TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第26回『当社はISO9001を認証取得し、検査もちゃんとやっているので、品質管理体制はきちんとしています』(その1) (2019-10-28)
2019.10.28
1.はじめに
20年以上も前のことですが、ある会社で品質管理課という部署がありました。そこで、どのような活動を行っているのかを確認したところ、製品の検査を行っている部署ですと回答がありましたので、品質管理をどのように考えているのかを質問したところ、「製品検査を行うことです」と回答がありました。皆さんどのように思われますか。何かおかしいですよね。業務内容から考えると品質管理課ではなく、検査課という名称であれば納得しますよね。これが品質管理課という名称であれば、品質全般に関わる活動を行うことがその役割であるということはわかりますよね。
最近、ある会社で品質管理体制はどのようになっていますかと質問したところ、ISO 9001を認証取得しており、製品の品質は中間検査と最終検査で確認をしていますので、品質管理体制は十分できていますと回答がありました。これもなんだか変ですね。品質管理体制ということがあまり理解されていないのではないでしょうか。
この二つの例からみると、
・品質管理体制=検査
・ISO 9001の認証取得さえすれば、品質管理体制が構築できている
と思っているようですね。でも、これらはいずれも誤解です。
2.検査をやれば品質が良くなるか
2.1 検査の目的
検査には、受入検査、工程内検査、出荷検査があり、その方法には、全数・抜取検査、破壊検査、目視・官能検査などがあります。これらの目的は、決められた仕様、顧客要求事項を満たしている製品になっているかどうかを確認・判断する行為です。しかし、上流工程で確実に不具合・不良品を低コストで見つける等の検査業務の質向上に関する活動は必要不可欠ですが、後工程・顧客への流出防止には効果があるものの、製品の品質そのものが良くなるわけではありません。
2.2 製造・サービス提供(適合)品質、設計品質と企画品質
品質については、次に示すように、製造・サービス提供(適合)品質、設計品質、さらに企画品質という概念があります。
・製造・サービス提供品質・・・製造・サービス提供工程で不良を作り出さない。設計の仕様通りに製造・サービス提供を行う。
・設計品質・・・企画コンセプトを実現できる設計仕様を定める。
・企画品質・・・顧客や社会のニーズ・要求に適合し売れる商品コンセプトを立案する。
つまり、売れる商品コンセプトを作り、それを実現する図面を作成し、その通りに確実に製造・サービスを提供することで品質の良い商品の提供が可能になります。さらに、良いコンセプトを作るためには、上流工程である市場調査と将来を見通した研究開発も重要な機能としてとらえることが大切です。
以上の観点から、顧客や社会のニーズ・期待に見合う製品・サービスを提供するためには、バリューチェーンとしての市場調査、研究開発、企画、設計、購買、製造、検査、販売、サービス提供(製品の引き渡し)など、いわゆる一連の品質機能が必要不可欠で、これらを効果的で効率よく管理することが大切です。
2.3 改めて、検査とは
上記2.1と2.2より、受入検査が購買、工程内検査が製造内の各工程で、そして製造の最後に出荷検査が行われて初めて販売・サービスに移行することになります。つまり、検査は良質な製品実現に必要なバリューチェーンの品質機能の「1要素」でしかないということです。
したがって、品質管理体制とはバリューチェーン全体を通した活動を行うことがその役割であることが分かります。
3.ISO 9001認証取得によって品質管理体制が構築できるか
3.1 ISO 9001のQMSモデルの本質と限界
ISO 9001は事業環境の変化を考慮して以前より2015年版では進化してきていますが、ISO 9001のQMSモデルの目的は、従来からの考え方である“品質保証+α(継続的改善)”であることに変わりはありません。しかし、これだけで、良い製品・サービスを提供することは不可能です。例えば、2.2で示した品質機能のすべてをISO 9001でカバーしているわけではありません。とりわけ、市場調査や研究開発と、商品企画の一部や販売に関する機能は、考慮されていません。また、ISO 9001にある各品質機能についても、その取り組みの深さや広さは極めて重要ですが、それは企業自身の決定・工夫にゆだねられていているので、相当な洞察をして取り組む必要があります。
つまり、ISO 9001認証取得だけの品質管理体制では、顧客や社会の潜在ニーズを発掘し、競争力ある製品・サービスの提供を通じた顧客及びその他の利害関係者の満足度の向上につなげることは難しいということが理解できるはずです。
3.2 ISO 9001の有効活用による品質管理体制の基礎の構築
しかし、ISO 9001は、良質な製品・サービス提供に必要最低限の要素や取組みを要求しているため、これを基盤として有効活用すれば、きちんとした「品質管理体制の基礎」を築くことは可能です。
その有効活用の例には、次のようなものがあります。
①QMSの構造の明確化
品質機能を明確にするだけでなく、品質機能間のインターフェースを明確にすることでQMSを構築し、これを文書化することで組織内の要員がQMSを理解できるようになり、品質管理にどのように取り組むべきかがわかるようにしている。このような活動を行った結果、自組織の特徴を考慮したQMSを構築でき、良い製品・サービスを提供できている。
具体的には、QMSの構造図とプロセスごとにフローチャートを作成し、どのような品質管理活動を行うのかを文書化している。
②品質機能の改善
ISO 9001の要求事項と各プロセスの品質機能と比較することで、そのギャップを明確にし、効果的な仕組みを取り入れることができようになり、品質管理体制が強化された。
ISO 9001の要求事項と各プロセスの要素との対比表を作成して、ギャップのある要素を明確にし、それに対してどのような手順を組み込めば有効なのかを検討し、品質機能を改善している。
③プロセスの責任・権限の明確化
製品・サービス提供において不具合や不良が発生した場合の改善の責任者を明確にすることで、スムーズな問題解決ができる体制を確立した。
ISO 9001の要求事項と各プロセスの責任・権限との対比表を作成し、責任・権限が決まっていなかった要素を明確にし、既存の責任・権限をレビューして品質管理体制の責任・権限を再構築した。
④効果的な手順の標準化を行う。
手順の標準化が進んでいなかったので、ISO 9001の要求事項を考慮して手順を効果的で効率的に変更することで品質管理体制が機能するようになった。
現在の作業手順のレビューを行うために、プロセス分析(業務機能展開)を行って、ISO 9001の要求事項と比較し、リスクを考慮して必要な手順の追加と改正を行ったことで、品質機能の改善を図ることができた。
3.3 ISO 9001認証取得への企業の取り組みの現実
しかしながら、その品質管理体制の基礎になり得るISO 9001の認証取得をした多くの企業の現状を見れば、認証維持のための形式的な取り組みが散見されます。とくに、箇条4(組織の状況)への真摯な取り組みに大きな意義があるにもかかわらず、そのことが理解されていません。
品質管理体制は、事業環境や利害関係者の要求事項の変化に対応して改善しなければ、組織の目標を達成することはできなくなるということの認識が低いため、目先のことだけに気を取られて品質機能の一部だけを改善でなく、修正のみを行っているのが現実です。
このような状態にならないためには、箇条4にかかわる要素(事業環境やQMSに影響を与える課題、利害関係者の要求事項)の変化を定常的に監視し、変化の兆しが見えた場合には、現在のQMSの構造にどのような影響を与えるのかを十分検討することが必要です。これを見逃すと、良い製品・サービスを提供することができなくなり、パフォーマンスに影響し、顧客満足度が低下する可能性が高くなります。
ところが、一度認証を受けた組織では、これらの要素に変更があっても、QMSの構造を考慮することなく維持だけをすれば十分であると考えているのではないでしょうか。このような活動をしているとISO 9001認証の意義が薄れて、最後にはISO 9001は経営に役立たないという間違った考えを持つようになります。
このようなISO 9001の本質と限界、及び企業における形式的な取り組み状況下では、ISO 9001を認証取得すれば、十分な品質管理体制が構築できているとは、とても言えないでしょう。
(福丸典芳)