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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第39回『コンプライアンスや品質不祥事問題はTQMとは関係ないんですよね? 』(その2)  (2020-2-3)

2020.02.03

 
前回の「品質不祥事を起こした会社の特性に共通性」においては、以下の「不正のトライアングル」で分析した結果についてお話しました。 
 
・「機会」(不正行為の実行を可能ないし容易にする客観的環境) 
・「動機・圧力」(不正行為を実行することを欲する主観的事情) 
・「正当化」(不正行為の実行を積極的に是認しようとする主観的事情) 
 
今回は、具体的な事例とTQMに関連した話題も交えて、不祥事が起こる状況を洞察し、それを抑止するための考え方を共有したいと思います。 
 
不正(データ改ざん)とISO認証審査 
製品・サービス実現のプロセスにおいて、基準(法規制で定められた或いは顧客と合意した基準等)が守られてないという事象は、誰にでもわかる初歩的な内容であり、ISO9001で言えば「不適合」として特定されるものです。 
 
そこで、不祥事が明るみになった会社の話を一つ紹介します。 
この組織の過去のISO 9001審査では、審査員が不適合としていた事例(後で不祥事となった)がありましたが、それに対する組織の是正はその固有事象のみに対する是正処置回答で容認されていました。その後の審査で審査員はその不適合が再発していることを検出したので審査工数の増加を提案したのですが、組織から審査員忌避を含み強い抵抗があり受け入れられませんでした。 
 
そのときの審査は不正を疑っての審査アプローチによるものではなかったと思いますが、不祥事発覚後の組織の発表で、その不適合事象が複数部門に亘る組織ぐるみの不正であったことが明白になりました。そしてその不正は以前から恒常的に行われていたことも分かりました。これは一部門や担当者個人の過失でなく、組織内に不正行動をとらなければならなかった状況が存在していたことが「不正のトライアングル」で説明がつく深層の要因です。 
 
TQM/QMSとの関連性について 
TQMは、品質(Quality)に関連した方針管理、日常管理、品質保証システム等のマネジメントシステムを基軸として、TQM手法、TQMの運用技術の広い範囲をカバーする経営モデルです。またISO 9001は品質マネジメントシステムモデルの一つとして、TQMの基本概念を反映している、次に示す7つの品質マネジメントの原則(ISO 9001:2015)に基づいています。 
 
1.顧客重視 
2.リーダーシップ 
3.人々の積極的参加 
4.プロセスアプローチ 
5.改善 
6. 客観的事実に基づく意思決定 
7. 関係性管理 
 
これらの品質マネジメントの原則は普遍的な概念であり、事業マネジメントの根幹をなすものです。不祥事の抑止に、どの原則が関連しているかを考えた場合、それは2.のリーダーシップであることは明確でしょう。トップマネジメントの行動は、企業倫理のもとに全社員に目的、目指す方向を示し品質目標達成に参加する状況をつくり出すことだと述べていますが、これらの品質マネジメントの原則には、大前提として企業理念、倫理があることを忘れてはなりません。 
 
「JIS 9005:2014 品質マネジメントシステム―持続的成功の指針」から 
このJIS規格は、本超ISO研究会の飯塚会長が主導して作成したもので、2005年に初版が発行され2014年に改訂されています。この規格は、「TQC/TQMを実施してきた日本の優良企業における、ベンチマーク対象となる品質マネジメント」の概念が基礎にあり、またパフォーマンス向上を目指したISO 9004を超える品質マネジメントの指針と位置づけられています。この規格がTQMを標準化したモデルであることから、今回のテーマであるTQMとの接点を探る上で、この規格の中にある社会的責任やコンプライアンスに係る部分を抽出してみました。 
 
「4.5 品質マネジメントの原則」において、顧客価値創造とともに「社会的価値重視」を挙げており、この視点が、TQMによって達成しようとする持続的成功のために、社会的存在としての組織の責任,製品・サービスの顧客以外の関係者への影響,製品・サービス提供に関わる活動がもたらす関係者への影響などについての考慮が必要であるとしています。 
 
「5.2 企画におけるトップマネジメントのリーダシップ」では、QMSの企画において、トップマネジメントが、「法令・規制要求事項を満たすことは当然のこととして,製品・サービスを通じて提供する顧客価値を明確にし,それを満たす」こと、「組織の社会的役割を明確にし,利害関係者のニーズ及び期待に応える」ことを確実にするよう推奨しています。 
 
「6.2.1 品質方針」が、「 顧客価値,事業シナリオ,組織能力像,事業環境変化の分析及び組織の社会的責任に対して適切である」ことも推奨しています。 
 
「9.4 事業環境の変化及びパフォーマンスの監視,測定及び分析」において、「社会の価値観及び法規制の動向」を考慮して監視・測定をするよう推奨し、組織の諸活動がもたらす社会に対する影響の評価指標を定めるときに、環境、安全、社会貢献、透明性、法令順守、雇用機会、納税などに配慮するよう推奨しています。 
 
さらに、規格の付属書に、この規格で用いる重要用語の概念の説明がありますが、顧客価値には、「顧客が社会の視点で認識する」価値、例えば、地域貢献、社会貢献、リスク(健康、安全、環境、文化)などもあることを説明しています。 
こうしたことから、社会的存在としての組織の責任を果たし、組織のコンプライアンスを確かなものにするためには、トップマネジメントが法令・規制要求事項及び組織の倫理規定の順守を主導することが不可欠であるということが分かります。 
 
TQMで不祥事は起きにくくなるか 
そもそもTQM、品質マネジメントという経営アプローチの本質は、「品質中心・顧客志向・目的志向」と「システム志向・プロセス重視」にあり、この基本思想と方法論によって持続的成功(事業環境が変化しても顧客に認められ続ける)を達成しようとしてしています。真に顧客に認められるために不祥事を起こして良い訳がありませんし、まともな業務システムを設計・構築・運用することによって、不祥事の起こりにくい組織運営体制ができるに違いありません。
 
このように、「妥当な目的を達成するためのシステム志向・プロセス重視」は、全体最適、プロセス定義、知識基盤定義、合理的な業務標準化を促し、不祥事は起きにくくなるでしょう。TQMの重要な行動原理である「人間性尊重」は、人材育成、教育・訓練、人の質の管理を推進し、賢者の愚直ともいうべき人々を増やすことでしょう。TQMのカンバンでもある「継続的改善」は、問題解決、原因分析、是正処置、予防処置を通じて、不祥事の視点からも危うい業務の改善を推進できるでしょう。 
 
TQMの代表的なマネジメント手法である「日常管理」は、業務機能定義、プロセス定義、標準化、標準通りの業務の推進を促し、効果的・効率的な組織運営のみならず、不祥事の起きにくい組織の実現に貢献するでしょう。さらに「方針管理」は、全組織的課題について、策定、展開、実施、進捗管理、振り返りとPDCAを回す過程で、全組織的な価値観共有、情報共有を醸成し、これまた不祥事の起きにくい体質の構築に貢献するでしょう。 
 
TQMの基本的な考えの中には、上述したように「人間性尊重」も含まれています。事業活動を実行しているのは、トップマネジメントを始めとした経営層、部門責任管理職、中間管理職、現場担当者という人間です。不祥事の中には犯罪となるものもあります。それは、悪意をもった一人の業務実施者が犯す個人的な犯罪とは違い、多くの場合、上位職位の意志(命令、示唆、忖度の期待など)で不正を行っています。それらの人は悪意をもって不正を実行したのでしょうか? 考えてみてください。不祥事は、不正に加担していることに耐えられなくなった人が内部告発で暴露するという事例が少なくないことにも注目する必要があります。「人間を大切にする」という観点からも不祥事が起きない組織づくりをしていかなければなりません。 
 
 
(長谷川 武英、飯塚 悦功)

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