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メルマガ⑧ TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか?

TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第38回『コンプライアンスや品質不祥事問題はTQMとは関係ないんですよね? 』(その1)  (2020-1-27)

2020.01.27

 
2017年の秋口から我が国を代表するような会社の不祥事が次々と露出し、いまだに後を引いています。私は、認証制度における不祥事対応という側面で不祥事を起こした会社の状況に接する機会があり、そこには共通した傾向があることに気づきました。そのような経験から2018年の本研究会のメルマガ“不祥事シリーズ”では「品質不祥事を斬る」と「自動車産業と品質不祥事」を書かせていただきました. 
 
また2019年3月の第7回JABマネジメントシステムシンポジウムでは「不祥事事例に対する認証制度における対応方法の提言」というテーマのWG研究発表で多くの参加者の注目を集め、認証制度の中でも不祥事のインパクトは大きいことを実感しました。 
 
不祥事に対する社会的な関心が益々大きくなっている折から、今年の第8回JABマネジメントシステムシンポジウム(3月18日予定)では、昨年の研究テーマを更に展開し、より具体的な内容になっています。 
メルマガ読者には、是非とも3月の本シンポジウムに参加され聴いていただければと思います。 
 
今回のメルマガテーマでは、不祥事とTQMとの接点について2回に亘って探ってゆきたいと考えていますが、不祥事を起こした会社の大半は程度の差こそあれTQM活動を実践していると思います。それでも不祥事を起こしていることから、そのTQMにどのような工夫をすれば不祥事を予防できるのかを考えてみたいと思います。このような視点から、このメルマガでは、不祥事が起こる状況を洞察し、それを抑止するための考え方を共有したいと思います。 
 
「2017年秋に火が付いた品質不祥事 」 
2017年秋、日産自動車と神戸製鋼の品質不祥事報道をきっかけに、不祥事事件に火がつきました。企業の不祥事は以前から発生しており、その都度メディアによる報道をにぎわせていました。 
 
わが国において、企業不祥事の報道が目立ち始めたのは、20年ほど前からです。社会的な問題として世間を騒がせた自動車リコール隠し、食品偽装、建物耐震偽装などが、その始まりでしょうか。重大品質問題を含め不祥事を起こした企業は、自動車、電機、建設、食品、鉄鋼、金属、ゴム、石油など、日本品質を代表するような産業の会社が多く、TQMを実践しISO認証も受けた大手企業が含まれています。 
 
不祥事は日本国内だけでなく、自動車関連ではフォルクスワーゲンの排ガス不正、GMのイグニッション安全欠陥などの巨額賠償事例も日本で大きく報道されました。そのような背景からISOの世界でもIAF(国際認定フォーラム)が企業不祥事に対するMD(認証機関に対する義務文書)の制定が始まりました。 
 
「不祥事といっても色々 」 
ここで、不祥事とは何かということを考えてみたいと思います。ざっくり言って社会的・道義的責任に違反するもので、メディアで不祥事として取り上げている事象は、粉飾決算、脱税など財務的な不正、製品安全欠陥、虚偽表示(不正競争防止法)、下請け法、独禁法等、多くは法規制違反などのコンプライアンスに関する事象です。最近では、顧客データ流出、モラルハザード(セクハラ、パワハラ、…)、従業員残業代不払いなど、広範な領域に亘っています。また、政府機関(省庁、官庁)、公的機関などにおける不祥事(年金機構、記録廃棄、ゆうちょ保険等)の発生も少なくありません。 
 
ISO 9000に“不祥事”の定義はありませんが、QMSセクター規格の「JIS Q 9100-品質マネジメントシステム航空、宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」の補足事項である航空宇宙業界規格SJAC 9068Aでは「3.3不祥事:組織の品質マネジメントシステムに係る活動において、組織の社会的信頼を損なわせるような出来事(例えば、記録のねつ造や改ざん等)」と定めています。 
 
不祥事というテーマについて考察するにあたって、TQMとの接点を意識して「品質不祥事」に焦点をあてた話題から展開したいと思います。 
 
「品質不祥事によるリスク 」 
品質不祥事を、そのリスク度合いから大きく分類すれば次のようになります。 
 
1. 最悪質ケース:人命、身体損傷を起こす恐れがある製品安全欠陥を隠蔽するケース、典型が“リコール隠し” 事例としてトラックのタイヤ外れによる死亡事故、食品健康被害、建物倒壊など 
 
2. 次の悪質ケース:虚偽の表示や宣伝で社会(消費者)を欺くケース、例えば自動車燃費の偽装、食品不正表示、JIS適合違反など 
 
3. 法的な安全基準不適合には至らないまでも顧客と合意された基準を守っていない、すなわち顧客報告品質データ(記録)の改ざん、試験をしないでデータ捏造など 
 
4. 実被害はないが法規制への抵触(広義な意味で軽微な法違反なども含む) 
 
最近の品質不祥事は、実害を伴う1、2のケースより3、4のような顧客と合意された基準が守られてない、法規制への抵触などコンプライアンスに関するものが多く、製品回収(リコール)を伴う事態は必ずしも多くはありません。ただ、これらは社会に対する裏切り行為であり信用失墜、社会的な糾弾により、顧客離れ、売り上げの減少、挙句の果てに経営陣の退陣など会社の経営に大きな禍根を残す結果になっています。品質不祥事が経営リスクの要因となることは間違いない事実です。 
 
「品質不祥事を起こした会社の特性に共通性 」 
品質不祥事に関するマスコミ報道では、大半のケースが製造現場で行われていた不正を本社が知らなかった、本社と工場とのコミュニケーションが欠如していた、経営陣が製造現場の状況を理解していなかったことが根本原因であったと伝えていました。 
 
そこで、前述した2019年3月のJABマネジメントシステムシンポジウム「不祥事事例に対する認証制度における対応方法の提言」のWGにおける活動の話を少ししたいと思います。 
 
WGのメンバーは11名で認証機関、研修機関、認定機関、コンサルタント、業界団体の方でした。WG研究テーマ選定理由は次の5点としました。 
 
・ここ数年、企業による品質不祥事が多く発生している 
・日本企業の品質の信頼が揺らいでいる 
・不祥事を起こした組織がISOの認証を取得している 
・ISO認証の信頼性が揺らいでいる 
・世界でも同様な事例はあり、IAFでも議論が始まっている 
 
品質不祥事で公表された会社(マスコミ報道になっていないものを含め)を洗い出し、公に入手できる情報を収集し、それらを調査、分析しました。個々の会社における要因の分析結果から、典型的な10社の事例を選び、外部専門家による理論「不正のトライアングル」を用いて分析しました。 
 
「不正のトライアングル」とは、以下の三つの軸です。 
 
1.機会(不正行為の実行を可能ないし容易にする客観的環境)  
2.動機・圧力(不正行為を実行することを欲する主観的事情)  
3.正当化(不正行為の実行を積極的に是認しようとする主観的事情)  
 
「品質データ改ざん」という一つの事例を用いて、この3つの軸を説明すると、 
・その会社には売り上げを伸ばさなくてはならない状況が常にありました。 
 これが3.正当化の理由にあたります。 
・経営者は非常に厳しい売上げ目標(必達目標)を設定し組織内に指示していました。 
 これが2.動機・圧力です。 
・実行部門では出荷最優先で対応するため、顧客スペック外れ、検査データのねつ造・改ざんができる環境がそろっていました。これが1.機会です。 
 
発表した内容の詳細は省略しますが、不祥事の発生した会社からは、調査した資料等から以下のような傾向が浮かび上がってきました。 
 
・現場の声が経営者に届いてない 
・部門間及び階層間のコミュニケーションが乏しい 
・ヒエラルキー指向の強い会社 →現場作業者の意見、部下の意見が通らない 
・親会社から子会社へのプレッシャー →無理な目標が与えられる(利益目標、コスト削減目標など) 
・良いニュースしか報告しない →悪いニュースは立場が悪くなるので報告しない 
・トップが過大な目標を与える →目標が達成できないので虚実の数値をでっちあげる 
・トップの目標が“売上げアップ”など利益面の目標に偏っている 
・営業部門が、品質部門及び製造部門に対して大きな力を持っていて、無理な計画を強いる 
・本社と、生産現場(工場)の交流が乏しい 
・品質部門などの直接生産資源となっていない経験豊富な高年齢の社員を軽視する(リストラ) 
 
これらには、企業風土という側面も大いに関係していると思われました。それは不祥事を起こした会社や子会社のいくつかは、たまたま不祥事を起こしたのではなく、以前からしばしば問題を起こしていたからです。また不祥事の暴露は内部告発が少なくないという実態も分かりました。 
 
トップが指示した目標が、「利益・売上げ最優先」に偏って設定され、「品質ガバナンス」に係る目標が含まれていないような会社に、不祥事が起こりやすいことは容易に想像できました。 
 
次回は、TQMとの関連という観点で、より具体的な内容をお話したいと思います。 
 
 
(長谷川 武英)

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