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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第27回『当社はISO9001を認証取得し、検査もちゃんとやっているので、品質管理体制はきちんとしています』(その2)  (2019-11-05)

2019.11.05

 
1.競争力ある製品提供を可能とする品質管理体制の構築 
 
組織は、顧客が満足する品質を持った製品・サービスを提供することで、その顧客の価値を高めることができ、このことで将来提供する製品・サービスのリピーター客となる可能性が高くなります。一方、顧客に提供する製品・サービスの品質が悪い場合には、顧客の苦情・クレームが発生し、この苦情・クレームを提起した顧客は、将来当該組織が提供する製品・サービスを購入しなくなる可能性が高くなります。このような状態になると、顧客を逃がしてしまうことになり、その結果として組織の売上高に影響し、最終的には組織としての持続的成功を果たすことができなくなることにつながります。 
このような事態を招かないためには、組織内のすべての部署で、かつすべての要員が製品・サービスの品質に関する仕事すなわちプロセスを確立し、維持し、改善する活動に参画する必要があります。この品質管理に関する活動を継続的に行うことで、顧客価値を創造することにつながり、その向上を図ることが可能となる。 
 
2.広義の品質管理の定義 
 
品質とは、製品・サービス、プロセス、システム、経営、組織風土など、関心の対象となるものが明示された、暗黙の又は潜在しているニーズ(顧客と社会)を満たす程度のことです。 
管理とは、経営目的に沿って、人、物、金、情報など様々な資源を最適に計画し、運用し、継続的にかつ効率よく目的を達成するための全ての活動であり、維持向上、改善及び革新を含んだことです。 
これらのことを考慮すると、品質管理とは、顧客・社会のニーズに応えるために、製品・サービスの品質を効果的かつ効率的に達成する活動のことを意味しています。 
 
3.ISO 9001のQMSモデルからTQMへのすすめ 
 
ISO 9001の限界を克服するためは、次の3つについて考える必要があります。 
 
① 総合的な品質マネジメント:品質保証・適合性評価から競争力のある自律的な組織への展開 
ISO 9001は適合性評価制度であり、QMS要求事項としては第三者が検証できる事項や適合性を客観的に判断できるものに限定されているので、QMSに関する要素は限定的なものになっています。このため、組織は競争力のために自らが自律的に組織のあるべき姿を描いて、その目標に向かって邁進できる体制にしなければなりません。 
 
② 計画・設計の質のレベルアップ:計画通りの実施から計画内容の充実への展開 
ISO 9001は、計画よりは実施に、計画・設計よりは製造・検査に関心事があるQMSモデルですが、技術がある程度成熟した製品・サービス分野であれば十分役立ちます。このため、製品・サービスを設計、製造・サービス提供、検査するという状況では役立ちます。しかし、商品企画や設計・技術が競争優位になる得る分野では、ISO9001のQMSモデルでは、ビジネスにおける成功の主要因にはならないので、計画内容、技術的内容をレベルアップするためのQMS要素を組み込むことが必要不可欠になります。 
 
③ 技術のレベルアップ:マネジメントシステムの審査から固有技術そのものの向上への展開 
ISO 9001はマネジメントシステムのモデルであるので、技術については取り込まれていません。しかし、製品・サービスを提供するには、それを具現化する技術が不可欠です。このためには、顧客及びその他の利害関係者のニーズ・期待を満たすための固有の技術を向上させる仕組みを充実させる必要があります。 
 
4.TQMの目的とフレームワーク、TQMの構成要素(フィロソフィー+コアマネジメントシステム+ツール・手法+運動論)、TQMの行動原理 
 
(1) TQMの目的とフレームワーク 
TQMとは、「顧客の満足する品質を備えた品物やサービスを適時に適切な価格で提供できるように、全組織を効果的・効率的に運営し、組織目的の達成に貢献する体系的活動。」です。 
したがって、TQMの目的は、①組織がその使命を果たし、競争優位を維持して持続的成功を実現するために、組織の提供する製品・サービスの価値が顧客及びその他の利害関係者に満足を与えることによって、組織の存在意義を高める、②組織は、効果的かつ効率的に組織の総合的なパフォーマンスを継続的に改善し、顧客及びその他の利害関係者のニーズ及び期待に応えて、高い顧客価値を創造していくことです。 
TQMのフレームワークは、TQMの原則、活動要素、手法から構成されています。原則には品質マネジメントの原則として、次に示すものがあります。この原則に基づいたQMSを構築することが重要です。 
 
a) 顧客価値創造(customer value creation) 
b) 社会的価値重視(social value focus) 
c) ビジョナリーリーダシップ(visionary leadership) 
d) コアコンピタンスの認識(understanding core competence) 
e) 成長志向(enhancing) 
f) システム思考(systems thinking) 
g) プロセスアプローチ(process approach) 
h) 科学的アプローチ(scientific approach to management) 
i) ひと中心マネジメント(people centred management) 
j) パートナとの協働(collaboration with partners) 
 
(2) TQMの構成要素 
TQMの構成要素には、①基本的考え方(品質、管理・マネジメント、人間尊重)、②マネジメントシステムモデル(経営トップのリーダシップ、ビジョン・戦略 、経営管理システム、品質保証システム、経営要素管理システ、リソース管理)、③方法論・手法(QCストーリー、Q7、N7、統計的手法、P7、S7など)、④運用技術(導入・推進の方法論、組織・人の活性化、相互啓発、情報獲得)など多様な側面を持つ要素があります。 
 
(3) TQMの行動原理 
TQMの行動原理には、①顧客志向、顧客中心(顧客の期待・ニーズに対する鋭い感受性、顧客価値創造・実現の重視)、②システム志向、プロセス重視 {目的志向の思考・行動(管理の考え方、PDCA)、目的達成手段への展開(計画、設計)、要因系の管理(プロセス重視、源流管理、予測と予防)、学習(真因分析、本質把握、教訓獲得、改善)}、③ひと中心 ・人間性尊重(自己実現){技術とマネジメントの補完・超越(知の創造)、全員参加(全ての要員の経営参画)、チーム、組織(個と組織のWin-Win関係)、人の弱さの克服・許容・補完(ヒューマンファクター工学)}、④自己変革 {変化の様相とその意味を知る(学習能力)、自己の強み・特徴を認識する(強み・特徴、成功へのシナリオ)、あるべき姿を認識する(競争優位要因、組織能力像)、自己を変革する(革新、異質性の許容)}があります。
 
5.ISO 9001からTQMへのレベルアップ 
 
ISO 9001からステップアップするためには、次の4つの段階的なレベルに基づいたQMSのモデルを構築し、TQMへレベルアップすることが重要です。なお、各レベルで示している項目は、各レベルのねらいとしているものです。 
 
<レベル1> ISO-QMS(ISO9001品質マネジメントシステム) 
  ・製品・サービスの品質の確保 
  ・品質=ISO品質保証(要求事項への適合能力の実証による信頼感の付与)+ISO顧客満足(顧客要求事 
   項への合致に対する顧客の受けとめ方) 
  ・ISO品質保証+顧客満足の能力の実証 
 
ISO 9001に基づくQMSそのものであり、顧客との間で合意された要求事項を満たす製品・サービスを提供できるモデルで、既存のビジネスの枠組みの維持を前提にしています。 
 
<レベル2> TQMの基盤(TQMへのファースト・ステップ) 
  ・製品・サービスのQCD(品質、原価、量・納期)の維持と改善 
  ・品質=TQM顧客満足(お客様に喜んでいただける製品・サービスの提供) 
  ・QCDの維持・改善の方法の工夫 
  ・QMSの効率的運営への取り組み 
  ・TQMへの基盤構築 
 
レベル1では、狭義の品質に焦点を当てていますが、ここではQCDすべての維持・改善を視野に入れています。顧客の潜在ニーズを満たす製品・サービス提供を目的とするとともに、QMSの効率にも注目することで、TQMへの第一歩と位置付けられるレベルです。 
 
<レベル3> TQMの品質保証(TQMへのセカンドステップ) 
  ・製品・サービスのQCDの維持と改善 
  ・品質=TQM顧客満足(お客様に喜んでいただける製品の提供) 
  ・プロセスの上流・源流での活動の重視 
  ・目的志向の行動様式。結果の深い分析と幅広い改善 
  ・QMSの効率向上 
 
顧客に提供する製品・サービスの品質という面ではレベル2と同じですが、その達成のためにプロセスの上流・源流での作り込みを重視しています。経験の深い分析に基づいて、将来起こり得るトラブルの未然防止、より効率的な目的達成、より高いレベルでの目標達成に使えるかもしれない知見・教訓を獲得してQMSに反映するモデルです。 
 
<レベル4> TQM総合質経営(JIS Q 9005に基づくQMS) 
  ・製品・サービスの質向上+企業・組織(経営システム)の質向上 
  ・顧客満足+ステークホルダー(利害関係者)満足 
  ・組織能力(技術力、マネジメント力、活力)の向上 
  ・尊敬される存在(存在感のある立派な企業)の実現 
  ・学習と革新に基づく持続可能な成功の実現(変化への的確な対応) 
 
どのような経営環境にあっても、自らの組織の特徴(強み)を生かしつつ、顧客のニーズ・期待に適応した製品・サービスを持続的に提供し続けることが可能となるQMSモデルです。 
 
2回の解説を通じて、QMSの本質を理解できたのではないかと思います。 
 
 
(福丸典芳)

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