TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第34回『品質(Q)? 今の時代では「価格」こそが競争優位要因なんだよ. 』(その1) (2019-12-23)
2019.12.23
「20世紀後半は品質の時代、21世紀は脱品質、超品質の時代」というような見解が1990年代半ば以降から囁かれ、また指摘されてきました。この指摘における「品質」とは、おもに有形のモノの技術的な特性の素晴らしさを言っており、明らかに狭い意味の品質です。
この狭い意味での品質だけに固執している限り、それは現代の成熟経済社会において顧客が求め期待するものではありえず、むしろ「価格」こそが顧客のニーズ・期待に応えるものであり、したがって競争力の源泉となるとの指摘につながってきます。そうであるなら、「品質」の意味を拡大・深化させ、真の顧客ニーズに応えるような経営をすればよいではないか、という主張も生まれてきます。
今週と来週の2週にわたり、製品・サービスを通して顧客に提供しえた「価値」に対する顧客の評価が「品質」であるとの立場で、この「誤解」について考察してみることにします。
1.製品・サービスの「価格」
まずは、この「誤解」に含まれる用語や表現の意味について検討しておきます。ここでいう「価格」とは、顧客が支払うことになる「入手コスト」を指していると思われます。もちろん、このコストは、製品・サービスの価値に見合うものでなければなりません。したがって、もし、価値が同じような製品・サービスのなかで価格が低いのであれば、そのことは競争力の源泉になるはずです。
ところで、顧客が負担することになるコストは入手価格ばかりではないことに注意しなければなりません。いわゆるライフサイクルコスト、すなわち、製品・サービスを使用・活用・適用し、それを廃棄・停止するまでに必要となるコストについても考慮する必要があります。
いわゆる耐久消費財の場合には、運用コスト、保守コスト、廃棄コストなどから構成されるこのコストが重要となり、製品・サービスによっては相当な金額となりえます。
例えば、乗用車の場合、運用コストとしては、燃料(ガソリン、軽油など)、オイルなどの消費に伴うコストがあります。また、駐車場借用や駐車場設置など駐車場確保のためのコストもあります。
保守コストとしては、一部は入手価格に含まれていて無償で保守をしますが、それ以外についての保全、修理には部品代や工賃などの費用が必要となります。保守コスト軽減のために、事故防止対策、事故被害軽減対策が考慮されていて、これが製品価格に反映されていることもあります。同様に、事故対応コスト低減のために、強制及び任意の保険費用も必要です。
乗用車の場合の廃棄コストとしては、通常は下取りによるマイナスのコストがあると考えられます。中古車価格は、ライフサイクルコストに大きな影響を与えますので、何年後にいくらで売れる車であるかは、「価格」という視点では非常に重要となります。
このように、「価格」が製品・サービスを選択する際の重要な要因であると考えるにしても、単なる入手価格を超えて、製品・サービス使用に必要なすべてのコストを考える必要があります。
乗用車の場合、運用コスト、保守コストは、車両価格よりはずっと安いですが、例えば建設機械などでは購入価格に匹敵する保修部品が必要で、鉱山機械だと2倍程度になるとのことです。
複写機、スマホなどでは、購入価格を低く抑えて、運用コストで利益を確保するようなビジネスモデルもあるくらいです。
2.「価格こそが競争優位要因」?
次にこの「誤解」に含まれる「価格こそが競争優位要因」というフレーズの意味について考えてみます。
まずは、「安いから強い」という意味でしょう。上述したように、製品・サービスについて、価格以外の様々な特徴・特性がもたらす価値が同等であって価格で勝負できるなら、確かに価格が競争優位の源泉となり、低コストで開発・生産、サービス提供できることが競争優位要因となります。
そのために、組織運営に関わる内部効率が高く、それゆえに利益を確保できるのであれば問題はありません。すなわち、競合との比較において、高い組織運営効率を維持し続けられる能力という競争優位要因を現実に保有し、それゆえに競合と同等の価格で売り出しても、より多くの利益を維持できるのであればOKということです。
ところが、「競合に比べて高い内部効率を維持できる能力」を持ち続けることはそれほど容易ではありません。容易ではありませんが、そのための方法はいくつかあります。要は、「有形無形の投入リソースとの対比において、創出され顧客に提供される価値が高い」という組織運営能力をどう維持・向上するかです。
その一つは、安価な部品・材料費、安価な人件費、安価な設備・機器類など、カギとなる投入リソースを安く、的確に確保できることです。また、ICTを活用したニーズ・要求からその実現手段への変換という技術情報の“合理的連鎖”が確保できるプロセスと知識ベースの構築・運営・改善の仕組みが確立していて、従業員の能力開発・育成の仕組みによって少ない要員で効率的な業務の遂行が可能となっていることなどです。
そうは言っても、このような優位性を、一時的には実現できても、持続的に保有することは容易ではありません。一般に、「価格」のみによる競争は経営体力を激減させ,従業員を疲弊させる愚策となりかねません。もしそれなりの高収益を持続できる根拠がないというのであれば、もちろん長くは続けられませんし、したがって投資もできませんし、製品・サービスの魅力向上もできません。
むしろ、そもそも価格競争に陥ってしまっているのは、他に魅力・取り柄がないから、あるいは他に競争優位要因を見いだせないからと考えた方がよいかもしれません。こうした文脈でよく指摘されるのが「コモディティ化」です。
そして、品質(Q)による競争優位性を高め、それによって高い価格でも売れるようにする,コモディディ化を抑え,競合よりも価格低下を抑える等の戦略こそが経営の王道ではないか、などと言われます。
ここでの「品質(Q)」は、冒頭で言及した狭い意味の品質というよりは、製品・サービスの魅力、競争力につながる特徴・特性の全体像を意味しています。現代品質論でいう「価値」と同じような意味です。
製品・サービスの価値を生み出すものはいろいろ考えられますが、少なくとも3つの側面があることには留意しておいた方がよいでしょう。第一はQ(Quality品質)で、顧客のニーズ・期待に応えることにつながる製品・サービスの特徴・特性・品質です。第二はP(Price価格)で、入手価格やライフサイクルコストです。第三は、T(Timing;タイミング)で、入手タイミングや使用中のサービスのタイミングです。要は、いつ、いくらで、何が手に入るかという3つの側面があるということです。
現代社会においては、このほかにもSDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)とか、ESG(Environment, Social and Governance:環境・社会・ガバナンス)などのS(Social;社会性)も問題にされます。
さて、ここまで述べてきましたように、製品・サービスの競争力は、基本的には品質・価格・タイミングの総合特性で考えるべきで、もし価格で勝負しようとするならば、収益構造やビジネスモデルを十分に検討して、他社より収益性が高くなる確たる根拠を持つべき、ということになります。
来週は、価格競争に陥ってしまった製品・サービス群に対して言われる「コモディティ化」について考えてみたいと思います。とくに、コモディティ化してしまったら、もう撤退するしか手はないのか、ということについて考えてみたいと思います。
(飯塚悦功)