超ISO企業研究会

最新情報

  • HOME >
  • 新着 >
  • TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第36回『うちの経営方針は顧客価値創造だよ。品質管理とは別の手段を考えないと 』(その1)  (2020-1-14)

新着

TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第36回『うちの経営方針は顧客価値創造だよ。品質管理とは別の手段を考えないと 』(その1)  (2020-1-14)

2020.01.14

 
■顧客価値創造とは 
 
最近“顧客価値創造”という言葉をよく耳にするようになったようです。文字通りに解釈すると、“顧客価値を創り出す”ということですが、「顧客価値」のことは、前々回の当メルマガでもこう説明しています。 
 
「顧客価値とは,提供された製品・サービスを消費,使用する際にお客様が感じる効用,メリット,有効性のこと」 
 
どんな企業でも必ずこの顧客価値を提供して事業が成立していると言えましょう。高度経済成長の時代は、消費者は“今まで手にしていなかった新たな機能や効用”を持った良質廉価な工業製品を求め、そしてメーカーはこれに応えるために、“不良やバラツキのない品質と合理的なコスト”という顧客価値を提供すれば、事業は成功する時代でした。 
ところがモノがあふれた成熟経済社会になると、ニーズの多様化、高度化、複雑化が起きて、かつての顧客価値は通用せず、顧客層や個客に合わせた価値を創り出していかなければ、成功しにくい時代となったのです。だから、“うちの経営方針は顧客価値創造だよ”は大変に良い方針とも言えるでしょう。 
 
■品質と顧客価値 
 
それでは、もうひとつの言葉である「品質」とはなにかを考えてみましょう。企業は、顧客に製品やサービスを提供して、その対価を得て成り立っています。 
ここでは、製品やサービスとは、顧客ニーズを満たす手段であり、その結果として、どの程度満たされたのかが「品質」と定義されます。これは、言い換えると“品質とは、製品やサービスを通じて提供する価値に対する顧客の評価”、すなわち“顧客価値”そのものということです。 
 
さて、ここまでお読みになると、もう“うちの経営方針は顧客価値創造だよ”という言葉と、“品質管理とは別の手段を考えないと”という言葉の矛盾にお気づきでしょう。 
品質管理は、かつての“不良やバラツキのない品質を提供するためのマネジメント”から、現代は、“顧客価値を提供するためのマネジメント”という品質管理になっているのです。ましてや、新たに作り出した顧客価値には、それ相応のマネジメントが付いてこなければ、砂上の楼閣となってしまいます。顧客価値創造の方針だからこそ、品質管理をしっかりとやらなければいけないということです。 
 
■顧客価値提供マネジメント 
 
では、その現代の品質管理、すなわち“顧客価値を提供するためのマネジメント”とはどんなものでしょうか?それは、次の要件を備える必要があるのです。 
 
①顧客価値を明らかにする 
 
顧客は、提供する製品やサービスを通じて、いったいどんな価値を認めて製品やサービスを購入してくれているのだろうか?これが判ることが、これから先も買い続けてもらうための出発点です。マネジメントの対象とするこの顧客価値を知らずに、あるいは誤って認識して出発することの危険さは説明の必要の無いことでしょう。 
顧客価値を明らかにするには、次のような自問をするとよいでしょう。顧客に聞いてみるのもひとつの方法かも知れません。 
 
Q1.競合組織ではなく、自社の製品を顧客が選んでくれる理由は何か? 
Q2.顧客から自社に注文が続けてきている理由は何か? 
Q3.顧客とのビジネスを(すべて)失う可能性がある,避けるべき失敗とは? 
 
②価値提供における事業環境、事業構造を明らかにする 
 
自社が顧客価値を提供するためには、自社と顧客の関係だけでは決して無く、これを取り巻く次のような様々な事業者との関係の中で実現しています。 
まずは、同等の価値や代替の価値を提供する「競合」があります。自社の製品やサービスに組み込まれる有形又は無形の価値を提供する「供給者」や、価値提供に関連する協力者・支援者である「パートナー」の存在もあります。さらには、ディーラー、販売店、商社などの「商流」、そして製品やサービスの移動手段の提供者である「物流」があり、自治体や社会制度などの「環境・基盤」もあります。 
これらの関係性を少なくとも現状維持か、現状以上のものとすることが必要です。そのためには、現状の事業環境や事業構造を明らかにしておくことが必要なのです。 
 
③顧客価値提供のために使える組織の能力・特徴を明らかにする(組織能力像の明確化) 
 
「能力」とは、広くは価値提供を具現化できる力という意味です。しかし、ここで関心があるのは、競争環境において優位に立つために必要な能力、すなわち「競争優位要因」です。 
そして、その競争優位要因に強く影響するのが「特徴」なのです。例えば、事業所の立地は特徴の一つでしょうが、ビジネスの形態によってはそれを競争優位要因にできます。この自社の持つ特徴をうまく使った能力は、他社に模倣がされにくいために、より強固な競争優位要因となり得るのです。 
提供している顧客価値と、これを具現化する能力と、この能力を競争優位にすることのできる特徴の関係の全体、すなわち組織能力像を明確にすることが重要なのです。 
 
④組織能力像を品質マネジメントシステムに実装する 
 
顧客価値を提供する源泉となる能力は、いつでも、どこでも、だれでも発揮できるようにすることが「システム化」です。「能力」というような実体の把握しにくいものにしておかないで、その能力を日常的に発揮できるように業務システムに埋め込むことが重要です。「思いを形に」と言ってもよいでしょう。 
マネジメントシステムを構成するどのプロセス、リソースのどの側面が、持つべき能力を具現化するものであるか分析をして、それらのプロセス、リソースに反映できるようにマネジメントシステムを設計し、体系的に運用できるようにしたいものです。 
 
⑤事業環境の変化に応じて、適時適切に対応する 
 
「変化」において重要なことは、成熟経済社会の特徴が量的変化は小さいが質的変化が大きく速いことに対応して、事業環境の変化に応じて自組織を革新し、また自組織を取り巻く状況を自組織にとって住みやすい環境に誘導していくことです。そのためには、事業環境の変化の様相とその意味を理解し、自組織の特徴を考慮しつつ、変化した事業環境において自組織がもつべき能力を認識し、そして持つべき能力を具現化するため自己を革新することが必要です。 
「変化」に敏感になるためには、その変化の影響する対象をいかにすばやく的確に探せるかと言うことでしょう。顧客価値提供マネジメントをすると、顧客価値、能力、特徴と、これを発揮するための事業構造が具体的にされているために、このことが可能となってくることが最大のメリットでもあるのです。 
 
次回は、今回説明した、“顧客価値創造”と“顧客価値提供マネジメント”を経験した企業の事例を挙げて話を進めましょう。 
 
 
(丸山 昇)

一覧に戻る