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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第21回『失敗の分析? 過去を振り返っても暗くなるだけじゃないか!』(その2)  (2019-9-24)

2019.09.24

 
前回のメールマガジンでは、人間は誰でも失敗が付き物ということを受け入れたときに、同じ失敗を繰り返さないための知恵を育むほうがより賢明なことを述べました。 
今回は、失敗を分析し、再発防止・未然防止へつなぐにはどうしたらよいかを紐解きます。 
 
致命的な失敗には至りませんでしたが、初号機「はやぶさ」が複数のトラブルに見舞われ、満身創痍の様相で地球に帰還した姿は感動を呼びました。もし失敗ならばその後のプロジェクトが立ち行かなかったとも言われています。 
先代「はやぶさ」の経験を活かし、イオンエンジンやアンテナなどに改良を加えた後継機「はやぶさ2」が宇宙の起源を探る糸口とロマンを携え地球への帰路に就こうとしています。 
帰還時の着地点は先代回収の経験を活かし、前回と同じオーストラリアの砂漠地帯に決まったようです。 
 
宇宙開発では、辛く苦い、2度と繰り返してはならない事故もありました。 
1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発し、一般市民として初めて選ばれた高校教師と6名の飛行士が尊い命を失いました。 
打ち上げ前日に O リングが低温のときのシール性能を問題視した技術者が打ち上げ中止を勧告したにもかかわらず、技術担当副社長は「技術者の帽子を脱いで、経営者の帽子をかぶりたまえ」という経営者の指示を拒めませんでした。そして、大惨事が引き起こされました。 
 
チャレンジャー号事件の多方面からの分析は、組織の中の一人の人間の役割に目を向けさせ、アメリカの技術者倫理の再構築を強く促しました。そして、失敗を防止する重要要素に技術者倫理を位置付け、技術者倫理を訴求する教訓として今日に引き継がれました。 
 
失敗を起こさないように事前に対策を講じたいものです。 
「失敗しないように、前以て用意をしておくこと。」(広辞苑)を意味する「転ばぬ先の杖」ということわざもあります。転んで怪我をする前に体を支える杖を準備するなど、様々なリスクに対して用意周到な構えを期する見方です。 
 
これに通じる見方として、未然防止という視点があります。 
未然防止は、実施に伴って発生すると考えられる問題をあらかじめ計画段階で洗い出し、それに対する修正や対策を講じることを重視する思考であり、管理における予測と予防という概念につながります。 
 
しかし、経験していないことに端を発する問題を事前に防止するのは困難さを伴うのが実際です。では、どう行動するのが合理的でしょうか? 
 
品質管理における問題解決では、起こった問題に対して適切に対応すると同時に、今後起こりそうな類似問題に対処するための教訓を得て、管理のレベルアップを図ることに努めています。 
 
起こった問題ではなく、起こりそうな問題を扱うことを未然防止と捉えれば、未然防止は基本的に従来の問題解決と同様の対応で可能ではないかと思い至ります。 
 
原因分析は観察 → 仮説 → 検証 → 一般法則化のサイクルで物事の理解を深めていく科学的アプローチが重要になります。実務的には、問題発生状況の把握、問題発生メカニズムの解明、問題への対応のための次の進め方を参考にしてください。 
 
a 問題を発見・特定します。そして、問題に関する様々な事象を観察し、状況把握します。何が起きているのか、何が事実で、何が推測かなど注意深く調査し、問題に関する実態の状況把握に努めます。 
 
b 因果関係を考察します。状況把握の結果をもとに問題が発生する原因・理由について論理的な因果関係の連鎖を整理します。 
 
c 事実に基づく論理的思考により問題発生の想定メカニズム(仮説)を設定し、いつ起きていつ起きないか、論理矛盾はないか、見落としはないかなど因果関係を検証します。問題発生のメカニズムを想定しますが、原因を決めつけず、起きている事象の実態や特徴を把握します。 
 
d 問題発生のメカニズムの全様を考察し、因果関係の連鎖のどこを断ち切れば問題発生を防げるか、どのような連鎖に誘導して落ち着かせるのがよいかなどを解明します。 
 
e 検討している対応策の効果,影響(例えば、副作用、副次効果など)、その対応策に必要なコスト・投資などを評価し、実現可能で合理的な対応策を確定します。決して原因をすべてつぶせという考えに陥らず、できないこと・費用対効果がよくないこと・副作用の大きなことなどには対応すべきではありません。 
 
ある建設会社は設計施工した事務所ビルの定期検査時に窓隅部に微細なヒビを発見しました。対象物件を洗い出して調査した結果、窓形状でヒビ発生度が異なることに気付きました。 
シミュレーションすると窓の面積と縦横比の条件によって、地震やコンクリート乾燥収縮などで窓枠隅に力がかかるとヒビ発生が顕著になり、実験でも検証しました。検討結果からヒビ割れを防止する補強と、設計時にヒビ誘発目地を設けて防水処置する標準に改訂しました。また失敗モードとして知識データベース化してFMEAを見直し、技術者教育や設計審査対象にしました。 
失敗に至ったメカニズムを考察したこの事例は再発防止・未然防止に役立ちました。 
 
個々の発生頻度は低いものの、あらゆるところで起こりそうな問題の場合、モグラ叩き的な対応に陥りがちです。 
しかし、断片的に見える事象も偶然に起こっていることは稀で、それぞれの深い理由を把握し、失敗に至るメカニズムを整理すれば、起こりそうな問題に対しても相当程度まで予測可能な領域に踏み込めるはずです。 
 
問題を予測して未然防止するには、過去に発生した問題を類似性に基づいて整理し、いろいろな状況で汎用的に適用可能な共通的なものにまとめ上げて活用する方法が役立ちます。 
その方法として「未然防止型QCストーリー」という改善手順が提唱され、改善手順に合わせて次を含む7手法が推奨されました。 
 
・製品・サービス/業務/設備・機械の設計・計画を目で見える形に書き表すためのプロセスフロー図/機能ブロック図。 
 
・過去の失敗を収集・整理するための失敗モード一覧表。 
 
・失敗モード一覧表を適用し、起こりそうな失敗を洗い出すFMEA。FMEAを上手に活用するには、発生し得る失敗モードとその失敗モードの発生原因と影響連鎖のメカニズムに関する深い知識を持っていることが求められます。 
 
・洗い出された失敗について、対策の必要な失敗を明確にするためのRPN(危険優先指数)。 
 
未然防止型QCストーリーは提案されて日が浅く、浸透にしばらく時間を要しそうですが、失敗を味わった先達の問題解決の苦い経験を反面教師とした貴重な知見を体系化し、再発防止・未然防止を図っていく有用な改善手順として期待が持たれます。 
 
2回にわたるメールマガジンで、人間である限り失敗は避けられないという認識に立ち、失敗を貴重な経験と捉えて深く分析し、再発防止・未然防止へつなぐ術を紐解きました。 
未来はわからず、なるようになるのだから過去の失敗を振り返っても役立たないし、暗くなるばかりという意見は熟慮が足りないことを理解していただけたでしょうか。 
読者の皆さんにメールマガジンが役立つことを願ってやみません。 
 
 
(村川賢司) 

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