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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第40回『コンプライアンスや品質不祥事問題はTQMとは関係ないんですよね? 』(その3)  (2020-2-10)

2020.02.10

 
今回は、TQMに関連したエピソード、不祥事発生の時代背景、及び監視機能についてお話したいと思います。 
 
古い話ですが、TQM導入時代の経験談を少しお話します。 
在職していた自動車会社(本田技研工業)では、4代目社長の川本さんが1992年4月にTQM「ホンダフィロソフィー」を宣言しました。その背景は、ホンダのDNAであるチャレンジ精神で、“考えているよりも、まず行動”という行動規範から来る十分な計画なしに行動に先走ってしまう体質からの脱却とバブル崩壊から始まった不確実性の時代を生き延びるため、1年前の1991年に企業体質の改革「激動に対応するスピードを求めて、次世代ホンダに向けての企業体質の確立」が社員に示されたことから始まりました。 
 
ホンダの目指すTQMとは「客観的に事実は事実としてとらえ、重点指向するなかで、体系的・科学的・全社的に計画(P)、実施(D)、検討(C)、処理(A)を繰り返す質の高いマネジメントを行うこと」と定義づけられていました。もともと製造現場ではQC活動が活発に行われていたので、TQMのターゲットはむしろ管理部門、営業部門等の非生産部門でした。ホンダジョブコンセプトという方針管理手法で実行した結果、人、モノ、金のマネジメントが強化され仕事の質は各段に向上しました。当時としては日本の大企業ではまだ珍しかった(個人ベースで実績により増減する)管理職の年俸制、プロセスのアウトプットに関連する他部門による多面評価による業務評価などが始まったのもこの時期からでした。 
 
このホンダ流TQMで身についたことは、精度の高い目標設定であり、そのための要件、リスク検討、実現可能な日程計画と目標達成のためのPDCAを徹底して回すことでした。この結果は目標達成率が格段に向上したというTQMによる成果です。 
 
そのような時代にコンプライアンスに係る問題が発生しました。安全欠陥の類ではなく被害者はいませんが、顧客優先で行ったことが厳密にいえば法規制違反だったのです。ここでも前出の不正のトライアングルの理論(正当化:顧客ニーズを満たすこと、動機・圧力:営業部門からの強い要請、機会:実行部門には実行できる状況ができていた)が当てはまりますが、正当化された要件を満たすための “不都合な事実(規制項目)に目をつぶる”という姿勢が根本原因でした。この問題をトップが大きく取り上げ、社長が社報で法規制を守ることの重要性を全社員に発信し、リスク管理の観点から品質保証部からコンプライアンスの監視機能を独立させました。 
 
トップのコンプライアンス認識 
もう一つの経験もお話しましょう。 
コンプライアンス系の業務では、自動車の品質問題が発生した時の組織内及び関連部品会社への対応などの難しい事案を経験しましたが、その一つで、ある部品の製品不具合でリコール実施について部品会社の経営陣と会議を持った時でした。その部品会社の経営陣は、「うちの先生(当該会社が支援している国会議員を意味)にお願いしてリコールは避けたいのですが」という発言があったとき、ホンダの品質担当重役は「ホンダをバカにするな!」と激怒しました。(注:今では、国会議員を使って官庁を動かすということはほとんど不可能と思いますが…) 
 
これが、リーダーシップにおける倫理行動であり、自動車製造会社における企業責任であると考えます。自分がいた自動車会社を美化している訳ではありません。ここで言いたいことは前述の話を含めトップの言動や行動が、企業が間違えを起こさないためにいかに重要であるかを伝えたいのです。 
 
過去30年における日本の特有な状況 
品質不祥事を起こした企業は、いつから、そんな状況になってしまったのかを考えると、古くは1991~92年のバブル崩壊、そして1997年の緊縮財政から始まったデフレ期が長く続いた、いわゆる“失われた20年~”という時代に我が国の経済活力が低下したことが一つのきっかけになっていると考えています。その結果、公共投資、企業の設備投資、人材投資等が停滞したことが、間接的な要因となって組織のガバナンスの劣化を招いたのではないかと推測します。 
 
自動車産業でいえば、かつての日本の業界構造は、カーメーカーを中心に系列で構成されていました。利害の一致から利益分配、教育訓練、人事交流等の強い連携を武器に、合理的なコストで高品質な製品を提供できたので世界的な優位性を築きました。ところが世界の自動車産業界において中国の台頭、カーメーカー、部品メーカーのグローバル展開が拡大したこと、加えて日本のバブル崩壊、デフレ影響で部品メーカーは日本のカーメーカー相手だけでは生き残れない状況となりました。そしてデフレ期では多くの中小企業は姿を消しました。(ちなみにゴーンさんが日産の社長になったのは1999年です。その後、日産では大リストラが始まりました) 
 
この時代の状況は自動車産業に限りません。我が国の多くの企業は、これでもか、これでもかというコスト削減を行わなければ生き残れない時代になってきました。このような状況から、資源の合理化(リストラ、人材投資減、設備投資減など)が行われてきたのです。私は、これが日本の企業の健全な発展の妨げになったのではないかと考えています。 
 
このような変化の中で、特に人的資源の劣化が悪影響を与えているように思えてなりません。その結果で生じたことは、「その1」で述べた品質不祥事を起こした会社の特性に共通性にある事象にあるような、人材育成の低迷、階層間、部門間におけるコミュニケーション不足による意思疎通の低下、ベテラン社員のリストラ等による悪影響です。 
このような中で利益最優先に偏った、一方的なトップダウンだけがまかり通る状況を作り出したのではないか?と私は推測しています。 
 
効果的な監視システムが必要 
企業責任が全うされていることを監視するための内部統制では、監査部門による内部監査があります。企業では監査機能(監査室など)が、会社の財務、コンプライアンスなどの領域を監視する役割を担っています。監査機能における内部統制は、経営上のリスクを一定水準に抑え、「業務の有効性と効率性」、「財務報告の信頼性」、「法令遵守」、「資産保全」を確保することが目的だとされています。この監査機能が正しく働かなかった結果、財務の粉飾決算で上場廃止の危機に陥った大手電機会社(現在は2部市場で復活中)、製品の安全欠陥に適切な対応をせず消滅した自動車部品会社の例などが失敗事例の典型でしょう。 
 
内部監査は通常大きく分けて上記のような監査室(監査法人が行うものを含め)などが実施する経営・財務事項と、品質管理部門や環境管理部門等が行う品質、環境などのマネジメントシステムに対する内部監査の2種類があります。いずれの内部監査もリスク回避の観点から自浄能力を高める監視活動です。 
 
コーポレートガバナンス(企業統治)が投資家からも求められる流れから、前者は、自社(同族)の監査役が取締役を監査する(不正が隠蔽される可能性が大きい)在来日本型から、社外取締役の導入により利害関係者を代表する立場で透明性、公平性を確保しやすい形に変化してきています。これはガバナンス向上に効果的でありこの方法を採用する会社が増えることは良いことだと考えます。 
 
後者のマネジメントシステム内部監査は事業プロセスとの統合という見地からも、事業リスクの検出も視野に入れて行われるべきですが、実態はISO認証維持のための活動に留まっている例が少なくありません。この状況はトップがマネジメントシステムの内部監査の価値をあまり評価していないからだと思えてなりません。トップはマネジメントシステムの内部監査はTQMの監視ツールであると認識し、現場で起こっている事象を理解し、必要に応じたリスク対応を率先して行う必要があると考えます。 
 
最後に 
不正のトライアングルが形成されないためには次の事項が重要であり、これらはTQMの基本的考え方や方法論の活用によって強化できると考えます。 
 
階層間、部門間のコミュニケーションを活発に風通しが良い環境、意思疎通の確実化 
経営層が現場で起こっている事実を把握するコミュニケーションの仕組み 
■ 下位職制の者でも、ものが言える環境人間性尊重、仕組み 
■ 問題を表面化する悪いことは隠さない、隠せないしくみを作る問題顕在化の仕組み 
■(トップに対しては)価値基準を利益優先の目標のみにしない、働く者が共有できる価値基準の目標を作る価値観の創造、モチベーション 
■ リスクに基づく考え方から、内部統制(内部監査機能)を充実させる効果的な監視機能 
■ コンプライアンス(倫理、法令順守)を尊ぶ文化を醸成する企業風土、リーダーシップの役割 
 
 
(長谷川 武英)

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