TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第33回『「品質管理」をやっても儲からない 』(その2) (2019-12-16)
2019.12.16
今回は,前回に引き続き『「品質管理」をやっても儲からない』の第2回目となります.
■攻めの品質としての「顧客価値経営」
一般的に,品質を決めるためには,顧客と,製品・サービスを決める必要があります.すなわち,誰に何を提供しているかを明らかにし,その結果として顧客のニーズを如何に満たしているかの程度が品質となります.(なお,ここでいう品質の品は“しな”ではなく“ひん”です.言い換えれば,製品のみならず(それに付帯する)サービスの品質も当然ながら,管理対象に含まれています)
前回,守りの品質と攻めの品質を説明しました.また今は守りの品質のみに焦点が置かれており,攻めの品質の活動が弱いのではないかと疑問を呈しました.
このような問題意識やこれまでの品質に対する考え方を進化させて,攻めの品質を強調するという目的から,(ご存知の方も多くいらっしゃるかもしれませんが)「顧客価値」という概念を紹介したいと思います.
顧客価値とは,提供された製品・サービスを消費,使用する際にお客様が感じる効用,メリット,有効性のことを指します.そして,市場に多くの類似製品・サービスが存在している場合には,その顧客価値を最も提供してくれそうな会社の製品・サービスを顧客は選ぶことになります.
10年以上連続で増収増益を続けているスターバックスはこの点が競合よりも優れているおかげで,顧客に選ばれ続けています.皆さんもご存知のように,スターバックスは日本においては1,000店舗を超え,どの都道府県にも最低1店舗以上はあります.
スターバックスは顧客に何を提供しているのか?と質問されれば,コーヒーとそれに合うフードと答えそうですが,スターバックス自身はそう考えていません.
彼らが顧客に提供しようとしているのは,そのような製品・サービスを通じて
“(自宅でもない,会社でもない)ひとりでホッとできる空間(第3の場所)”
という顧客価値だそうです.コンビニエンスストアの100円のコーヒー(味も相当に改良されていますが)と比べて,わざわざコーヒー1杯が3倍の300円以上もするスターバックスにお客さんが行くのは,この「顧客価値」が理由となっています.
他にも,家電量販店の主要な一角を占めるようになった美容電化製品コーナーが提供しているのは,“自宅で毎日気楽にできるエステ”という顧客価値です.忙しいウォーキングウーマンにとっておしゃれ,お肌等のお手入れはとても大事ですが,わざわざエステ店に通う時間的余裕はありません.家電製品としては高額ですが,エステに行くことと比べれば安価であり,毎日家に帰ればすぐにできます.
家電量販店で一番安いドライヤーは2千円弱で買えますが,某メーカの美容電化製品コーナーになるドライヤーは10倍の2万円以上もしますが,とても売れています.
つまり,従来のTQM/品質管理に攻めの品質のエッセンスを組み込んだ「顧客価値経営」の導入と実践を行うことで,売り上げを向上させることができます.
■管理の対象範囲とその効用について
次に,品質管理の「管理」の対象範囲とその効用についても考えてみます.まず,管理の対象範囲については,先の①の発言では検査という業務にのみ着目した発言になっていますが,品質を確保するための管理活動は何も「検査」のみではありません.
10/29に配信されました第26回『当社はISO9001を認証取得し、検査もちゃんとやっているので、品質管理体制はきちんとしています』(その1)においても,
「顧客や社会のニーズ・期待に見合う製品・サービスを提供するためには、バリューチェーンとしての市場調査、研究開発、企画、設計、購買、製造、検査、販売、サービス提供(製品の引き渡し)など、いわゆる一連の品質機能が必要不可欠で、これらを効果的で効率よく管理すること」
「検査は良質な製品実現に必要なバリューチェーンの品質機能の「1要素」でしかないということです。したがって、品質管理体制とはバリューチェーン全体を通した活動を行うことがその役割であることが分かります。」
と解説があります.
また,「管理」の効用としましては,これも既に7/23に配信されました『こんな忙しいときに,管理とか標準化なんて悠長なことを考えている暇はありませんよ.目の前の仕事・案件を早く片付けるのが優先でしょう?』の第2回目にも載せておりますが,管理の意義,効用としては,
a)目的達成
b)効率性
c)継続性
の3つがあると述べています.
a)はその字のごとく,業務の目的を達成するための管理があるということです.b)とは,目的達成のために時間も経営リソース(人,モノ,カネ)も好きなだけ投入してもよいというのではなく,なるべく少ない時間と経営資源で目的を達成すべきであるということです.そしてc)は,上記a)目的達成とb)効率性をある1回のみ実現するではなく,継続的に達成することを意味します.効率性を含めた目的達成を継続的に実現するための手段が管理であるという考えです.
つまり,管理とはバリューチェーン上のあらゆる品質機能を対象として,その目的を効率的に達成するとともに,それを1回に限らず継続的に達成する,ということです.
■品質管理と利益の関係について
最後に,これまでの総まとめとして,本テーマは品質管理で儲かるかというお題目のですので,品質管理と利益の関係について解説したいと思います.
皆さんもご存じのとおり,利益の計算式は
利益=売り上げ-原価
です.品質の良い製品・サービスだけを提供できれば,無駄がなく“原価”を抑えることができます.つまり,安上がりにできるということです.これは既に解説した「品質ロス・コスト」,「守りの品質」に通じた考え方ですね.
一方で,品質の良い製品・サービスというのは,顧客のニーズを満たしているのですから,顧客からの反応が良く,よく売れていきます.
それだけではありません.他社に比べて“高値で”売れるのです.これが「攻めの品質」,「顧客価値経営」です.スターバックスや美容家電製品のいずれの例でも,これまで顧客自身でさえも気が付かなかったようなニーズを満たす製品(=品質の良い製品)を市場に送り出すことによって,市場価格よりずっと高値で売ることができます.これは,“売り上げ”に大きく貢献します.
また,品質管理の“管理”の対象と効用は「バリューチェーン上のあらゆる品質機能を対象として,その目的を効率的に達成するとともに,それを1回に限らず継続的に達成すること」でした.検査のみではなく企業内のあらゆる活動・業務に渡って“効率化”されるわけですから,この意味で“原価”は大きく削減されます.また,品質の良い製品・サービスを“継続的”に作り出す仕組みを構築するのですから,売り上げ増にもつながります.
以上のことをまとめますと,品質管理(品質+管理)を実践することによって売り上げが増加し,原価が低減しますので,その結果利益は増大します.言い換えれば,品質管理は利益を生み出す原動力であり,表題の『「品質管理」をやっても儲からない』は大きな誤解であると言わざるを得ません.
(金子雅明)