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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第25回『品質管理って工場(製造)がやる活動でしょ?』(その2)  (2019-10-21)

2019.10.21

 
前回は、『品質管理って工場(製造)がやる活動でしょ?』の誤解を解くため、“品質管理とは何か”、“品質管理の発展の歴史”を通じて考察しました。このような歴史の中で品質管理における品質思想、その方法論を含む手法の拡大、発展がありました。言わば、ものの品質から、質の概念が広がったと言えます。 
 
・品質対象を製品・サービスに留めず、経営目的(例えばコスト、納期、安全などを含め)実現のための経営の中核とする考え方、言わば仕事の質を含む品質価値の拡大 
・製造等の各現場を中心の活動から、全組織レベルの各階層を対象にした活動 
・品質思想を拡大するための有効な手法としてPDCAサイクル、プロセス管理、事実による管理、重点志向、源流管理、QCサークル活動など概念、方法論の進展、など 
 
今回は、『品質管理って工場(製造)がやる活動でしょ?』の誤解を更に解くため、少し各論に入り込み「品質のとらえ方」「後工程はお客様」などの観点から考察したいと思います。 
 
 
■品質のとらえ方  
 
 
品質とは、製品・サービスを通じて顧客に提供した価値に対する顧客満足の程度と言えるものです。品質を理解するうえで、まず、顧客の要求や期待に基づく製品・サービスの実現のための2つの側面:“計画段階での品質”と“実施段階での品質”を認識することが重要となります。すなわち、前者は“実施しようとしたこと;計画が目的にどの程度合っているか”、後者は“現実に実施したこと:実施結果が計画にどの程度合っているか”です。これらの品質の側面は、一般的にはもの作りでは“設計品質”、“製造品質”とも言われています。 
顧客に満足してもらうためには、まず、顧客の要求が製品・サービスの設計にどれほど反映されているかの“設計品質”、次に、製品・サービスがどれほど設計の指示通りに合致し出来ているかの“製造品質”です。 
なお、以上では、品質の側面を単純化して2側面を中心に議論しましたが、例えば製品実現において“設計品質、製造品質”を中心に置けば、その上流には企画品質、下流には付帯サービス品質などの関連する一連のプロセスの品質があるわけであり、広がった考え方があるのも当然でしょう。 
 
また、管理の視点から言えば、目的・目標が達成できなかった場合、まず、目的・目標を達成する手段・方法・仕様化など計画段階の問題なのか、または計画通りに実施できなかった実施段階の問題なのか、どちらなのかを切り分け、それらの問題の原因究明をすることが効果的になります。 
更に、効果的な管理面からは、設計品質に代表される言わば、製造等の上流となるプロセスの“源流管理”が大切です。“源流管理”とは出来るだけ下流ではなく、プロセスの上流で管理することの有効性を意図しています。すなわち、製品・業務の流れの上流にさかのぼって顧客満足の視点から後工程の結果を生み出す原因プロセスを掘り下げ管理することにより、問題発生の根本原因を源で抑えようとする考え方です。仏教の言葉である“因果応報:発生する事象には必ず原因となる何かがある”の考え方にもつながるもので、後工程に行くほど大きな影響が出るため、現在では“源流管理”で抑えることの重要性が増しています。 
 
以上のように品質の対象は、工場(製造)の現場に留まらず、すべての機能・プロセスにあり、仕事の質そのものにもあることはお分かりの通りだと思います。 
 
 
■仕事・業務の質  
 
 
今までの考察の中でもあったように、品質管理は、品質の概念を、狭義の ものの質に留めず、あらゆる質を対象とし、拡大することによって効果をあげてきました。 
特に、顧客価値経営の目的志向のもとでは、品質の対象を製品・サービスから、工程・プロセス、システム、業務、仕事、人、組織などに拡大させると共に従来培った管理・改善活動を生かしながら発展したと言えるでしょう。 
 
業務の質を理解するうえでも、前述の“計画段階での品質”と“実施段階での品質”に当てはめて考察してみると、分かりやすいと思います。業務手順に定められている通りに実施したかどうかの程度である実施段階の品質と、一方で、業務手順が業務目的を達成できるようなものになっているかどうかの程度ある計画段階の品質があることをしっかり理解することが重要でしょう。 
ここでさらに付け加えれば、出発点である業務目的が重要となります。業務の質は、一連の各工程・プロセスの流れのアウトプットとして得られるものであり、各工程が、全体の業務の役割、目的のもと、自身の工程のアウトプットに何を要求、期待しているかを後工程の立場から検討し、自分が何をしなければいけないかの発想のもと決めれば、それらが真の業務目標につながるはずです。この結果は、品質は各工程で作り込むことにほかならならず、価値の提供先である後工程はお客様という概念にもつながることになります。 
 
 
■後工程はお客様  
 
 
私の経験では“後工程はお客様”、“品質は工程で作り込む”は、35年程前の工場の現場ではよく聞き、当時、現場では当たり前でよく認識されていました。その後、事務部門を含む全社的な大企業病対策のキャンペーンでも“後工程はお客様”が一般的に使用されるようになったことを記憶しております。 
“後工程はお客様”の概念には、品質を考える対象が、製品・サービスから、工程・プロセス、システム、業務、仕事、人、組織などに拡大するなか、品質管理の主要な要素である「顧客志向」、「全員参加」、「プロセス重視」、「改善」が含まれていると思います。 
 
顧客志向: “品質とは顧客満足度”が基本ですから、満足を与える対象は最終の顧客ばかりではなく、途中にある自分の仕事の結果の影響を受ける人々・後工程をも顧客と考えることは自然といえるでしょう。また、顧客の考え方は多様であり、かつその発想が広がれば、その対象が具体的に誰であるのかを深く考える機会を与えることになります。その結果、組織内の前工程、後工程の関係、及び直接的な顧客に留まらず、例えば、製品のライフサイクル的な視点、サプライチェーン、バリューチェーンのような一連の連鎖の発想に繋がって行くでしょう。 
 
プロセス重視: このように、後工程はお客様の考え方は、製品実現に関連する一連のプロセス、及び業務の流れなどの一連のプロセスに着眼しており、プロセス重視にも基づいています。自分のプロセス(工程)は自身が最もよく知っているわけであり、その品質(後工程に提供する価値)及びそのための管理要素(例えば、当該プロセスに関する、力量、手順、管理基準、設備等)を自身で明確にすることによって、当該プロセスの管理状況、良し悪しに対する問題意識を高めることに発展し、更に改善活動にも繋がります。 
  
全員参加: 品質、顧客満足の概念が広がり、製品実現のために関与する人々が増えるにつれ、組織を構成するすべての要員が自身の立ち位置を認識し、組織全体のために、ある一定の役割を担うよう動機付けられることが重要となります。これにより、組織の要員のそれぞれが、組織全体の価値提供連鎖の一員として組織運営に参画しているいう意識につながります。 
組織全体として効果的でかつ効率的に目的を達成するためには一連の工程・プロセスに関与する全員参加が不可欠となるでしょう。 
 
改善: 直接的な後工程を顧客と意識することにより、自分の仕事のアウトプットの質に対する自覚が高まり、結果として、作り込み段階の品質はもちろん、後工程の発生問題に対する原因を自らの仕事のプロセスの不備と捉え、これを改善していく改善意識を促進させることになります。 
 
以上述べたように、良い製品を顧客に、良い仕事を後工程に届けるためには、すべての工程、階層の人たちが自身の仕事の責任を果たすことが必要となりますが、このための出発点は、組織のひとり一人が、日頃から身の周りの業務等に対して“問題意識、改善意識、管理意識”の流れをしっかり自覚することにあるのではないでしょうか。 
 
今回、日本ラグビーの飛躍の状況も取りあげながら2回に渡り品質管理とは何か、品質の対象は、管理の対象は、またこれら概念、及び手法が拡大、発展してきたことの概説を行いました。 
現在の品質管理の概念は、日常のあらゆる活動場面でよい仕事・活動成果を得るための有効な手法としてそのエッセンスは無意識のうちに活用されていると思います。 
 
・目的志向、顧客価値志向:一連のプロセスの中の自己、後工程はお客様 
・全員参加:自律性の中でのTeam と個の尊重・調和 
・システム思考:プロセス重視、PDCAサイクル、など 
 
今回の日本ラグビーの飛躍は、勝利という目的志向の中で、全体としての質の追及に向けた単なる統制的な管理手法ではなく、全員参加、個の尊重に基づいた管理が相マッチした結果である言われています。 
これらは、まさにラグビーの精神と言われる“All for One”、“One for All”のその思想の出発点を実践したものであり、品質管理の思想と全く同一ではないでしょうか。 
 
この機会に、品質管理の基本となる思想が、日常の活動、仕事に、より身近なものとして更に生かされることを期待したいと思います。 
日本ラグビーの決勝リーグ進出に歓喜している心を抑えながら、更なる決勝リーグでの飛躍を祈りながら本稿を終えます。 
 
 
(小原愼一郎)

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