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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第32回『「品質管理」をやっても儲からない 』(その1)  (2019-12-10)

2019.12.10

 
今回から,経営とTQM/品質管理の関係についての誤解テーマを4つほど取り上げて解説いたします.そのひとつめの誤解テーマは『「品質管理」をやっても儲からない』です. 
 
 
■「品質管理」をやっても儲からない,の背景
 
最近,研究の一環でよく中小・中堅企業と関わることがありますが,品質管理は手間もお金も大変かかる活動であると認識されているように感じます.また,品質管理/TQMに取り組んでいる有名な大企業の品質担当役員の方であっても,品質管理をやるとコストアップになるという発言を,つい先日もとあるシンポジウムで聞いてしまいました. 
 
「どうしてそのように思われるんですか?」と質問してみました.そうすると,いろんなことを言っていましたが,まとめると以下のような回答でした. 
 
①品質管理では,製品品質を確実に保証するために検査(受入,工程内,出荷等)を相当にやらなければならない.そのための人員投入や教育にも時間や費用も必要となる.だから,品質を上げようと思ったらコストがかかってしまい,儲からなくなる. 
 
②品質保証部門の主な仕事は,市場不良を如何にゼロにするかであるから,損失を減らすことはできても,売上を上げることは困難であるから. 
 
だから,「品質管理」をやっても儲からないのだそうです.果たして本当にそうでしょうか? 
 
 
■かかる費用(コスト)にもいろいろある!・・・品質ロス・コストという考え方
 
上記①と②の背景にあるのは,高品質な商品・サービスを顧客に提供し続けるためにはそのための費用(コスト)が必要になる,という考え方です.この考え方自体は間違えではありません.ただし,費用(コスト)と言っても様々な段階のものがあり,それらを体系的に整理した「品質ロス・コスト」という概念がありますので,まずはこの概念について説明したいと思います. 
 
「品質ロス・コスト」は次の(1)と(2)のコストに大分類されます. 
 
(1)商品・サービスの品質を維持するための管理にかかるコスト (Cost of Quality) 
 
(2)失敗の発生に伴って企業が被ることになるコスト,損失(Cost of Poor Quality) 
 
(1)はさらに,a) 予防コスト(Preventive Cost)とb) 評価コスト(Appraisal Cost)に分けられます.(2)は失敗コスト(Failure Cost)と言われるもので,組織の内外での発生に着目して,c) 内部失敗コスト(Internal Failure Cost)と,d) 外部失敗コスト(External Failure Cost)に分かれています. 
 
a) の予防コストの代表例には,製品設計の妥当性を評価するためのデザイン・レビュー費,部材を納品してくれるサプライヤーへの品質技術指導費,品質に関わる教育・訓練費などがあります. 
 
b) の評価コストとは,狙いの品質になっているかどうかを検査・確認するためにかかる費用であり,受入れ検査費,工程内の中間検査費,完成品検査費,または設計時に行う各種信頼性試験などの費用が含まれます.先程言っていた①はここに相当しますね. 
 
一方で,c) の内部失敗コストとしては,まずは(中間)製品の修繕,手直し費,廃棄費や設計変更費が挙がるでしょう.さらに,不良や設備トラブルの発生に伴って起こる生産性低下,過剰な在庫費も該当しますし,トラブル対応のために優秀な人材が使われ,本来業務の遅れや質低下につながることが多々あります. 
 
d) の外部失敗コストの代表例は,市場クレーム対応費であり,この中には代替品交換費,補償費,製品回収費,損害賠償費がありますね.さらに,これらの市場クレームの発生による風評被害,企業のブランド価値低下に伴う,売り上げ機会損失なども無視できません.特にクレーム・苦情に関しては,重大クレーム以外はわざわざ顧客がクレーム・苦情を言うわけではありませんので,クレーム・苦情がないのに売上減という状況が発生し得ます.なお,②の発言はこのd)のことなかでも「市場クレーム対応費」のみを指していると思われます. 
 
ここで注意したいことは,目に見えるコストと目に見えないコストがあるという点です.例えば,b)の検査/評価試験等の費用とd)の「市場クレーム対応費」は比較的にその費用額を算出が容易で目に見えやすいですが,c)の全般とd)の風評被害,売上機会損出,クレーム・苦情がないのに売上減になるなどのほうは費用算出が難しく目に見えません. 
 
さらに嫌なことに,この評価が難しい目に見えない費用のほうが,見えている部分の数倍以上の額になっているとの推測もあります.これにより,時には我々は品質に掛けるべき費用(コスト)の妥当性について,誤った判断をしがちです. 
  
例えば,上記①で言われた検査費用,教育費用が高く付くという発言は,a)の品質教育費用やb)の検査費用のみを見れば一見して増加となりますが,それがちゃんとなされれば,購入部品の不良や中間製造工程での不良品の早期発見につながりますので,c)の内部失敗コストを大きく削減可能ですし,d)の外部失敗コスト全般に渡って低減効果を期待できます. 
 
言いかえれば,a)とb)の費用は多少増加しますが,c)とd)にかかる額と比べればその桁数は非常に小さいので,a)~d)までの総合計費用を大きく改善(低減)することになります. 
 
つまり,①の発言はa)の一部やb)の費用しか見ておらず,実際にはa)~d)の総合計費用で見れば品質を上げたら増加するのではなく,むしろ低減する,ということになるのです. 
 
 
■品質とコストはトレードオフ関係か?
 
この話に関連して, 
 
“Q(品質)を上げれば,それに比例してC(コスト)も上がる” 
 
ということもよく言われますが,これも誤解であることもわかります.繰り返しになりますが,上の話で言えばQ(品質)を上げることで外部や内部の失敗コストを大幅に低減し,その結果としてその製品の品質を維持するためにかける必要のある総費用を低減できます.つまり, 
 
“Q(品質)を上げれば,C(コスト)は劇的に下がる” 
 
というのが正しい理解です.確かにQ(品質)を維持するための最低限のコストは必要ですが,決してC(コスト)とはトレードオフ関係ではなく,両方を同時に達成することが可能だということも認識しておいてほしいことです. 
 
 
■守りの品質と攻めの品質
 
このような品質ロス・コストの総費用を極力抑える品質管理活動のことを,“守りの品質”と表現することがあります. 
 
企業の品質保証,品質管理の部門に所属している方は,この“守りの品質”にフォーカスを当てた活動をなさっていることが多いように見受けられます. 
 
d)の外部失敗コストを最優先で削除しながら,次第にc)の内部失敗コストの低減に向けた活動を推進し,最終的にはb)の評価コストさえも低減対象として広げて,品質コストの総費用の多くをa)の予防コストにかける,という理想の状況を目指しているのかもしれません.この意味では,a)~d)はいずれもコストという表現になっていますが,a)予防コストとb)評価コストは,品質を作り出すための“投資”であると考えるべきでしょう. 
 
いずれにしましても,“守りの品質”に関する活動は「利益=売り上げ-原価」の原価を低減し,利益を押し上げる手段として,大変意義のある活動です.  
 
一方で,“攻めの品質”はどうでしょうか?上の利益の計算式で言えば,売り上げを増加させるための活動です. 
 
この質問は,②の発言の後半である“売上を上げることは困難であるから”に対して疑問をなぎかけることでもあります. 
 
企業のホームぺージの中に“守りの品質から攻めの品質へ”という言葉をよく目にしますが,この後半の言葉に対して,品質保証,品質管理の部門の方でどのぐらいそれは自分が中心となって積極的に果たすべき役割だと認識されているか,大いに疑問です. 
 
良い品質とは,顧客のニーズを満たしていることを指しています.顧客に快く受け入れられ,市場で良く売れるもの,です.品質保証,品質管理部門が品質を追求することの社内の旗振り役であるならば,守りの品質に留まらず,攻めの品質に力点を置くことも期待されているのではないでしょうか. 
 
 
(金子雅明)

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