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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第24回『品質管理って工場(製造)がやる活動でしょ?』(その1)  (2019-10-15)

2019.10.15

 
今まさに、日本は“ラグビーワールドカップ日本2019”の真っただ中にあります。しかも、4年前、日本ラグビーが伝統国の南アフリカを破り、“イングランド:ブライトンの奇跡”と呼ばれたことの再現が、まさに起きています。そして、今回アイルランドを破ったその飛躍ぶりに、マスコミ等の表現も“奇跡から大番狂わせ”に変わり、さらに決勝リーグ進出をかけたスコットランドとの予選最終戦でもその努力とチーム力を発揮し、日本中が一体感、手に汗握るなか、勝利と歓喜をもたらしました。結果その評価は、“感動を与える必然の快挙”となりました。 
この“奇跡から大番狂わせ、必然の快挙”に変わった飛躍の根底には、試合:現場で勝つために関連する多くの努力があったと聞きます。日本ラグビー強化のためのヘッドコーチ、選手等の人材を含む組織体制、戦略等の立案設計、試合管理、データ収集・分析など、いわば良いサービスを提供(良い試合を行い勝つ)し、良い仕事をするための基本となる品質管理の手法が生かされていたように思います。すなわち、日本の今回の飛躍は、現場・試合(製造)のみではよい仕事は出来ないと言うことであり、例えば、試合である製造の前工程;勝つための各種戦略の立案、設計など、後工程;試合結果のデータの分析/フィードバックなどの一連のプロセスが、データに基づく管理、自律に基づく管理、全員参加、重点志向などの考え方のもと実施されたと聞きました。 
特に、ラグビーでは、その精神として“All for One”、“One for All”の言葉をよく聞きます。自身の立ち位置、役割をしっかり理解して“Teamと個”の一体化のもと目的志向で行動することの重要性を示唆しています。この目的志向の考え方は、品質管理の基本と共通するものではないでしょうか。 
 
さて、本題に戻り、このラグビーの事例からもお分かりでしょうが、今回は“品質管理って工場(製造)がやる活動でしょ?”の誤解を、いくつかのキーワードから展開し考察していきます。 
 
 
■品質管理とは  
 
 
議論を進めるに当たり、最初に“品質管理とは”を大きく整理しておきたいと思います。 
「品質管理」を端的に言えば“顧客の使用目的,要求や期待を、提供した製品・サービスがいかに満たしているかを管理すること”であり、文字通り品質+管理です。 
したがって、まず品質を議論するとき、その対象となる“顧客と製品・サービス”の2つを明確に認識する必要があります。つまり、“誰に何を”提供しているかを明らかにすることが大切になります。 
 
“誰に”とはまずは顧客のことでしょうが、それには製品を使用する人,お金を払う人、どの製品が良いかを選択する人など、多様でいつも同じ人物であるとは限りません。B to B企業であれば、設計部門や購買部門の誰が購入製品の決定に影響を与えるキーマンであるかを認識すること、また地域社会、世間の関心にも注意を払うことなど、多様な顧客の異なるニーズを認識しておくことが重要となります。 
更に、製品・サービスの提供は、組織内の“幾つかのプロセス”に基づきアウトプットされるわけであり、“後工程はお客様”、“内部顧客”という概念も忘れてはいけません。 
“何を”も、すぐに製品・サービスそのものをお客様に提供していると答えがちですが、本当に提供しているのはその製品・サービスの提供のその先にあるもの、すなわちその製品を顧客が使用することによって得られる目に見えないものを含むメリット、有効性の提供であり、“顧客価値”の提供と言えるでしょう。 
 
一方、管理を議論するとき、大切な対象としては高品質な製品のため必要とされる製品固有の技術(固有技術)と、その固有技術を活用して組織運営する管理技術の2つに分けて考えられます。これらが揃って初めて高品質な製品を安定的に顧客に提供できることになります。更に考察すれば、管理技術は言わば仕事の質に繋がるもの、すなわち、組織の全部門:製品実現の全てのプロセスに関連する基本部分であり、各部門、階層が“全員参加”で顧客価値をしっかり認識したうえで管理技術を徹底しなければ、持っている固有技術を100%有効に活かしきれないことにもなるでしょう。 
 
このように、誰に何を提供するのか、管理の対象は何かを明確にすることにより品質をより具体的に展開し、高めることが出来ます。すなわち“品質管理の活動は工場・製造現場に留まるものではなく、”顧客の概念は本来の外部顧客に加えて言わば、内部顧客(製品実現のための一連のプロセスである研究開発、マーケティング、商品企画、設計・開発、製造・サービス提供、検証、調達、販売・付帯サービスなど)も重要な対象とすべきであり、工場・製造はその一部に過ぎないこと、及びこの観点から各部門が顧客価値を理解し、多様な顧客、異なるニーズの視点があることを認識することが重要となります。 
 
以上で述べた品質管理のキーワードである「プロセス志向」「内部顧客」「顧客価値」「全員参加」などはその発展の歴史の中で出てきたもので、少しその歴史を振り返ってみたいと思います。 
 
 
■品質管理の変遷  
 
 
品質管理は当初は、安かろう悪かろうの時代における“検査重視の監視、統制を主体であったもの”から、“品質は工程の条件を明らかにしてデータに基づき工程で作り込む考え方”、“標準化、管理図、抜き取り検査などの統計的品質管理における手法等の進展”、“全員参加を志向したQCサークル活動などの人の重要性”などの流れの中で、品質管理の主な対象は製品そのものであり、かつその対象部門は製品の製造に関連する各現場を中心とした活動として展開して来たと言えるでしょう。 
その後、大きな飛躍としてTQC (Total Quality Control:総合的品質管理)、TQM (Total Quality Management)に発展しました。TQCと、TQMの違いの議論は別に譲るとして、ここでは、TQCを例にその特徴を整理したいと思います。 
TQCの考え方は、“品質経営、全員参加、改善”に集約されると言えるでしょう。組織の役割は顧客にその組織のアウトプットである製品、サービスを提供することであり、そのためには、そのアウトプットの品質を経営の中心に置くべきであること、更にアウトプットの品質を確実なものにするためには、それを生み出す一連のプロセスの品質を各階層で高めることが必要であることなどの発想に基づいています。すなわち“品質を中核とした、全員参加による改善を重視する全社レベルの経営管理手法”とも言われています。 
 
また、TQCは、お客様、品質という概念のもと、経営における品質の重要性を組織の各階層で体系的に展開するための管理の概念や有効な方法論を提供していることが大きな点でしょう。例えば、今日当たり前になっているPDCAサイクル、プロセス管理、事実による管理、重点志向、源流管理、QCサークル活動などが進展し、その有効性が実証されています。 
更に、TQC(総合的品質管理)の“総合的”には次の三つの意味があることも重要な点でしょう。第一に“組織の全部門の参加”、第二に“第一線の作業者、事務員及び管理者に加えて経営トップを含むすべての階層”、第三に“品質を中心に、原則としつつも、品質に留まらずコスト、納期、、安全などのあらゆる経営目的”を品質管理の対象としていることです。 
 
以上のように、品質管理は、日本の工業の発展を支える品質思想、管理技術、手法として大きな発展を遂げました。それは、当初の製造業の製造部門における製造工程での製品品質の管理から、生産準備、設計・開発、企画などの上流工程へ、生産技術、設計、営業、事務などの部門へ、また、製品品質だけでなく業務の質を含め、コスト、納期、安全なども管理の対象にする、と言うような拡大の歴史がありました。 
結果として、今日の品質管理は経営力の維持/強化につながる“顧客価値経営”を目指した経営手法として確立されたといえます。 
 
このように“品質管理って工場(製造)がやる活動でしょ?”の誤解は解けたのではないかと思いますが、次回は、更に品質管理の広がりの理解を深めるために「品質のとらえ方」「後工程はお客様」の観点から考察を行いたいと思います。 
 
 
(小原愼一郎)

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