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メルマガ⑧ TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか?

TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第22回『品質の“品”は“しな”のことですよね』(その1)  (2019-10-01)

2019.10.01

 
今回と次回で取り上げるのは、「品質」及び「品質管理」の基本的な考え方についての「誤解」です。 
 
「品質管理」でいう「品質」とは、そもそも「品物(しなもの=製品・商品)」の「質」である。「品質管理」という考え方も、「品物」の質を管理するという製造業の手法であって、サービス業など非製造業にはなじまない・・・
こんな声を耳にしたことがあるでしょうか。私は、これまでに二度、このような意見・質問に出会ったことがあります。 
 
最初は、2004年。小売業でISO9001導入プロジェクトの事務局を担当していた時のことです。プロジェクトメンバーである店舗部門の責任者から、品質マネジメントの考え方は小売業になじまないのでは、という趣旨の意見が寄せられました。プロジェクトでの議論が進むにつれ、このような「誤解」は解けましたが、この種の受けとめは店舗部門だけのものではありませんでした。 
 
もう一つは最近の体験です。2016年から一年半、高齢者福祉事業のマネジャー対象にマネジメントシステム勉強会(品質・環境・労働安全衛生など)のお手伝いをした時のことでした。第一回目のアンケートに「品質向上という事は、福祉の仕事ではサービスの質になるかと思いますが、商品と言う物体と感情に左右される人に対してのサービスの福祉とは大きな違いがあると思います」という意見がありました。一年半の勉強会を通じて、このマネジャーを含めた勉強会メンバーはマネジメントシステムのファンになってくれましたが、スタート地点では、〝製品・商品のマネジメントの考え方を高齢者福祉に導入するのでは〟という不信感のようなものが少なからずあったと思っています。 
 
メルマガを読まれているみなさんの組織が、非製造業であったり、品質マネジメントシステムの運用歴が浅い場合には、もしかしたら、同様の「誤解」があるかもしれません。ということで、これについて考えてみます。 
 
■【品質は「しなものの質」に非ず】 
 
残念ながら辞書を引くと、例えば広辞苑には「品質:品物の性質、しながら(注:品物の性質のよしあし)」と書かれています。関連して、「品質管理:製品の品質の安定化及び向上をはかること」とも書かれており、これだけを読むと、先に紹介した意見は「誤解」ではなく正鵠を射たものということになりそうです。おそらくは「品質」という用語が、製造業で生まれ育った「品質管理」の中で専ら使用されてきたことが、辞書の記述に反映したのではないかと思われます。しかし、「品質」は「しなもの」の「質」として登場した言葉ではありません。そしてまた、「品質管理」は形ある「製品」に限定された管理手法ではありません。 
 
そもそも〝quality〟とは、何かを他と比較する際の「基準」のようなものを意味しており、品物の質に限定されるものではありません。「哲学」、「科学」、「真理」など多くの造語で知られる西周(にしあまね)は、〝quality〟の訳語として「形質」を考案しました。〝quality〟の訳語に「品質」を使用したのは1888年に発行された「和訳英字彙:附音插図」という辞書が最初ですが、そこには、「品質」の他に、「本性」、「本質」、「性質」、「特質」、「品位」などの訳語が掲載されていたとのことです。 
 
そもそも「品」という字は、口(しなもの)を三つ並べることで、区別・整理された多くのものを意味しており、転じて、しなわけ(類別)やものの値打ちを意味するようになったとのことです。従って、「品」には大別して、「しな、しなもの(例:商品・物品)」という意味と、「そのものに備わっているねうち、ひん(例:人品・品位・品格)」という意味とがあります。 
 
ついでに、「質」とは、「鼎(てい)〈かなえ〉」の省略形である「貝」と、二つのおのを並べた形の「斦(ぎん)」とから成っています。かなえにおので文字を刻むことから、誓い・保証の意を表し、転じて、「もと、もとになるもの、ものの内容・中身・実体」とか「生まれつき、もちまえ、たち(例:資質)」などを意味するようになったとのことです。 
(語源については、「新字源(角川書店)」などを参考にしています) 
 
つまり、〝quality〟を日本語に翻訳するにあたって、「そのものに備わっているねうち」を意味する「品(ひん)」と「内容、中身、実体」などを意味する「質」という二つの言葉を重ね合わせて「品質」という訳語が作られたのです。「品質」の「品」とは、「しなもの」に由来したものではありません。 
 
■【ニーズ・期待をどの程度満たしているのか】   
 
次に、品質管理における「品質」が何を意味しているか、ISO9000シリーズに即して考えてみます。 
 
すでにおなじみとは思いますが、ISO9000:2015(品質マネジメントシステム−基本及び用語)では、品質を「対象に本来備わっている特性の集まりが,要求事項を満たす程度」と定義しています。ISO9000の「対象」とは、「認識できるもの又は考えられるもの全て」であり、「特性」は「特徴付けている性質」、「要求事項」は、「明示されている,通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている,ニーズ又は期待」と定義されています。これらを踏まえて言い換えるなら、「品質」とは、〝あるもの(有形・無形を問わず)について、顧客・利害関係者・法令等のニーズ・期待をどの程度満たしているかを捉えたもの〟ということになります。 
 
従って、当然のことながら「品質」は有形の「製品・商品」に限定されるものではありません。また、「品質」は事業者が提供する製品・サービスに限定されるものでもありません。企業組織が供給する製品・サービスだけでなく、行政や非営利組織が提供するサービスなども含め、すべての組織や個人が他者に提供するすべての物品・情報・行為等について、それが社会的ニーズ(顧客・利害関係者・法令等)に見合っているか否かは、最初に問われるべき問題です。「品質」は、全ての組織・個人にとって「根源的なテーマ」に他なりません。 
 
このメルマガの第二シリーズ「基礎から学ぶQMSの本質」の第1回「品質と経営」(2016.1.26)で金子先生は、品質の定義の意義について次のように解説しています。 
 
「このような品質の定義には,実はさらに別の深遠なる意味が隠されています。それは,品質の良し悪しは外的基準で決まるということです。商品・サービスを提供する側ではなく,その受け取り手側の判断基準によって決まるということです。これは暗に,商品・サービスの提供にあたって行う必要のあるすべての企業活動は,外的基準をいかに満たせるかという目的のためになされるべきである,ということが示唆されています。 
自分の都合のよい価値観でなく,目的に照らして自分の活動が妥当かどうか判断するという行動様式を推奨しているのです。」 
 
■【サービス業における品質課題】  
 
とは言うものの、サービス業など非製造業の品質を考える場合には、製造業とは異なる「難しさ」が伴います。製造業であれば、顧客に提供するものは「製品」であり、実現・解決すべき品質課題は「提供する製品がニーズ・期待に応えるものであること」です。では、例えばレストランの品質課題は何でしょうか。 
 
〝提供する料理(味・外観)がお客様のニーズ・期待にかなうものであること〟はもちろんですが、それだけではありません。接客応対が親切・丁寧であるか、食器やテーブルなどは料理にマッチしているか、料理が提供されるまでの時間は適切か、施設内のクリンリネスは行き届いているか、従業員の身だしなみは清潔か、食品安全はクリアできているか ・・・ などなど、自分たちが提供しているサービスを構成する要素は何かを特定するとともに、それらの要素に対して、「顧客・利害関係者・法令等のニーズ・期待は何か、自分たちはそれをどのレベルで実現するのか」を明らかにして、それを確実に実現し続けるための仕組みを確立・実施・維持することが求められます。 
 
問題はサービスの構成要素の多さだけではありません。「サービス」には「モノ」のような形がなく、あるべきサービス品質を物理的特性として設定・測定することが困難であり、〝顧客がどのように受けとめるか〟に基づく基準設定が求められます。また、「サービスの生産(提供)」プロセスが、そのまま「顧客によるサービスの消費(享受)」プロセスとなるため、サービスは、「事前の検査によってよいサービスだけを選別してお届けする」ことも、「繁忙期に備えてサービスをストックする」こともできません。さらに、サービスは「人」による影響が大きく作用します。例えば、接客サービスの場面で、同じ「動作」・同じ「言葉」で来客対応したとしても、「サービス提供者」や「受け手(お客様)」が異なれば、結果としてお客様が受けとめる「サービスの品質」には「違い」が発生しがちです。 
 
以上のことから、サービス業における「品質」は〝人という要素〟に負うところが大きく、製造業と比較して品質管理のための仕組みづくりは遅れています。しかし、いま、肝心の「人」という要素について、担い手の世代交代、人手不足、要員の外部化などの変化が急速・大規模に生じています。人の力に負うところが大きいかサービス業だからこそ、品質管理の仕組みを確立できなければ、変化に対応することは困難です。 
 
次回のメルマガでは、サービス業を対象として、品質管理について考えてみます。 
 
 
(土居栄三)

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