話
ある企業(以後A社と呼ぶ)に行き、そこの経営者に「ISO9001をやって良かったことは何ですか?」と聞くと、「PDCAの管理サイクルが回るようになりました」と言う返事が来ました。そして、その後に「これで日常管理も出来るようになったので、今度は方針管理です」と言う言葉も続きました。さてほんとに日常管理PDCAサイクルが回っているのかなと思って現場を見てみると少しがっかりしました。
これは結構多く経験することです。どうやら、ISO9001を導入することで日本の企業に取って得意でなかった文書による標準化が進み、みんなでそれを守ることでばらつきのない仕事が出来るようになったことだけで日常管理ができるようになったと誤解をしているようなのです。確かに、それだけでも大きな成果であることは間違いないのですが、日常管理のPDCAサイクルが回っていないのです。
■日常管理のPDCAサイクルを回すとは
まずは、PDCAが比較的しっかりと回っている、ある自動車部品の製造会社J社の日常管理のPDCA実施例を紹介しましょう。
(1)Plan(計画)
①P1:目的、目標、ねらいの明確化
J社のある製造工程では、作業指示書や製品図面などに明確にされた要求仕様にあった製品を、生産計画で計画された納期通りに、所定のコスト内で次工程に送り出すことが目的です。そして、この目的の達成具合を計る尺度を管理項目としてその管理水準と共に決めてあります。
②P2:目的達成のための手段・方法の決定
上記の目的を達成した製品を製造するためには、機械の準備・操作の方法や、運転中の監視方法など、各種の作業のやり方が標準書として決めています。
(2)Do(実施)
①D1:実施準備・整備
標準通りの作業ができるようにするために、新しく仕事に就く人たちへの教育訓練と、このスキルが維持できるような教育訓練を実施しています。また、必要となる部品・材料、設備や測定機器などの資源も準備し、これがいつでも使用できるように整備がされています。
②D2:実施
(1)②のPlan通りに実施します。
(3)Check(チェック)
① C1:目標達成に関わる進捗確認、処置
J社では、P1で目標の達成具合の尺度として決めておいた「出来高」と、この出来高に最も影響する「不良品発生の状況」を毎日確認しています。この確認頻度は日だけでなく、週や月で集計して傾向で確認でもしています。
② C2:副作用の確認、対応
異常は自工程で監視している出来高や不良率だけでなく、後工程にその副作用がでることもある。加工工程の後の「仕上げ工程の稼働率」に悪影響をしているかどうかも確認の対象としています。
(4)Act(処置)
①A1:応急処置、影響拡大防止
J社ではある時、不良率が管理水準を超えました。原因は“機械の不調”によるものでした。まずは当該ロット製品の選別及び手直しを実施し、さらにはその原因となった機械の停止と修理などの応急処置の実施をしました。さらには、すでに顧客に渡されてしまったものを含む周辺ロットの品質確認をして、回収の要否も判断しました。
② A2:再発防止、未然防止
さて最後が再発防止対策です。このためには、不良を発生させてしまった機械故障の真の原因をつかまえて、しくみの改善を含む対策を打ちました。
さてこのような日常管理のPDCAサイクルのどこがうまく回っていないのかを、A社やその他の会社のケースで考えてみると、大きくは3つのことが浮かんできました。そのまず一つ目を、今回はお話ししましょう。
2. 日常管理のPDCAをうまく回すための一つ目のポイント
■「P1:目的、目標、ねらいの明確化」の重要性
PDCAサイクルが回るためには、どこかで「C」(チェック)がされて、この情報をきっかけとして回り始めます。A社では、このCの項目と基準が設定されていませんでした。そのことの元を辿ると、自分たちの仕事の目的、ねらいを明確にしていなかったのです。
前述のJ社の場合を見ると、P(計画)の最初に、「P1:目的、目標、ねらいの明確化」ということをやっていました。そうなのです、これをしっかりと明確にしておかないとPDCAサイクルは回っていかないのです。
そしてそのことは、P2(目的達成のための手段・方法の決定)にも影響するのです。A社の作業手順書を見てみました。必要な作業とこの順序が詳細に書かれていました。でも、その仕事の目的やねらいを考慮したときに、本当に作業の順序だけ標準化しておけば十分なのでしょうか?きっと、品質を確保するためのコツや、材料をムダにしないための留意点や、事故を起こさないための禁止事項だとかいろいろとあるはずです。この作業手順書のことは、次回の話の中でお話しをします。
■業務の機能展開
ここまでは、比較的分かりやすい製造業務の例でお話しをしましたが、製造業務以外でも基本は同じです。ただし、日常管理の重要なポイントである管理項目や管理水準の設定には、業務目的の機能展開をすることが効果的な方法となります。
これは、ある部門・部署の業務目的を明確にして、これをツリー状に展開していく方法です。例えば、購買業務の目的は、“良い品質の資材を、適切な価格と納期で調達する”ことであり、そのためには“良い業者を選定”する必要があり、そのためには“適切な評価”をしなければならない、などと展開した系統図を作成し、この中から重要な管理項目を設定していく方法です。この展開表は、全体はツリー状に可視化されます。
製造工程では、QC工程図などを作って管理している組織も多いのですが、一般的には、この管理項目は、要因系と結果系、すなわち設備の運転条件とか材料などのインプットの監視と、アウトプットである製品の結果を監視して管理をしています。同じように、間接業務においても、業務の結果だけでなく、要因側の管理項目もうまく設定して管理することが出来るようになります。まだおやりになったことのないようでしたら、チャレンジしてみてください。
このように、「P」(計画)のとりわけP1(目的、目標、ねらいの明確化)を、これを達成するための管理項目・管理基準の設定を含めてしっかりと実施すること、これが日常管理のPDCAをうまく回すための一つ目のポイントなのです。
(丸山 昇)