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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第37回『うちの経営方針は顧客価値創造だよ。品質管理とは別の手段を考えないと 』(その2)  (2020-1-20)

2020.01.21

 
高度経済成長の時代に起業した多くの中小企業では、2代目、3代目の経営者が、前回で説明したような顧客価値の移り変わりの現実に直面しました。“親父の時代は、作れば売れる時代だったけど、俺の時代はがらりと変わってしまった”ことを痛感したのです。この変化に対応できた企業は、その後も生き残り、勝ち組となり、対応できなかった企業は縮小し、極端な例では廃業に至っています。 
そんな中で、顧客価値の創造をして成功をした事例をひとつ紹介しましょう。 
 
■W社の顧客価値創造 
 
住宅機器、電気製品などの部品となる板金製品を作る、ある中小企業W社(従業員約80名)は、これまで大手・中堅企業の下請け工場として、事業を営んできました。その会社を承継した2代目社長は、時代の変化と共に下請け企業の限界に気づき、自社オリジナルの特注対応のキッチン・レンジフードを創り出して、下請け企業から脱却することを方針として打ち出しました。(まともに大手メーカーとまともに戦っても勝てないので“特注対応”と特化した)
自社の特注対応オリジナル製品を作ると言うことは、顧客価値という視点から見ると、これまでの“不良のない製品を提供する”だけではなく、エンドユーザーに対する“安全であることの安心感”や、“においや煙を素早く消してくれる満足感”や、“デザインが使用者の感覚にマッチする満足感”などの顧客価値を意識して提供しなければなりません。まさに、W社にとっての顧客価値創造だったのです。 
幸いにして、強力な協力者も得られ、見事にこの製品の発売に成功し、この事業が軌道に乗りました。 
 
■事業の「成功」と現代の品質管理 
 
しかし、W社の社長は、安心できませんでした。お客様は、このまま買い続けてくれるのだろうか?この変化の急な世の中、来年も大丈夫だろうか?下請け企業の不安定さからは脱出はできたものの、特注対応の自社製品を持った企業の心配がまた新たに押し寄せてきます。 
そもそも、事業の「成功」とはなんでしょうか?一発当てて大儲けをするのでは無いことは確かでしょう。それは、“顧客価値を提供し続けることによって、顧客から注文をもらい続けて、適正な利益を得られる”ことではないでしょうか。 
そうすると、現代の品質管理とは前回説明をした“顧客価値提供マネジメント”と改めて認識もされるのです。W社の心配は、提供することに成功した新たな顧客価値を、これからも持続するためのマネジメントが確立してはじめて解消するのです。そんなW社のその後を、前回の説明に沿って話を続けましょう。 
 
■W社の顧客価値 
 
W社は、特注対応の自社オリジナルのキッチン・レンジフード製品を持つメーカーに変身を遂げました。変身すると同時に変わったのは当社の提供する顧客価値でした。W社の直接のお客様である住宅機器メーカーなどに提供する顧客価値を明らかにしてみると、それは次のようなものでした。 
 
① 安全や品質に対する信頼・安心感 
② 1台でも短納期で納入してくれる 
③ 使用者のきめ細かい要望に対応してくれる 
 
この顧客価値の特定にあたっては、エンドユーザーや、施工業者の求める価値も考慮する必要がありましたが、ここでは、これらの顧客価値に絞って説明を展開します。 
 
■W社の組織能力・特徴(組織能力像の明確化) 
 
それぞれの顧客価値を提供するために、W社はどんな組織能力・特徴を使っているのか、あるいは必要なのか、これを見極めると以下のようなものでした。 
 
①については、下請け時代に培った固有技術(曲面の加工技術が得意という特徴)と良い製品を作り出す品質管理ノウハウがあります。一方では、品質保証能力については、大手の住宅機器メーカーが納得するような、製品としてそのライフサイクルや、サプライチェーン全体を体系的に保証することが必要となってきました。当社がこれまでに利用していた全国の修理業者のネットワークの存在という特徴は、当社の競争力に強い味方になります。それでも、顧客の指定する仕様通りに作っていればよかった元下請け企業が信頼されるためには、かなりの努力が必要なことです。 
 
②については、製造工程における小ロットでも混乱がなく生産できる能力が必要です。これに対応できる“ものの流れ”と“情報の流れ”の能力が必要です。幸いにして、というか、これがあるから踏み切れたのは、当社は数年前に生産ラインを、ベルトコンベア方式からセル方式に切り替えてあったので、この特徴を使えます。 
 
③については、今まで下請けメーカーではさほど必要の無かった、エンドユーザーの要求事項を把握する能力が必要です。また、得られた情報を設計に反映する能力も必要であるし、改善をしていくスピードも今まで以上に必要となります。 
 
このように、W社は新たな価値創造に伴って、当然ながら、新たに必要な能力や、強化しなければならない能力もでてきたのです。これを支えるシステムがなければ、W社の社長は永久に安心できません。 
 
■W社のシステム化 
 
①については、当社の固有技術や品質管理ノウハウが失われないためのしくみです。これはまさに“従来の品質管理”の対象でしょう。ただし当社の場合は、特に小ロットの製品を、同じ品質で、遅くならずに製造し、品質管理するシステムです。これをできるだけ可視化して共有化できるようにすることと、可視化不可能なものは、これを伝授する「場」を確実に持つような取り組みを進めました。 
 
②については、セル生産方式を維持しながら、この効果を最大に発揮できるために、工場内の進捗の状況がリアルに共有化できるように情報システムをバージョンアップしました。また従来のコンベア方式からセル方式に変わったことで、要員の力量のニーズががらりと変わり、多能工を計画的に養成するしくみを作り、これを推進しました。 
 
③については、全国をカバーしている修理ネットのパートナーとの連携を再構築して、顧客や建築現場の生の声が設計にはいるシステムを強化しました。また、改善のやり方も、改善テーマの重要度に応じてこれを棲み分け、時間の掛かるものはリストアップしてしっかりと再発防止が出来るようにもしました。 
 
W社の社長の心配は、このように、顧客が当社の製品を買ってくれる理由、すなわち顧客価値を提供する能力が継続して発揮できるようにシステム化されてはじめて和らいでくるのです。 
 
■変化への対応 
 
さて、これまでの事例は自ら起こした「変化」への対応とも言えるでしょう。しかし今の時代、そして今の世の中、このような変化は向こうからいくらでもやって来ます。その時に、素早く、的確に対応できるためには、このマネジメントが必要なのです。 
すなわち、自社の提供する顧客価値と、この源泉となる組織能力・特徴とこれを支える事業構造が分かっていると、起きた変化に敏感になり、それがどこに影響するのかがわかるからなのです。この全体像を認識することができたW社は、これからは、外部及び内部で起きた変化に対して、すばやく、的確に対応できる能力を持ち、他社よりも一歩優位に立ったのです。 
 
今回は、今回の誤解を判りやすく説明するために、「変化」に対応して「顧客価値を創造」し、この価値提供に必要な“自組織がもつべき能力を認識し、そして持つべき能力を具現化するため自己を革新”(前回の「変化」の引用)して、新事業を展開した事例を紹介しました。 
しかしながら、ここで説明したかったのは、変化への対応には必ず顧客価値を創造しなければいけないとか、顧客価値創造には必ず新事業展開や新製品開発がつきものであるということではないのです。基本は、いま成功している時の、あるいは成功するための顧客価値と、これを支える組織能力・特徴と、これを生み出している事業構造(「成功のシナリオ」と呼んでも良いが)を明確にし、これが持続するように経営することが肝心だということなのです。むしろ、顧客価値提供マネジメントにおいて、自社の顧客価値を“再発見”してこれを軸にして革新をしていく活動も、広くこの範疇と捉えて取り組んでほしいと考えています。 
 
 
(丸山 昇)

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