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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第29回『TQMは方針管理とQCサークル、QAをやれば良いのでしょうか?』(その2)  (2019-11-18)

2019.11.18

 
前回(第29回)は、TQM(総合的品質管理)との関連で、「日常管理」の説明をしましたので、今回は「方針管理」の説明をしましょう。 
 
5.「方針管理」とは? 
 
「方針管理」とは、経営環境の変化への対応、経営ビジョン達成のために、日常管理の仕組みだけで実施することが難しいような全社的な重要課題を、組織を挙げて確実に達成していくための経営管理の方法論です。 
経営環境、すなわち市場・顧客、技術動向、競合状況、そして自社の能力にそれほどの変化がなければ、適切に定められた組織の目的を合理的に達成するために、適切な構造(部門構成)の組織を作り、組織の目的を各部門の目的・目標に適切に展開して、適切に構築された日常管理の仕組みを運営し、さらに部門横断管理としての経営要素管理(機能別管理)を適切に運営すれば、これでうまく乗り切っていけるはずです。 
方針管理は、この2つのタテ・ヨコの日常的な管理体制では不十分な、全組織が一丸となって取り組むような“変化への対応”に焦点をあてた運営管理です。日常的な静的な管理は基本としてもちろん重要ですが、同時に、経営環境の変化に応じた、全組織一丸となった動的な管理もまた重要です。 
このために、組織は、少数の重要経営課題を設定し、これらの課題を達成するために、全組織を挙げた体系的な管理システムを構築することが必要です。 
 
「方針管理」は、組織一丸の管理の方法論を模索するうち帰納的に整理されてきた(品質)経営・管理の方法論であり、以下の1)~5)の5項目を順次進めると整理できるでしょう。 
 
→1)方針策定:重点を絞った合理的かつ明確な全組織的方針の設定 
→2)方針展開:各部門・各階層への十分な伝達・理解(理解、周知) 
→3)方策展開:方針達成のための具体的方策の立案(目的から手段への展開) 
→4)進捗管理:実施過程における進捗チェックとフォロー(プロセス管理) 
→5)原因分析:年度末などにおける未達原因の深い解析(教訓、フィードバック) 
 
上記5)から、上記1)へのフィードバックを繰り返すことになります。 
 
6.筆者(松本)の品質保証部門の責任者としての実感 
 
前回(第28回)筆者(松本)は、生産技術部門及び品質保証部門のスタッフとして、 
「TQM=①方針管理+②QCサークル活動+③QA体制」と考えていたと書きました。 
ところが、その後、品質保証部門の責任者となった時に、その考え方は不十分(誤解)であると感じ、やはり「日常管理」の重要性を認識しました。筆者が責任者(課長)を務めた工場の品質保証部門(総員30数名)は、以下の2種類の業務を担当していました。 
 
・ライン業務:製造部門の自主検査状況のチェック、化学成分の分析、製品サンプルの強度試験、及び非破壊検査機器の管理 
・スタッフ業務:製品仕様の決定、試験検査規格の決定、ミルシートの発行、及び顧客クレーム処理 
 
その時の、品質保証部門の方針管理と日常管理の管理項目(重点課題)を、思い出してみると以下のようなものでした。 
 
<方針管理> 
以下の①~②の2項目で、製造部門、生産技術部門等と協力し、目標値と方策がスケジュール化されたアクションプランを作って推進し、毎月のフォロー結果で、方策等の修正をしました。 
 
①社外クレーム件数の削減—目標値:前年比30%減 
②○○向け△製品の品質保証体制の確立—目標値:○○社の製品認定取得 
            
<日常管理> 
以下の「QCDPSME」の7項目であり、部門内の手順書や会合で推進しました。 
 
①Q:検査、試験ミスの撲滅—達成手段:検査・試験要領書 
②C:検査・試験設備費の節約—達成手段:始業時点検、定期点検 
③D:検査・試験遅れの撲滅—達成手段:検査・試験要領書、出荷明細表の毎時チェック 
④P:検査・試験工数の予算達成—達成手段:朝礼時の予定確認 
⑤S:安全無災害の達成—達成手段:KYT他 
⑥M:改善提案件数の確保—達成手段:グループミーティング 
⑦E:廃却分析液の削減—達成手段:分析、試験時の注意 
 
品質保証部門の責任者として、方針管理も日常管理も、両方やらなければなりませんが、そのアプローチの仕方は、上記のように区別して行いました。そして、方針管理項目の①社外クレームの削減と②新製品の品質保証体制を確立するためにも、足元の日常管理項目の確実な推進が求められました。 
 
7.小集団活動(QCサークル活動)とTQM 
 
小集団活動(QCサークル活動)は、TQMの3つのキーワード(①顧客指向、②継続的改善、③全員参加)を実現する優れた仕組みであるので、TQMの構成要素として考えることができると思います。ただ、TQMに小集団活動(QCサークル活動)が必須(必要条件)かどうかは、議論が分かれるところだと思います。筆者は、工場の製造部門のスタッフであったころから、全社の品質管理推進部門にいた時まで、一貫して小集団活動(QCサークル活動)とは縁が深かった(支援活動が長かった)ので、TQMを効果的にやるには、小集団活動(QCサークル活動)が望ましいと考えています。この点については、別の機会に書かせていただきたいと考えています。 
 
なお、「小集団活動(小集団改善活動)」については、日本品質管理学会の「方針管理の指針」(JSQC-Std 33-001:2016 )には、以下のように定義されており、「方針管理」と「日常管理」との関係性が明示されています。 
 
―方針管理・日常管理を通じて明らかとなった様々な課題・問題について、コミニュケーションがはかりやすい少人数によるチームを編成した上で、特定の課題・問題について 
スピードのある取り組みを行い、その中で各人の能力向上と自己実現、信頼関係の醸成を図るための活動。部門横断チーム、部門ごとのプロジェクト活動、第一線の従業員によるQCサークル活動などが含まれる。 
 
8.まとめ 
今回を含めて、2回にわたって書いてきたことのまとめは、以下のとおりです。 
 
1)TQM(総合的品質管理)は、「品質を中核とした、全員参加による改善を重視する経営管理の一つのアプローチ」と表現できる。 
2)TQMの構成要素は、①基本的な考え方、②コアとなる管理システム(方針管理、日常管理、品質保証システムなど)③手法、④運用技術(QCサークル活動など) 
3)日常管理とは、それぞれの部門の分掌業務を確実に実施し、PDCAを回すこと。 
4)方針管理とは、経営環境の変化への対応、経営ビジョン達成のために、日常管理の仕組みだけで実施することが難しいような全社的な重要課題を、組織を挙げて確実に達成していくための経営管理の方法論。 
5) 方針管理をやりたいのであれば、その前に足元の日常管理を整備することが必須。 
6)方針管理はTQMの代表的な活動の一つではあるが、イコールTQMではない。 
7)方針管理・日常管理で明らかとなった課題・問題に、小集団活動(QCサークル活動)によるチームとして、取り組むことができる。 
 
要は、「TQMは、方針管理とQCサークルをやるだけでは十分でなく、足元を固める日常管理が欠かせない」という結論です。 
 
【引用文献】 
・飯塚悦功(2009):「現代品質管理総論」朝倉書店 
・日本品質管理学会「方針管理の指針」(JSQC-Std 33-001:2016 ) 
 
 
(松本 隆)

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