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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第23回『品質の“品”は“しな”のことですよね』(その2)  (2019-10-07)

2019.10.07

 
前回のメルマガで、「品質」の「品」は「しなもの」ではなく、「そのものに備わっているねうち・品位・品格」などを意味する「品(ひん)」であること、品質管理における「品質」は、「ニーズに関わる対象の特徴の全体像」意味しており、他者に提供するすべての物品・情報・行為について、それが社会的ニーズ(顧客・利害関係者・法令等)に見合っているか否かは、全ての組織・個人にとって「根源的なテーマ」であること、しかしながら例えばサービスの「品質」課題には製品とは異なる独自の問題があり、品質管理は製造業と比較して遅れがあること、などについて考えてみました。 
 
今回は、非製造業の代表事例としてサービス業の品質管理について検討します。 
 
前回、〝品質管理という手法は製造業のものであり、サービス業にはなじまない〟という「誤解」があることを紹介しました。言うまでもなく、品質管理の仕組み・考え方は、製造業で生まれ、製造業の中で育てられたものですが、形ある製品の品質管理だけでなく、サービス業をはじめ、あらゆる組織・個人が提供する有形・無形のアウトプットを管理するための優れた方法論です。それなのに、このような「誤解」が生まれる背景には、〝自分たちが何をサービスとして提供しているのか〟、〝そこにおいて実現すべき品質は何か〟、〝どのようにしてそれを実現するのか〟を、組織として明確にできていないという問題があるように思われます。 
 
■【私たちは何をサービスとして提供するのか】  
 
前回、レストランにおけるサービスについて取り上げました。そこで提供されるサービスとは、料理そのものだけでなく、接客応対、施設のクリンリネスや従業員の身だしなみなど多様な要素で構成されています。目指すサービス品質を明らかにするためには、自分たちはお客様等のニーズ・期待に応えるために、どの要素に対して・どのように・どのレベルで対応するのかを決定しなければなりません。サービス業であるなら、当然、〝良いサービスを提供する〟という「目的」は掲げているでしょうが、では、それは具体的に、どのサービス要素についてどのような状態を実現することなのか、私が知る限りそれを「見える化」・「共有化」できている組織はそれほど多くはないと思います。 
 
品質管理とは、ニーズ・期待に応える品質を実現し続けるための方法論であり、品質管理における「管理」とは、目的を継続的・効率的に達成するためのすべての活動を意味しています。サービス業において達成すべき目的(実現すべき品質・そのために解決すべき問題など)が明らかになっているならば、そのために活用すべき「道具」(優れた考え方・手法)が品質管理の歩みの中で開発・蓄積されています。しかし、「目的」が定まらなければ「道具」を選ぶことも有効活用することもできません。言い換えれば、自分たちが何を実現するのかが明確でなければ、〝品質管理という手法はなじまない〟と思うのは当然のことでもあります。 
 
■【個々人の知識・技術に任されている】 
 
このメルマガの第二シリーズ「基礎から学ぶQMSの本質」の第8回「技術と管理のどちらが重要か(2016-3-14)」で、飯塚先生が、「日本の品質管理の歴史において、製造業以外への適用は必ずしも大成功とはいえなかった。その理由は、固有技術の可視化・構造化・体系化のレベルが低かったことにあると解釈できる」と指摘しています。 
 
「固有技術」とは、「提供する製品・サービスに“固有な”技術」、「製品・サービスに対するニーズにかかわる知識・技術、製品・サービスの設計にかかわる知識・技術、実現・提供にかかわる知識・技術・技能、評価にかかわる知識・技術・技能など」(上記メルマガより)であり、サービス業の場合、例えばサービスの設計や提供に関わる知識・技術は各自の個人技(暗黙知)で進められる領域が多く残されています。 
 
自分たちがどのような手順でサービスの設計や提供をすすめるのかが組織として確立されていなければ、例えば、教育・訓練のレベルも指導に当たる個々人によってばらつきが発生します。また何らかの問題(事故・トラブル等)が発生した場合、どのような手順で作業するのかが組織として未確立(=人によって手順が異なる)であれば、原因を正確に特定して「組織として適切な処置をとる」ことは困難です。事故の再発防止処置を確認したら、原因として「作業者の自覚や力量の不足」のみが強調され、再発防止処置として実施されるのは「教育・訓練」だけ・・・内部監査のお手伝いしていると、こんな事例にお目にかかることがあります。 
 
飯塚先生は、固有技術が可視化され、形式知として確立されていない品質マネジメントシステムは、「中身のない骨組み」であり「仏作って魂入れず」であると指摘しています。残念ながら、サービス業がISO9001認証に当たって導入・運用している品質マネジメントシステムの中には、そのようなものが少なくないように思われます。 
 
別項で述べた「達成すべき目的・実現すべき品質」が組織として確立できていないという問題に加えて、サービス提供に関わる固有技術が十分に見える化されていないという状況を放置して、品質管理のどのような手法を導入したとしても、当然のことながら十分な効果は期待できないでしょう。むしろ、貴重な資源を投下して仕事の役には立たない文書類などの「仕組み」を作るだけの逆効果に終わる危険性もあります。〝品質管理はサービス業にはなじまない〟という意見には、このような状況下での「導入・失敗体験」も少なからず影響しているのではないでしょうか。 
 
■【品質とは、品質管理とは】 
 
品質とは、自分たちが提供する製品・サービスが顧客・社会(利害関係者・法令等)のニーズ・期待と合致しているかを意味しており、品質管理とは、自分たちが実現すべき製品・サービスの品質・そのために解決すべき課題などの「目的」を定めて、“そのための効果的な達成手段を考えて,それを確実に実現する”ことでした。 
 
先に紹介したメルマガ・第二シリーズ「基礎から学ぶQMSの本質」では、品質管理の7つの原則(PDCA、重点志向、プロセス志向、標準化、事実に基づく管理、現状維持と改善、人間性尊重と全員参加)や運営管理、品質保証やクレーム処理などの方法論について詳細な解説がなされています。今回のメルマガ・シリーズ8「TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか?」も、それらの原理・方法論についての理解を深め、具体的な活用に生かせることを狙いの一つとしていると言ってよいでしょう。 
 
しかし、それらの原則・方法論が活用されるためには、当然のことながら、自分たちが提供する製品・サービスにおいて実現すべき品質とそのために解決すべき課題の明確化が必要です。 
 
ISO 9001の2015年改正では、「品質マネジメントシステムの意図した結果」が強調され、「品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする」ことがトップマネジメントへの要求事項として掲げられました。マネジメントとは、そもそも何らかの意図を実現するための行為であるにもかかわらずこの〝当たり前こと〟が要求事項として明示される背景には、当たり前に実行されるべき「実現すべき品質とそのために解決すべき課題の明確化」が必ずしもなされていない現状があるということでしょう。サービス業の場合はななおさらです。 
 
品質とは、有形・無形を問わず自分たちが顧客や社会に何を提供するのかに関わる問いであり、品質管理とは、自分たちが実現すべきことを確実・着実に実現し続けるための営みです。今回のメルマガのしめくくりに、このことを再度確認したいと思います。 
 
 
(土居栄三)

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